第1話 「灰壊の空」
漫画「灰壊の空」のストーリーはこんな感じだ。
寒村で両親と妹と共に貧しくとも幸福な日々を送っていた十五歳の少年アッシュ。
だが、ある日、魔物の襲撃によってその幸せは終わりを告げる。
最期を看取ることも出来なかった両親と、腕のなかで冷たくなっていく最愛の妹……ガーン! 私のことだ……に、何も出来なかった自分への絶望と哀しみに心を失い、人形のような様子でさまよっていたアッシュは、ある日、国内巡行の旅の途中の聖女に拾われる。
聖女の献身によって絶望から救われたアッシュは、己の身を削って他人を救う聖女の姿に心を打たれ、彼女を守る護衛剣士となることを誓い、厳しい訓練に没頭する。
しかし、ある日貴族と信仰者によって異端者として告発された聖女は処刑されてしまう。
再びの絶望に世界を恨み復讐者と化したアッシュは、戦いのなかで、大いなる陰謀を知ることとなる。
故郷の村が滅んだのも、聖女が処刑されたのも全ては魔王が人間を滅ぼすために暗躍した結果である、と。
アッシュは、魔王を倒すために人外のモノへの変化を受け入れ、戦い続ける。
そして、その途上で一人の魔族の少女と出会うのだ。
彼女は人間と魔族の融和を望んでアッシュに協力を望むものの、二人の意思はすれ違い、やがて彼女が魔王の一人娘であることがわかり、二人は決別する。
魔王を襲撃したアッシュの下に、魔王の娘がそれを止めるために再び現れ、魔族の絶望を語るも、アッシュは彼女を殺してしまう。
そしてアッシュは魔王を討つ。
残ったのは、互いに相争って国としてのまとまりをなくした人間と、滅びへの道を歩くしかない魔族、そして感情を喪失し、魔物のような姿で廃墟に立ち尽くすアッシュのみだった。
どうだろうか? なかなかにアレな感じだよね。
こんな物語でも人気が高かった理由は、ひとえにキャラが魅力的だったから、ということに尽きるだろう。
登場人物それぞれが自らの強い意思を持ち、理想を語り、絶望を語る。
どうしようもない現実のなかであがき続け、それでも決して諦めない者たちが描かれ、私は毎週胸をときめかせて続きを待ったものだ。
きっと最後には救いがある、と信じて……。
まぁ……救いはなかったんだけどね。
最終回最後のコマに見開きで描かれた、曇天のなか虚ろに空を見上げるアッシュの姿を見て、号泣したものである。
マジ作者ドエス。ありえない。
「なぁ、メイリア、本当にどうしたんだ?」
おおう、油断した。
私のなかの前の私が、「子ども時代のアッシュだ! かわいい!」と叫ぶ。うるさい黙れ。
そう、兄はまだ子ども。
具体的に言うと今は十歳だ。
そして漫画のストーリーの開始は、兄が十五歳のとき。
「まだ五年あるわ!」
「わっ! びっくりした。ほんと、大丈夫か?」
兄がひらひらと私の目の前で手を振ってみせる。
失礼ね、私おかしくなんかなってないもん!
後五年、後五年で、村が襲撃を受けて、私も、村のみんなも、お父さんとお母さんも死んでしまう。
そして兄が、悲惨な人生を送ることになってしまう。
絶対にこれだけはなんとかしなきゃ。
正直、世界とか、ううん、それ以前に国同士の争いとか、魔族やら魔王とかそういうのはどうでもいいの。
だって、そこまで面倒見きれないでしょ。
とにかく、私がたった十歳で死ぬなんて嫌だし、お父さんとお母さんが魔物に殺されるのも嫌、村のみんなだって、貧しい暮らしのなかで助け合って来たんだよ?
それなのに理不尽に死ぬなんて、絶対そんなのおかしいよ。
後五年後に発生する魔物の襲撃は、魔王が実験的に行ったもので、別にうちの村じゃなくてもどこでもよかったらしい。
だからもしアクシデントで失敗しても、特にこだわることなく別の実験に移行するはずだ。
その結果どこか別の村が犠牲になるかもしれない。
でも、言い訳になるかもしれないけど、今後はそういうのばっかりだから、うちの村が犠牲になったところでその村が無事なんてこともないんだよ。
うん、まぁ言い訳だよね。わかってる。
だけど、やっぱり大事なのは自分と家族と知り合いだから。
謝るぐらい、罪悪感を持つぐらいはするけど、運命を変えることが出来るなら、ためらわないよ。
「私、がんばる!」
ぐっと握りこぶしを作って決意表明すると、なぜか私の前で座り込んでいた兄がさめざめと泣いていた。
「あにさまどうしたの?」
「お前がどうしちゃったんだよ」
その後、滅多に泣かない兄が泣いていることに驚いた母が兄から話を聞いて、私を村の占術師のところに引きずって行ったけど、違うから、病気じゃないから!