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第0a話:宿の女  作者: 吉野貴博
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来訪者

 窓に板を打ち付けたり、以前から雨漏りをしていたところを補修したりと働いていたら、〝大勢の高祖母〟が、雪も雨もなく大風だけとは珍しい、こんなことは初めてだと話している。それらを聞くとはなしに聞いていて、大体こんなものだろうと片付けをしていると、玄関で騒ぎが聞こえてきた。

 皆がどんどん集まり、ごしょごしょした声が増えているのだ。

 なんだろうと見に行くと、玄関にあの人が立っていた。

 外套を脱いで背縫い線のところで二つに折り、肩にかけている。

 外套の下は背広姿だった。手袋も脱いでいて、縦長の封筒を持っている。

 まとめ役の〝大勢の母〟が厳しい顔で

「御用はなんでしょう」

「お届け物です。ーーさんはいらしゃいますか?」

 母だ。

 母が皆をかき分け進むが、〝まとめ役の母〟はまだ許さない。

「どうやってここに来たのでしょう」

その人は(そりゃぁ、聞くよなぁ)という顔をして

「時の抜け穴をくぐりまして」

〝まとめ役の母〟は鼻で笑って

「そんな都合のいい」

 しかしこの人も声を被せて

「ええ、二度目はないでしょうなぁ」

 そこでようやく母が口を挟める。

「私がーーです。いったい、なんでしょう」

「中身がなんだかは知りませんけどね、危険な物ではないはずです」

 封筒を受け取りはしたものの、返したものかためらっている。

「受け取りのサインをお願いします。受け取り拒否でしたら、その旨一筆お願いします」

 母は迷う。皆も母を見ている。

 男の人だけが興味深そうに玄関の中を見回している。

〝大勢の母〟は(とにかくさっさとこの男を帰せ)という顔になっている。

 母はため息を一つついて封筒を受け取り、サインをした。

 それで皆解散である。これから話さないといけないことは解っているのだが、まだ仕事があるのだ。

 その人が軽く会釈して、「では」と玄関を出る。

 扉を閉じて外套を着たり手袋を嵌めたりしたのだろう、少し間があってから靴の音が聞こえてきた。

 母は私を全く見ず、無造作に封筒を持ったまま、難しい顔で仕事に戻ろうとしたのだが、〝大勢の母〟や〝大勢の祖母〟に囲まれて何やら言っている。

〝大勢の私〟や〝大勢の姉〟はお呼びではない。皆気にはしながらも仕事に戻っていく。

 どうせ母は私には何も言わないだろう。

 ならば話を聞くのは、あちらだ。

 何人かが話しかけてきた声を振り切って、私はあの人を追いかけた。


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