飛んで火にいる金の虫
お金というのは本当に不思議なものです。例えば鬱病の特効薬はお金、それも大金が手に入れば良いんじゃないか、宝くじが当たればいいんじゃないか。なんて言う人もいる様に、お金は精神的な余裕の有無をもたらすのです。
しかし、お金が直接的に作用する訳では無く金銭的な余裕が生まれる事で仕事をせずに済んだり、好きなものを購入したり出来るので、それによるストレス緩和が影響しているのではないでしょうか。逆もまた然り。
補助輪の付いていない自転車が欲しい。そう父さんにねだったら、自転車を買ってもらえた。あのゲーム機が欲しい。あのサッカースパイクが欲しい。音楽プレーヤーが欲しい。
色々なものを父さんに、時たま、祖父母におねだりをして買ってもらった。兄弟も年の近い親戚もいないのでおさがりを使う事は無かった。でも、欲しくなるのはいつも友達や周りが持っているものばかりで、自分の欲求で欲しいと思ったものはあまり無かった。そういうものはやっぱり手に入れてしばらくは楽しめるのだが、しばらくすると興味を失ってしまう。するとまた、欲しいものが出てきておねだりをするのだった。
しかし、何かを買うのにはこの世の中ではお金が必要だ。
前に、金で買えないものは無い、金で買えないものは有る。の論争を聞いたことがあった。これを聞いて僕は今は買えないものは有るけど、将来的には買えないものは無くなるんじゃないかと思った。そして、お金で買えないものというのに直面するのは、日常生活において中々出会えるものではないのでは、とも思った。
でも、大金が急に手に入ったら僕はどうするだろう。アメリカの宝くじで文字通りの億万長者になった人がニュースに出ていた。なんと当選者の中には破産したり、殺されたりしているらしい。お金は人を狂わせ、異常な行動をとるのだという。
高校生の僕でもお金があれば、車を買えるだろうし、土地も買えるはずで、まあ彼女も契約みたいな感じでなら、手に入れる事は出来るんじゃないだろうか。でも、地球や月の土地は買えても、銀河系を買うとかは出来ないだろうし。家の周りの空気を買い占めたりは出来ない。いつか、人の感情も機械で操作する事が可能になる時代が来るかもしれない。そうなったら人の感情はお金で買えるって事になる。
でもそんな時代まで僕は生きていられないだろうけど、生きている内に寿命を延ばす機会が出来るかもしれない。そうなったらお金で買える。何とも難しい話だけど、プライスレスって言葉は、要は「お金に色が付く」の「色」の部分が独立して出来上がった考え方なんじゃないか。
僕は、そのお金があって何かを買うことが出来るという一連の流れからお金の部分を無くして考えていた。ただ希望のものを与えてもらっただけだから、そのものに対しての感情が劣っていて、大事にしたいとかあまり思わなかったし、満足感が持続しないのだろうと自分では思っている。
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春に高校生になって、バイトをする事が可能になった。幸い実家はお金に困る事は無く、父さんからもアルバイトに精を出す時間があったら勉強に当てなさいと言い、お小遣制の増額案を提言された。確かにその通りだけど、高校生ってのは意外にこまごまと出費があるもので、空き時間にジュースを買ったり、帰り道にカラオケに行ったり、ゲーセンに行ったりするのでお金は必要だった。その時々にお金が無いと楽しい時間から離脱してしまう事になりかねない。それは避けたかった。中学までは毎月財布には2000円位は入っているようにお小遣をもらっていたし、あまり使う機会もないので十分だった。
しかし高校生になってからは、現金がいる。欲しいものは言えば買ってもらえるけど、現金を下さいとはお小遣を貰っている身としては言えない。自分のものをどこかに売ってしまうのも未成年では保護者がいないと売れないと言われたり、実際売ってしまった後にまた欲しくなっても買っては貰えないだろうと考えるとなかなか踏み出せない。
