No.29 提案・同行
「その依頼、私たちも連れていってほしいんだけど良いかしら?」
突然、話しかけてきたのは2人の少女だ。2人ともそこそこ良い女性用の装備品を着けている。
だが連れていってほしいとはどういうことだろう?
「別にそれは構わないが……理由だけは聞いて良いか?」
「報酬が高いからよ。私たち少しお金に困ってて、纏まったお金が必要なの。私たちはまだE級だけど、アンタが居ればその依頼を受けられるでしょ」
辻褄は合っている。
ギルドのルールの中に『依頼と同ランクの冒険者が居ればパーティーメンバーも受けられる』といった感じの物が─細かい条件付きだが─あったからルール的にも大丈夫だ。
ランクはE級らしいが、もしもの時は俺がなんとかするか。
「分かった、いいぞ。今は金も必要はないから全部譲るぞ」
「え!? 確かにお金は欲しいけどそこまでして貰うのは気が引けるというか……」
「そうか? じゃあ、お前らが主導して依頼をこなしたらいい。危なくなったら手助けはするから。ランクの通りそこそこ強い自負は持ってるからな」
彼女は数秒唸った後で「……アンタがいいならそれでよろしく頼むわ」と静かに呟く。
そうと決まればギルドの受付にパーティー申請の紙も出さないといけないな。さすがに1人で行くのも味気なかったので嬉しくもある。2人はさっさと向こうに行ってしまった。
あと歩き方を見て気付いたが、今まで話していなかった1人は男……なのか?
全体的な雰囲気は少女のものだ。しかし大まかな骨格やそれゆえに仕方のない動き、無意識の仕草が男性と似通っているようにも思える。
まあ、今考えても意味ないな。
「そういえば、お前らの名前は何て言うんだ? 考えてみたら名前知らないからパーティーの申請書が書けないんだよな」
「あっきれた。普通名前も知らないヤツとパーティーになろうとする? むしろ申請が無かったら森まで直行しそうだったわよ」
「うぐ……」
否定できないのが地味に辛い。
「まあ良いわ。私の名前はカーミラよ。で、こっちにいるずっと無言だった彼がユウキ」
「……やっぱりそいつ、男なんだな。女性用の服装だったから俺の見間違いを疑ったくらいだ」
いわゆる、女装が趣味なんだろうか?
当の本人は友人にバラされたからか、はたまた俺に見破られていたからかは分からないが目を見開き驚いている。
確かに顔はかなり中性的、いやむしろ女よりだ。仕草や歩き方もかなり様になっていた。服装も相まって女性としてしか見られていなかったのだろう。
ギルド内の生活音を背景に時間はゆっくり進んでいる。俺はペンでパーティー申請の紙に全員の名前や期限、受ける依頼を書き込んでいく。
そんな中で不意に、ユウキが声を発する。高く澄みきっている美しい声だった。
「なぜ、分かったのですか。ずっと細心の注意は払っていたはずですわ」
「俺も初めは分からなかったぞ。けど、よく見れば骨格とか変えられない場所もある」
「そう……ですか」
俺にはユウキの顔は見えていない。だが、見破られていたことへの落胆……だろうか。少なくともそれに似た感情が声に出ていた。
そんなに自信があったのなら、気付く人が居ると経験になっただろうか。まあ、歩く姿を見るまでは俺も気付かなかったわけだが。
「パーティーの申請終わったぞ。ユウキ、カーミラ、これからよろしく頼む」
「こちらこそ、お願いするわ」
そういえば、一番大切なことを忘れてたな。
それはお互いの戦力だ。
パーティーを組むにしても、まずは戦いかたを知らないことには戦略戦術も考えられない。
「後からお前らの実力を見るために、軽く技を見せてもらうが良いか?」
「ええ、分かったわ」
こうして俺たち3人は臨時パーティーとなって森へと入っていった