No.33 二人・秘密
ピロン
[レベルが上がりました]
霧名 仁導 Lv25 → Lv39
[双霊鎌召喚.使用可能となります]
レベルアップの通知を受け取りながら、ヨトゥンの骸を :道具箱に収納する。
隣では文字通り口が開いたまま塞がっていない2人がいる。
「流石にちょっと疲れた。休ませてくれ」
「ねえ、最後の技は何なのよ!? 予想してたのより何倍も強いじゃない……」
「私もここまでとは思いませんでしたわ」
「ホントにそれよ。私でもSランクを1人で倒すのは難しいのに……」
ユウキの方は多少驚いた様子だったものの、無表情は崩していない。
対してカーミラは何とも言い難いといった顔で捲し立てている。
「これで俺の事は信用できたか? 安心して俺に頼ってくれ」
「分かりましたわ。それに、早く依頼をこなしてギルドに戻らないと、日が暮れるまでに帰れませんわよ」
「そ、それだけは止めてっ」
突然、俺の方に来て袖を掴む。
先程とは打って変わって恐怖を顔に滲ませるカーミラ。
心なしか目も潤んでいる様に見えた。
「そういえばお伝えしてませんでしたね。この通りカーミラは夜、と言うより夜の虫が大の苦手なんですの」
「だって……」
「大丈夫だ、野宿するつもりはさらさら無い。もし依頼がこなせなくても違約金でも払って町に帰ればいいさ」
俺だってせっかく家を買ったのに、野外で寝るのは嫌だ。特に今回は、ヨトゥンとの戦闘もあって疲れているしな。
「そうと決まればさっさと終わらせますわ。私からやりますので、後ろから見守っていてもらって結構ですわ」
「ああ、分かった。ケガはしないように気を付けろよ」
「フフッ。当然の事を言わないで下さる?」
「何なら私の分もやってくれても──」
「無理ですわ」
「……はぁ~い」
俺はマップでジャイアントの位置を調べてユウキに教える。
彼女は俺たちがやってくる前に倒そうとでも思っているのか、カーミラの全速力より速く走り出した。
これは俺がカーミラに合わせながら追いかけていたら、絶対に追い付けないだろう。カーミラの全速力がユウキより遅いことを見越しての、彼女の最速。
仕方なくカーミラを背負い、彼女に負担を掛けないよう細心の注意を払って走る。
カーミラも最初は抵抗していたが、俺の意図を理解したのか大人しくなった。
「──!? 何で私に追い付けて……なるほど」
「それ、本気じゃないだろ。もっと出してもいいんだぞ?」
「どうなっても知りませんわよ」
ユウキは挑発的な笑みで、さっきよりも数段速く駆け抜けていく。
◇ ◇ ◇
そこは、黒だった。
正に景色が無いと形容するに相応しく、何人たりとも踏み入れることが叶わない場所だ。
かろうじて映るのは床と2つの人影。そして、人『らしき』何かであった。
『らしき』と例えたのは、それは姿形ははっきりしているが、全体が透けているからだ。
“何か”はそれを意に介する事もなく、問いかけた。
いや、問いかけるという表現は適切ではない。頭の中に逃れようのない思念を直接浴びせると言った方が正しいだろう。
『進捗はどんな感じ~? 彼はやっぱり強いねっ。君たちじゃ倒せそうもないじゃん。で、傷だけでもつけられそう?』
“何か”は大袈裟すぎる身振り手振りを交える。
この何かとは裏腹に、気だるげに話し始めるのは黒髪の少女だ。
「ムリよムリ。あんなの相手にしてたらいくら命があっても足らないわよ。アンタの事だから見てたんでしょ」
『当たり前じゃん♪ そんな面白そうなの見逃したら損だって』
虚無だった空間に仁導がヨトゥンを仕留めた瞬間。
その映像が写し出される。
「こんなデタラメな強さはアンタと師匠除いたら、久しぶりに見たわよ。まあ、Sランクの冒険者とか大国の近衛騎士ならゴロゴロいるんでしょうけどね。けど、私でも相手にならないと思う」
『別に、いいんだよ』
彼女が言い終えたとき、“何か”から発せられるのは怒気か殺気か。はたまた両方かは誰も知らない。
しかし、もう1人の少女を眺めながら冷酷な言葉を放つ。
『やらなくてもいいんだよ? でも、逆らったらその子がどうなるか、分かってるよね?』
「……ああ、もういいわよ!! 弱らせて連れてくればいいんでしょ!? やってやるわよ」
『うんうん、君はそれで良いんだよ~。時間はそこまで気にしてないから、思う存分頑張ってね。カーミラ、ユウキ』
2人の人影がたった1つだけある光から出ていく。
『ああ、楽しみだなぁ…… 早くおいでよ、仁導名霧くん。2人と一緒に殺してあげるからさ♪』
ユウキはカーミラの会話をよく遮りますねー