以前までは欲しいものが品物だったが今では現金が欲しいと感じていた。
高校一年生の四月から五月というのは最も友達を作りやすく、その友達は大体がその後、学年が上がったりすると「よっ友」位に落ち着いて、この時期に卒業まで一貫して仲が良い友達を作るのは至難の業だ。
だからこそ、僕は遊びに誘われたら断らない。もしかしたら、何かが有るかも知れないチャンスをみすみす逃す手は無いと思うからだ。しかし、自分の増額された5000円のお小遣とお年玉の貯蓄だけでは、中々苦しい所があった。人生でお金に困るのはこれが初めてだった。金が無い、金が無い、という台詞を聞いた事はあるが、その人の感情がこんなにも切羽詰まった、息苦しさを持っていたのかと感情移入しながら、少しだけ見え隠れする結局は父さんがどうにかしてくれるという淡くも確かな安心感が、自分の心にはあるのだった。
ある水曜日、クラスメイトに来週の土曜日に映画を観に行こうと誘われた。もちろん了承して、行くメンバーでグループチャットを作った。帰宅して、自分の財布には2000円と少しの小銭が入っていた。学生料金で映画を観てハンバーガーを買うくらいはギリギリあるなと計算した僕は、グループチャットで友達とのたわいもないやり取りを楽しんで眠りについた。
翌日、登校すると、昨日とは別のクラスメイトに放課後カラオケに誘われた。残金の事を考えると、行くのを断りたかったが、隣のクラスの女子四人と自分のクラスの男子四人でやるというのだった。しかも、自分を呼ぶように女子から指名されたらしく、尚更行かざるを得ない状況になってしまった。それに対して僕はいいよ。と答えた。放課後の合コンの様なカラオケを楽しみ、高校で初めて女の子と連絡先を交換した。
「今日は楽しかったよ~!(^^)また遊ぼうね。今度は二人でもいいかな?」
といったチャットが来て僕は浮足立った。返信をわざと三十分程遅れさせてから、もちろん。といった内容を送った。ニヤニヤが止まらない。あの子も可愛かったし、良い日だったなとスマホをいじっていた。
その時、ふとグループチャットが動いた。
「チケット先取るけど、席後ろでいいかー?」
その瞬間、胸の高鳴りは騒めきへと変わった。
土曜日のお金が無いという事に気付き、途端にどうしようと作戦を練り始めた。
どうやっても父さんに言うしか無いなと思い、リビングでテレビを見てくつろぐ父に対して、
「あの、土曜日に友達と映画に行くんだけど、チケットとお昼代貰っても良い?」
「お小遣じゃ足りないのか? 多少だがお年玉も残りがあるはずだぞ。」
「実は、全部使っちゃってさ、、」
「ならん。今回はお断りしておきなさい。暇が出来てしまったのなら図書館にでも行って勉強してきなさい。」
良く考えれば、このやり取りは初めての事だった。
自分からお金を下さいと言った事。そして何かを欲しいと言って断られた事。ショックだった。思わず目に涙が浮かんできた。それを悟られるのも嫌なので、はい。と言いながら自室へ戻った。
なんで、「もの」は良いのに、「お金」はくれないんだよ! と父の考えが理解できずイライラした。また、淡く父さんに頼めば貰えると簡単に考えていた自分の浅はかさにも情けないと思った。お金があれば、父さんに僕のイメージを悪くさせなくて済んだのに。こうしたら何としてでも行ってやる。そう決意した。
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思い立ってパソコンで [アルバイト 日払い 高校生] で検索した。
中々良い所が無く、がっかりとした。結局、抗ってもお金はすぐには手に入れられない。良さそうな所もあったが、事前手続きがややこしく、派遣会社に登録してから仕事を紹介してもらったりとめんどくさそうだった。困りに困り果て、中学からの親友で、実家が工場を営んでいる神木に電話をした。
「もしもし。 神木?」
「何だよ、急に。彼女でも出来たのか?」
「ち、ちげーし。そうじゃなくてさ、神木んとこでなんか手伝える事無い?」
