No.11 奥様・依頼
集合場所は商店街の中央にある、噴水の前だった。やはり噴水広場はどの世界でも待ち合わせに使われるらしく、数組のカップルが甘い言葉を囁きあっていた。
依頼主を探しているとすぐに見つかった。と言うより相手側から声を掛けられた。
「私はジャミレスと言います。あなた方が今回の依頼を受けてくださった方でしょうか?」
「はい、そうです。あなたが依頼主様ですね。私は霧名仁導と申します。本日はよろしくお願いしますね。後ろの四人は同じく依頼を受けたヒース、シェマ、スグロ、ジャッカです」
「「「「よろしくお願いします」」」」
4人が挨拶をすると彼女は優しく微笑み、自己紹介を始めた。
「よろしくお願いしますね、皆さん。改めて、私の名前はジャミレス・トバイアンです。こう見えても貴族なんですよ? いろんな人と関わりたいから依頼を出しているんだけど、今回は受けてくれてありがとうね」
何と、貴族だったのか。少し驚いた。
「さて、それじゃあ買い物をするとしましょうか。この辺りで売ってるものには詳しいからどんどん聞いてちょうだい」
「分かりましたなのです!!」
真っ先に反応したのはシェマだ。見た目と精神年齢は同じくらいなのか、移動中も周りにあるものに興味津々だったからな。いろんなものを見て知りたいのだろう。
「あら、可愛い子ね! じゃあ行きましょうか」
と言ってせっせと2人で行ってしまった。その後を三人でしっかり追いかける。そして、追い付いた頃には二人は宝石店へと入り説明をお願いした所だった。
「これは何なのですか?!」
シェマは右に深緑の、左に藍色の少し濁った石を持っていた。
「それは……ティオー鉱山で採れたエメルドとサフィーアの原石ね。あの鉱山はかなり上質なのが採れるからオススメよ。う~ん、あの辺りに飾られている石が質がある程度良くて安いと思うわ。行ってみましょう!」
「はいです!!」
皆さんお分かりだと思うがエメルドはエメラルド、サフィーアはサファイアの事だ。少しずつ名前が違うのは異世界感を出すために勇者が意図的にやったのだろうか?
あの2人、また行ってしまった……
そんな2人をはた目にスグロが宝石を眺めながら、割りとどうでも良さそうにボソッと呟いた。
「俺は装飾品なんて安くて綺麗なら、どんなのでも良いと思うけどな」
その呟きにすぐさま反応したのはジャッカだ。その手には高価そうなネックレスがあり、興味深そうに眺めている。
「そんなことありません、兄さん…… 女性にとっては自分を飾るものだからこそより綺麗で高いものを付けたいんですよ…… ねえ、ヒースさん?」
「!うん、そうだね」
ジャッカの突然の振りに少しばかり驚いたようだが、淀みなく答えるヒース。
ん? ちょっと待て。何かさっきの会話で引っ掛かるな……あ、なるほど。
「スグロとジャッカって兄妹だったのか? すんなり兄さんって言ってたから、全然気付かなかったんだが」
「ああ」
「そうですが……」
何てことないように答える2人。思わぬところで新事実が発覚したな……
こんな事をしていてまたシェマとはぐれたので、マップで確認して合流する。
「どうかしたのです?」
シェマが心配して俺たちに問いかけてくる。そこへスグロがシェマの持つ買い物袋をしれっと代わりに持ちながら「何でもないぞ」と返している。
この後は薬屋に行き薬草ならヤンクロット平原産が良いとか、この辺りの武器屋ではラガレゾー店製が最も安く、マンデース店製が質が良いと教えてくれた。
終いにはジャミレスさんが経営する店の招待状を「楽しませてくれたから」ということで渡してきた。これには打算的な意味がありそうだが、ありがたく貰っておこう。
店を回っている内に日が暮れ、依頼終了の時間が来てしまった。そこへジャミレスさんが質問をしてきた。
「皆さんは来週から予定がありますか?」
「ないなのです!!」
シェマが確認もしていないのに真っ先に答えた。事実無いから口は挟まないが。
ジャミレスは俺たちの方を見て「大丈夫?」と目で問い掛けてくるのでこちらも「大丈夫です」と返す。するとジャミレスさんは、ほっとした様子で提案を持ちかけてきた。
「では、また来週にあなた方へと依頼を出したいと思っています。それは『ルセイアン王国までの護衛』です。お願いできますか?」
何と、彼女は俺たちに直接依頼を出してきた。理由は聞いておくか。
「なぜ、俺たちを指名するのでしょう? 護衛ということはそれなりに実力がないと勤まりませんよね。理由をお聞かせ願えますか?」
「あら、私はこれでも人を見る目はあるつもりですよ? 私はあなた達が相当な実力者だと思っています。特に仁導さん、あなたはね?」
まあ、確信を持っているのなら問題無いだろう。俺の考え出した結果は──
「分かりました。引き受けましょう」
観光も出来るし情報も手に入る。了承しかないだろう。