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タイムマシン

作者: 浦木 佐々

まるでタイムマシンのような風景だ。

雑多なネオンが点在する雑居ビルも、往来の途絶えた通りも、全て夜に沈めば単調に、歴史が呼吸をしていた痕跡に成り下がってしまう。

その証拠に目の前の雑居ビルの群れは、角膜や水晶体の働きを決して意識させなかった。そんな嘘臭い仕組みよりも「これはタイムマシンの車窓を通して眺めているのだ」と言われる方が明らかに腑に落ち、辻褄が合う気さえした。


「タイムマシンに乗れるとは思わなかった」


僕は嬉々として隣のベンチに座る連れに告げた。


「あんた何言ってんの?」


対照的な声音で返事が返って来るのは彼女がしきりに舐めているアイスの仕業だろう。きっと舌が冷え切っているから冷めた調子の声なのだ。


「ほら、そんなフヤフヤのカップより目の前を見てくれよ。まるでタイムマシンだぞ」

「……ごめん、どこにタイムマシンの要素があるの?」


その疑問に僕も思わず首を傾げる。


「どうしてタイムマシンに見えるんだ?」

「あたしが知るわけないでしょ!!」

「……ちょっと行ってくる」

「はーい。出来るだけ早く帰ってくるのよ」


彼女の承諾を得て僕は文明的なこの場所で再び海水浴に興じることにした。無論、雑居ビルの群れに紛れて海が広がっている訳ではない。飽くまで比喩だ。思考の海。カナヅチな僕が唯一果てしなく進める八つ目の海。水は空気の様に透き通っていて、そのくせ海面から海底までを「何故」や「感覚」が漂流している。僕は漂着物になんて興味はないので、適当にその中を泳ぎ回る。そして、フワフワと漂うクラゲを見つけると、触手を綱引きの縄にする様にして握り込んだ。

人は(動物に追憶に浸る瞬間があるのかは不明)過去を振り返り、塞ぎ込むことがある。その特性だけを敢えてすくい上げ別名をつけるのであれば僕はそれを「毒」と呼ぶ。


「As soon As possible/できるだけ早く」


思考の海で漂流仕掛けた僕は意図せず彼女の言葉まで振り返る羽目になった。最も過去と呼ぶには所在が近い気もするが。

取り敢えず僕は海面から顔を上げる。自身の言語化出来ない思考を言語化することには成功したからだ。


「お待たせ」

「別に待ってないけどね」


アイスを舐め終えた彼女は退屈そうな表情で携帯を操作していた。


「で、タイムマシンの件だけど」

「はいはい」

「僕は目の前の風景に歴史を感じたんだよ。歴史は過去で毒だ────ちょ、君との思い出は毒じゃないから!!っと、それでタイムマシンに乗る理由は大抵が過去を変える為だよね。その動機は大体未来を違うものにしたいから。つまり、僕らは歴史というタイムマシンに乗って過去の後悔に遡って未来を作り変えることが出来るんだよ」

「要約すると?」


彼女は携帯を見ながら愛想もなく呟いた。


「過去の失敗から人は未来を作るんだ。この風景に過去の教訓が刻まれているから僕はタイムマシンなんて言葉を使ったんだよ」

「あの風景の何処に過去の失敗が紛れてんのよ?」


綺麗な形の爪が目の前に乱立する雑居ビルの一角を指す。目を凝らすと二階にテナントとして入っているであろう居酒屋の看板を指しているのが分かった。


「そこじゃないよ。一階を見て。明かりは消えてるけど昨日大負けしたパチンコ屋の支店があるんだよ!!」

「……つまり、あんたが乗ったタイムマシンの運賃のせいで、あたしはアイスしか食べられないってわけね?」


僕は再びタイムマシンに乗り込む羽目になった。

Twitterやってます https://mobile.twitter.com/uraki_rekisei


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ファンタジー長編なども更新予定なのでよろしくお願いします

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