「あれ? ちょっと動揺してね? まあいいや、珍しいなーどしたのよ。」
「ちょっと、お金欲しくてさ、急に、ホントにごめんだけど。 バイトさせてくんね?」
「あーそういう事ね。つか親父さんに言えばいいじゃん。 無理なの?」
「うん。断られた。」
「んーー。じゃあ、丁度明日俺も、放課後にトラックで部品搬入しに行くんだけど、それ来る?」
「マジで!? ありがとう! あ、ちなみにこの事は、、、」
「わーったよ、秘密にしとくわ。派遣さんも一人ドタキャンみたいだし、派遣って事で親方に言っとくわ。」
「本当に迷惑かけてごめんな、明日放課後工場行くから!」
「ちなみにさ、何で金必要なの? それによっちゃ断るぞ。」
「映画観に行くんだよ、土曜にさ、でも今金無くなっちゃって。」
「何だよ!!(笑) そういう事かよ、ただの遊び過ぎじゃん。」
「まあそうなるけどさ、今度お礼させてくれな。」
「よし、何が良いか考えとく。じゃあな。」
とりあえずどうにかなった。まだ何も成し遂げてはいないのだが、達成感と高揚感を抱きながら、風呂場へ向かった。
翌日、放課後に神木の家まで自転車で向かった。前々から業績の良い会社で、社員は多くいるはずだが、繁盛しているからこそ人手が不足しているのだそうだ。その為、派遣を雇ったり外国人労働者を雇ったりしているらしい。最近は特に羽振りが良く、神木の父(親方と呼ばれている)は高級外車を半年で乗り換えていて、近所では様々な噂話が飛び交っているらしい。
工場に着くと、神木と社員のおじさん二人、派遣アルバイトで来たベトナム人が待っていた。早速ジャージに着替えてトラックに大量の部品を積み込んだ。二台で受注先に届けるというもので、僕はベトナム人のヤンさんと社員のおじさんが乗るトラックに乗り込んだ。
ヤンさんが意外に日本語が上手く、車内ではベトナムの事や日本の事を教えあったりして和やかに時間が過ぎていった。目的地に着くと、多くの部品を運んだ。高校生とはいっても帰宅部の僕にはかなりの重労働だった。しかし、お金の為にと気合を入れて必死に運び続けた。途中からバケツリレーの様に運んだり、ちょっとした連携を取る内に何だか今、お金を稼いでいるという事も忘れて、ひたすらに体を動かした。
「これ、重いよー気を付けてね。」
社員のおじさんに言われた箱は、他よりもはるかに重かった。ヤンさんと二人で抱えて運んでいくと、段差の所でヤンさんが躓いた。その傾きで、箱がヤンさんの方へ強くのしかかった。
「大丈夫ですか!?」
「ア、ダイジョブ。」
と言うものの、ヤンさんの顔は曇っていた。かなり痛そうなので、社員のおじさんに伝えようとすると強い口調で言わなくて良いと制された。急に怖い表情で言われ、ちょっと泣きそうになった。その後ヤンさんは重い荷物を上手くかわして、軽い荷物を運んでいて、やっぱり出稼ぎに来ている人のハートはタフだなあ、と思いながら全ての荷物を運びきった。早速トラックに乗り込み、神木の工場へと戻った。
「はい、お疲れさまでした。」
そう言って、乱雑に今日の日付が書かれた茶色い封筒を手渡された。この時初めて自分の力でお金を稼ぐ事が出来た。嬉しい。このお金は映画館で使ってしまうけど、たった二時間位でお金を手にすることが出来るんだ。僕は高揚して、神木に謝辞を述べ、駐車場のトラックの裏に回り込んで、人目につかないようにジャージを着替え始めた。ベルトを締めている時、こそこそと声が聞こえた。言葉は聞こえるが、何を言っているのか分からない。トラックの奥の方で誰かが話しているようだった。
こっそり見に行ってみるとそこにはヤンさんと外国人が話していた。もしかしたら、怪我をしてしまったから家族の人が迎えに来たのかな。そう思った僕は、声を掛けようとした。すると、ヤンさんとその外国人は大きなケースをトラックに積み込み去っていった。その姿は、辺りをきょろきょろ見回し、隠している様な感じだったので好奇心からそれを見たくなって荷台に忍び込んだ。そこには銀色の大きなハードケースがあった。厳重そうだったが、留め金は簡単に開いた。
え? お金?
