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きっと人生が、映画ならば  作者: 人間モドキ
8/23

仲間を取り戻せ

二千十六年、十二月三十一日、朝八時頃。

 木場はとある海沿いにある砂浜で目が覚めた。

 どうやら崖から飛び込んだ後、ここまで流されてしまったみたいだ。真冬に海に飛び込んだせいで、身体はひどく冷え込んでしまっていた。木場は震える身体を手でさすりながら必死に辺りを見渡した。

 奥の砂浜で海へと一緒に飛び込んだ三人の仲間たちが横たわっているのが目に入った。

「奈々!竜司!勝平!」

 木場は仲間達の名前を叫び、そばへと走り寄った。すかさず木場は三人の身体をさすった。

 一番最初に目を覚ましたのは竜司だった。竜司は寒さからか、くしゃみを連発した。木場は他の二人も必死に起こした。すると、奈々と勝平も咳き込みながらも目を覚ました。

「良かった。生きてたんだ」

 勝平が安堵の表情を浮かべて言った。確かに、この季節の海に飛び込むというのは、死んでもおかしくなかった。木場にとっても決死の決断であった。

「そうだ!明日香は?」

 竜司が凄い勢いで飛び上がり、辺りを見渡した。

「いや、明日香は飛び込む寸前で、転んで海には飛び込めなかった。恐らく、奴らに捕まった。」

 木場はうつむきながら言った。

「おい!捕まったってどういうことだよ!」

 竜司は木場の肩を掴み、激しく揺らしながら言った。それを勝平が必死になだめた。

「竜司!木場ちゃんに当たってもしょうがないよ!とにかく、どこか暖かい場所へ移動しよう!このままだと僕ら、凍死しちゃうよ!」

「勝平の言う通りだよ竜司。パニックなのは、皆一緒なんだから」

 奈々が冷静に言った。

「とにかく、警察に連絡しよう」

 奈々がそう言って、上着のポケットに手を入れた。しかし、しばらくポケットをまさぐった後、「ない」と一言呟いた。

「最悪!海に流されたんだ!」

 それを聞いた竜司と勝平は、自らのポケットを確認した。二人はスマートフォンがあることを確認した。しかし、電源を入れようとしたが、スマートフォンは浸水してしまい、電源が入らなかった。

「くそ!完全にいかれちまってる!」

 竜司が叫びながらスマートフォンを地面に叩きつけた。

「僕のも駄目だ」

 勝平も落ち込みながら言った。しかし、勝平は何かを思い出したのか、木場に向かって言った。

「そうだ!木場ちゃんの携帯!確か防水機能が付いてるとか言ってたよね!」

 それを聞いた木場は、慌ててスマートフォンを取り出し、電源を入れてみた。なんと木場のスマートフォンの画面は明るく光り、作動した。

「ついた!」

 木場は思わず大きな声で叫んだ。他の三人の表情も明るくなった。スマートフォンが使えれば電話もでき、地図アプリを使用することもできる。スマートフォンの画面の明かりが希望の光のように見えた。

 木場はすぐに警察に電話を掛けようとした。しかし、木場のスマートフォンはすぐに着信画面になった。画面に映ったのは、桜庭明日香からの着信を知らせるものであった。

「明日香!明日香から着信だ!」

 木場は慌てて電話に出た。他の三人も目を大きくして驚きながら、木場の会話に聞き耳を立てた。

「明日香?明日香なのか?無事なのか?」

 木場は必死に問いかけたが、返ってきたのは予想外の返答であった。

「やっと電話に出やがったな!この野郎!何回かけたと思ってんだ!それにしても、まさか生きてるとは驚きだなぁ。大した奴らだ」

 その電話の主はドスが利いた声の男だった。木場は瞬時に、昨夜自分たちを追っていたスーツの男の声だと察した。

「おい、てめぇ、明日香に手出してないだろうな」

 木場の声色が変わったことにより、電話の会話を聞いていた三人も、相手が明日香ではないことを悟った。

「あん?誰に向かって口きいてんだ若造。まぁいい。俺らは堅気には優しくするのがモットーだからな。いいか?単刀直入に要件だけ言うから、しっかり覚えろ。お前らが奪ったあの黒いバッグは俺らの持ち物だ。俺らはそれを返して欲しいだけだ。お前らの友達の明日香って娘と交換だ。安心しろ。怪我一つ、つけちゃいねぇ。時間は今日の深夜零時まで。場所はお前らが昨夜、肝試ししてたらしい廃病院の屋上だ。もちろん、できなきゃこの娘の命はねぇ。警察に連絡しても、この娘の命はねぇからな」

