番外 No.3 我家・帰宅
ベルの家から我が家に帰っている森の夜道。俺は整備されていない獣道をゆっくり歩きながら思いふけっていた。
静かな所にいると、どうにもいろんな事が考えられる。
「あ、カーミラとユウキに疑似人格達のこと話してないな」
真っ先に思い付いたのがこれだ。
もう2週間ほどもパーティーを組んでいる。しかし、彼女らの前で見せた能力は〈影魔法〉と〈窓〉の探査能力だけだ。
過去については俺は召喚された人間だ。この世界での過去なんてある筈もない。
なので、過去の話は自然と避け続けてきた。
だが疑似人格については俺がこっちに来てからの出来事だ。彼女らがベルを紹介してきたように、カーミラ達に紹介しても良いかもしれない。
余談だが、疑似人格の4人も後日、筆記試験だけ受けてC級に上がっている。
最近では二人一組で依頼も受けているようだ。
既に顔見知りになった門番さんに、軽く挨拶しギルドカードを見せて門をくぐる。
まだ開いていた茶屋で紅茶の茶葉といれる為のセットだけ買い、本来の家路に戻る。
さまざまな店のショーウィンドウに飾られている品物を眺めていると、あっという間に家の前までついてしまった。
品揃えが日毎に変わるような店もある。
そんな所もあるので、店先で売り出されている物はいくら見ていても飽きない。
家の表側には物々しい門が設置されているので、裏口にある使用人用の入り口から入る。
表から入ると数メートルの門を開け、家の面積より大きい庭を突っ切らなければならない。
一言で言えば、めんどくさい。
それに比べて裏口は庭と家の距離が短く実用的だ。
しかしその分セキュリティは表と遜色無い程に固めている。
「お帰りなさいなのです!!」
リビングまで行ったとき、まず最初に会ったのはシェマだった。
彼女は俺に気付くと花のような笑顔を咲かせて駆け寄ってくる。
丁度いい位置に頭があったので思わず撫でてやると、にへら~と満足げに微笑む。
先に言っておくが俺は少女愛者ではない。
しかし、彼女につられて頬が緩んでしまったのは仕方ないと思う。
シェマと他愛の無い会話をしながらキッチンに行くと、エプロンを着けて料理をしているヒースがいた。
その立ち姿はたった2週間とは思えないほど様になっている。
声で俺と分かったのだろうか。こちらに顔を向けずにヒースが話しかけてくる。
「あ、仁さん帰ってたんだ。もうすぐ晩御飯出来るけど食べる?」
「先に風呂入ってくる。その後にまた頼む」
「は~い。じゃあ、出たら教えてね。暖め直すから」
このごろ、調理はヒースに任せてばかりだ。1日くらい依頼を休んで家事をするのも良いかもしれない。
不意に庭を眺めると、スグロ、ジャッカ、プロブラン、ラブリアルの4人で試合のようなものをやっていた。
大まかには、プロブランとラブリアルが武器で打ち合って、スグロとジャッカが助言をするような流れのようだ。
言ってしまえば何だが、疑似人格達の学習能力は高い。スキルに頼っていない俺の処理能力とほぼ同等だ。一度は通用しても次からはほとんど通用しない。
だが、指南役には最適だ。なぜなら教える人の癖も学習して合わせて教える事が可能だからだ。
多分、今のプロブランとラブリアルの二人ならあの盗賊団長に勝てる。ギルドでも上位に食い込むことも出来そうだ。
これなら俺たちがしばらく離れていても心配無いだろう。
風呂場に着いた俺は、シャワーで汗と狩った獲物の血を念入りに流し、体を拭く。
いつの間にかタオルが置かれていたが、この屋敷で働き始めたゲンら3人組のお陰だろう。
最近では俺と疑似人格達は依頼で外に出ている。
そのため、家の事はプロブランと3人組に任せているのだ。
プロブランに任せていたら、3人組はどんどん家事を憶えていき、簡単な挨拶も出来るようになっていた。
彼は元より交渉関係の仕事や団長の世話は全て担っていただけあって、説明が上手いのだろう。
さて、夕食が終わった後にでもカーミラ達のことでも話すか。
「一度、俺が一緒に依頼をこなしている仲間を招待したいんだが良いか?」
全員が揃ったリビング。
各々が好きなことをしている中で、俺は切り出す。もし、否定的な意見が出るようなら止めるつもりだ。
まず返事をくれたのはヒースだった。
「何時か言ってくれたら料理とか用意しとくよ~」
「どんな人が来るのですか? とっても楽しみなのです!!」
「私は言われた通りにするだけです……」
既にシェマはカーミラ達が来るものだと思っているようで、目を輝かせている。
反対に、一緒にカルタのような物で遊んでいたゲンら3人組は中断されて我慢できず、今にもシェマに飛び付きそうだ。あ、飛び付いた。
苦無と大太刀の手入れを兄妹揃ってしながらジャッカは答える。彼女は冷めた返事だが肯定的な意見ではあるようだ。
……というか、何でリビングで武器の手入れしてるんだ?
その後に、全員から聞いてみても反対はされなかった。
「じゃあ、明日の帰りにでも呼ぶからよろしく頼む」
こうしてカーミラ達を呼ぶことになったのだった。