ケースの中にはびっしりと札束が入っていた。これいくら分あるの? というか何でお金? 等と考えてはいるものの半ば放心状態だった。これは、どういう事だ。ヤンさんのお金? いや、コソコソしていたという事は、これはどこかで盗んだお金か。神木に言わなければ。しかし、悪魔が囁いた。
「今まで、欲しいものは買って貰えた。やっぱり今回も手に入ったじゃないか。」
と頭に過ぎった。そして、気が付くとケースを手に家の玄関に立っていた。震える手を抑えながら、自室へ向かった。幼過ぎる億万長者はここに誕生した。とりあえず興奮と焦燥、不安、様々な感情で乱れる心を落ち着けるために今日貰った茶色い封筒を開ける事にした。今回の頑張りがこうやって形になるのは嬉しい事だ。開けてみると、中には1600円が入っていた。二時間で、時給は800円。
安すぎるだろ! あーもう嫌だ嫌だ。なんでこんなに頑張ったのにこんな位しか貰えないんだよ。初めてのバイトで安賃金を貰い、そうとも知らずに舞い上がっていた自分が恥ずかしく、虚しかった。
今回の温情を全て無視して、いっそ全て神木に怒鳴りつけてやりたかったが、これも今の自分に出来る精一杯の額だと、気持ちを落ち着けることにした。
しかし、このお金いくらあるんだろう。気になって数えてみた。日常生活ではお目にかからない額だった。三億円。しかし、これだけあったら一枚くらい無くても気づかないよな。
僕はすっ、と一万円を財布に入れた。
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土曜日、朝起きた時には昨日の事を思い出してとても不安になった。しかし、あんな大金が自分の部屋にあるという事自体、夢見心地で何とも言えない気持ちもあった。とにかく、今日は映画を見に行くお金も手に入ったし、楽しんでとりあえず考えないように自分で蓋をする事にした。
映画館の近くのコンビニで待ち合わせてから、クラスメイトの男子四人で流行のコメディ映画を観た。予想通りその後は、ハンバーガーショップに立ち寄り、皆で他愛もない話で盛り上がった。解散して帰宅すると、テーブルの上に1000円が置いてあった。両親は僕が物心付く前に離婚していて、母親の味というのを知らない。そして幾度も掛けている電話番号に肉うどんを注文した。
夕食を済ませ、自室に戻ると昨日の光景がフラッシュバックした。押入れの中に銀色に光るケース。その中には札束。まさかの展開で手にした欲しかったもの。
いつも欲しいものは、ねだれば買って貰えた。しかし、今回は買って貰うものでは無くて、買う為に必要なものが欲しかった。色々な事が浮かぶ、この金で何が出来るのか。基本的にものというのは用途がほぼ一つだと思う。自転車であれば移動に使い、サッカースパイクはサッカーをする時に使う、音楽プレーヤーは音楽を聴く。まあ、ゲーム機はソフトによって内容が変わるのとオンラインで通信機能が使える多様性がある。
しかし、金。
用途は何かを買うという事だが、その幅があまりにも広い。衣食住が賄われ、娯楽や交通費、交際費等何かのサービスを得る手段として必要なもので、やはりこれが無ければ人間の生活というのは成り立たないと言っても過言ではないんじゃないか。生活保護という制度だって、衣食住の提供では無くて、お金を支給する訳だし。
その人間が人間として生活する為、多くの人が働いて手に入れているもの。皆が必要として欲しているもの。それが今、自分の手元に高校生としては簡単に使いきれない程ある。あんなに必死にお金を稼ぐにはどうすればいいのかを考えて、親友にまで迷惑を掛けてまで手に入れた、少額ではあるが、それこそプライスレスの付加が多額の1600円の喜びは既に風化してしまっている。じゃあこの先働かないで行けるのか。それは違う。やっぱりお金があっても、父さんや社会的にも無職というのは戴けない。薄給でも、楽でそれなりにやれる所に就職したい。そう思いながら自分の自制心にちらつく邪な気持ちに僕は気付けなかった。完全に、この大金をどの様に使って行こうかという考えになってしまっていた。どんな経緯で今手元にあり、手を付けてはいけないお金というのを解っていながら。
