No.23 魔猪・依頼
俺は状況を確認するため、馬車から出て周りを一望した。
なお、ジャミレスさんには馬車を止めてもらっている。動きながらの戦闘は難しいからな。それに、敵を刺激してしまうかも知れない。
まず確認できたのは前方に3メートルほどの猪がいること。マップで確認すると、やはりと言うべきか、この辺りで一番強い魔物のようだ。そして、シェマがこの前買いそろえた装備で相対しているな。
振り返ると後方には1メートル近いクレーターが出来上がっていた。
中心部にはまだ攻撃の痕跡が残っていそうだ。とりあえず解析だけはしておくか。
[解析が終了しました] [解析結果は〈闇属性魔法:ダークランス〉+〈スキル:恐怖〉です]
「あの猪、魔法を使えるのか」
「うん。そうみたいだね~。私も始めはビックリしちゃったよ。いくつか撃ってきたけど、さっきの一発以外はシェマが全部弾いてたよ」
しれっと合流していたヒースがそう伝えてきた。まあ、そのままアレが直撃したらこの馬車は木っ端微塵だっただろうからな。シェマには感謝だ。
「で、あの猪の魔物はどうするの?」
「まずはジャミレスさんに指示を仰ごう。俺もある程度意見は言うが、最終的に行動を決めるのは依頼主だからな」
「りょーかい。じゃあ呼んでくるね」
彼女はなるべく足早にジャミレスさんを呼びに行った。俺はその間に戦闘を分析しておくか。どんな行動をするにしても必ず役に立つからな。
シェマは猪の魔物が撃った魔法を、魔力を纏わせた短剣で馬車に当たらない方向に逸らす。
これは、ダガーに体内の魔力を注ぎ、それを一気に放出しているようだ。昨日の魔力操作を短剣に応用しているのだろう。
対して猪の魔物は、魔方陣を使い展開した5発ほどのダークランスを毎秒シェマに撃ち込んでいる。
ここで気になったのは魔方陣だ。試しに解析してみると、空気中に散っている魔力を魔方陣で直接魔法に変換している事が分かった。
これからも使えそうなので :瞬間記憶で覚えておこう。ついでに、魔方陣も解析で内容を調べておく。
おっと、もうジャミレスさんが来たようだ。
「あの魔物は……今すぐ逃げましょう」
「……一応理由を聞いても良いか? 参考までに言っとくがアレならシェマでも勝てるぞ?」
第一声が撤退宣言とは驚いた。まあ、ジャミレスさんが言うほどだからそれなりに意味はあるんだろう。
シェマが勝てると知って僅かに瞳が揺らいだが、逃げる意思は変わらないようだ。
「確かに今なら勝てるかもしれませんね。あの魔物はアンデットボアと言って、名前の通り一度死んだらアンデット化するのよ。しかも復活時に不死性や防御力、攻撃力が跳ね上がるおまけ付き。あのアンデットボアがそうなったら……間違いなくS級相当ね」
なるほど、だからこその逃走か。しかし、アンデット化か…
S級相当なのはちょっとキツそうだが、アンデット化するのなら問題ないな。ならとるべき行動は一つだろう。
「勝てるぞ。今回の話を聞いて確信した」
「いや、さっきのは忠告であって安心する要素は無かったでしょう!?」
まあ、普通はそうだろう。両方が相手が強化されるって情報だったしな。しかし、俺たちから見れば弱体化してるんだよ。
「アンデット化するんだろう? 俺たちには秘策がある……だけではダメだよな。タネを明かさないとダメそうだし先にばらすが、シェマは聖魔術。つまり浄化の力を使える。そっちは傷1つない素材、俺たちは追加報酬。WinWinだ」
「うぃんうぃん?」
あ、この世界では英語はないんだった。
「お互いに利害が一致してるって意味だな」
「……分かりました。あなたに追加で『アンデットボア討伐』を依頼します。報酬は……前回の盗賊団、アンデットボアの討伐、性格は私が問題無いと判断しました。C級冒険者になるための推薦状なんてどうでしょう?」
その報酬は後々説明が要りそうだな。報酬に関しては達成したら決める形でも良いだろう。その旨を伝えて本題に移ろう。
「それは後でじっくりと。今は獲物の討伐だ」
もし、シェマが失敗しても俺がいくらでもカバー出来る。
俺はシェマに今回の話を伝えるため、激戦を繰り広げている彼女の元へ走っていった