それから僕は、食事に行くと事あるごとに高いものを注文し、服や鞄、時計、靴、ゲーム、漫画等を買い漁り、テーマパークのチケットを行くメンバーにも買い与えたり、デート代や交際費も際限無く出した。財布に常に50万円位は入れていて、何かあると自分が払うというのを繰り返した。その噂を聞きつけてか、ものすごく人が集まって来て、遊びに行こうとひっきりなしにお声が掛かった。僕もどんどん気持ちが大きくなっている事に気付いてはいたが、毎日の王様の様な扱いに浮かれていた。僕の見た目も変わってきてしまった。入学当初は連絡先が増える事に喜んでいたレベルだったが、今や、かなりの数に増えていて、遊ぶメンバーもガラッと変わってしまっていた。
僕はふと、あの札束を思い浮かべた。あんな紙切れで、何でも叶えられるんだな。今まで手にしたものの中で、一番価値のあるもの。しかし、気が付けば僕は何かをするという事に興味が移っていた。何かをしたい、どこかに行きたい、あれを食べたい。それらは、お金で大抵は可能になる。そして、それが今の僕には際限無く実現できる。ちょっと怖くなって、笑った。
冷静に考えると、周りに対して、「施し」をしている様なものじゃないか。そしてそれは、周りの人間を無意識に自分と同じ状態に引き込んでいた。「欲しいものは買って貰える」という状態に。
何故、そんな事をしていたのだろうか。それは孤独を感じたからか。そしてその「施し」が無くなった時、一体何人が僕の周りに残るだろう。
放課後の遊びを早めに切り上げ、とぼとぼ家に帰った。その間も遊びの連絡が来ていた。考えると、僕はまたしても欲しいものを手に入れてしまった。お金によって。ああ、自分がなんて情けない、つまらない人間になってしまったんだろう。虚しくて、悲しくて、悔しくて、自室に帰って泣いた。
まだまだ使いきれない程残っている札束に財布を投げつけ、燃やしてしまおうと思った。欲しかったものが手に入った時、大抵それで満足してしまうから現金が手に入った時も飽きるだろうな、なんて考えていた。しかし、それを使用して、仲の良かった人を蔑ろにしてまで、周りにいる人間をお金によって魅了し、手に入れた。僕はお金の毒に侵されていたのだろう。止めたとしても、もう周りの人に対して、このイメージは上書きなんて出来ないだろう。解ってはいたが、もうこの毒素と同じ空間に居たくなくなって、父さんにばれない様にケースを運び出し、こっそりと自転車で空き地に向かった。
空き地は川の隣に有って、夜は人気の無い静かに星を見られるお気に入りの場所だった。ケースを置き、徐に一束を取り出してライターで火を点けた。前に教科書で、成金の風刺画を見たことがあるなあと思った。明るくなったろうとおじさんが話すその画を思い出して、お金は燃料として明るくする事も出来るんだと感心し、煌々と大きな明かりを眺めた。ケースの中に投げ入れようとした時、背中に強い衝撃があった。どくどくと何かが流れ出て、とても寒くなった。寒い。寒い。何かが刺さり、背中から痺れる痛みが広がった。
実は気付いていた。後ろから誰かが付いて来ていた事に。ヤンさんかな、それとも学校の人かな。それとも、、、誰でも良いや、そう思った。思わず涙が一筋流れて、意識が薄れそうな時
「ありがとう。」
と僕は言った。
お読み頂きありがとうございます。
この話は、前書きにも書いた、お金による精神的余裕が変化する事によってどうなるのか。しかも、その対象が多感な高校生になったら。というのを思って書きました。
私も、お金は怖いと感じる事や感謝する事が多々あります。お金で人が変わったり、お金が自分の評価になったり様々。
また、機会が有れば「お金」について他の話を書いてみたいものです。