「わかった」

 木場は言われたことを冷静に頭に叩き込み、そう言った。

「おお、若い割には賢い奴だ」

「頼む、明日香が無事っていう確証がほしい。声だけでも聴かせてくれないか」

「おう、ちょっと待ってろ」

 男はそう言うと、明日香に電話を替わった。

「木場ちゃん?みんな無事なの?」

 木場はその明日香の声を聴いて安堵し、深く息を吐き出した。

「よかった。本当に良かった。竜司、勝平、奈々、みんな無事だ。明日香、本当に何もされてないか?」

「大丈夫だよ!でも私、犯されちゃったら、もうお嫁にいけない!早く助けて!」

 いつもの明日香節に、木場は少し笑いそうになったが、必死にこらえた。

「明日香、絶対に助けに行くから待ってろ」

 木場はそう言ったが、次に電話に出たのはさっきの男だった。

「はい、ここまでだ。悪いが俺達には時間がない。これは遊びじゃねぇんだ。わかったな」

 男はそう言うと、電話を切った。

 木場の電話の会話が終わったことを確認すると、竜司が木場の肩を力強く握って言った。

「明日香は無事なんだな?」

「ああ、無事だ。だけど、明日香を無事に助けるには竜司、昨夜お前が持っていたあの黒いバッグが必要だ。あのバッグと明日香を交換するっていうのが、奴らの条件だ。時間制限は今日の夜中零時まで。場所は昨夜の廃病院の屋上だ。あのバッグはどこだ?」

 木場がそう言うと、皆必死に辺りを見渡した。すると、木場達から少し離れた砂浜に例の黒いバッグが流れていた。木場達はすぐさまバッグに向かって走った。

「よかったぁ!これがないと!明日香が!」

 奈々はとても喜びながら言った。バッグは竜司が大切そうに抱えた。

「よし!すぐに明日香を助けに行こう!」

 竜司はそのまま、走り出そうとしていた。

「ちょっと待て待て」

 木場は竜司を止めた。

「なんだよ!」

「まずは着替えないと、このままじゃ、皆凍えて死んじまう。急ぐのはいいけど、闇雲に突っ込むんじゃなくて、まずは作戦を立てよう。この辺で着替えられそうな場所を、まず探すのが先だ」

「それもそうだな」

「よし、まずは、ここから移動しよう」

 木場がそう言うと奈々、竜司、勝平は木場の後に続いて歩いた。


 二千十六年、十二月三十一日、午前十時頃。

 木場、竜司、奈々、勝平の四人は、流れ着いた砂浜から約一時間ほど歩いた大型ショッピングモールに来ていた。四人はまず、びしょ濡れになった服を着替える為、服屋に来ていた。それぞれ洋服を買って着替えた後、今後明日香を救い出すための作戦会議をショッピングモールにある、フードコートで開いていた。

 竜司が冷えた身体を温める為に、注文したラーメンをすすりながら言った。

「まったく、史上最悪の大晦日だ」

「まったくだね。それは否定しようがない事実だ」

 木場は頭を抱えながら言った。

「それにしても、電話に出た男は警察に連絡したら、明日香を殺すって言ってたんよね?きっと奴らヤクザだろうし、警察の力を借りずに、素人の俺たちだけでヤクザと交渉って、かなり危険じゃないかな?」

 勝平が心配そうに言った。

「勝平の言ってることは確かにごもっともだけど、ヤクザにそんな正論通じないと思うよ。ここは大人しく私達だけで明日香を助けに行くのが一番良いと思う」

 奈々はそう言うとフードコートで買ってきたホットミルクを一口すすった。

「奈々の言う通りだ。明日香の命が第一優先。リスクは避けたい。なんとか四人で協力して明日香を救い出そう」

 木場がそう言うと竜司がテーブルの上に佐田から渡された黒いバッグを置いた。

「問題はこのバッグの中身だ。相当な重さだぞ。これは明日香を救い出す為に、かなり重要なものだ。佐田さんも中身をかなり貴重に扱っていた。一度、中身を確認してみないか?」

 竜司の提案に奈々は反対した。

「やめとこうよ!ヤクザの持ち物だよ?きっとろくなもんじゃない!知らない方が良いことだってあるよ!」

「いや、俺は見といた方がいいと思う。万が一の時、ヤクザと交渉する時に何か役立つかもしれない」

 木場がそう言うと、奈々は渋々納得した。

 木場は皆に「心の準備はいいか?」と確認して、バッグを開けた。

 中には数えきれないほどの札束が入っていた。海に入った時に水を吸い込んでしまったのか、かなり中身は濡れてしまっていた。

「おいおいおい。嘘だろ」

 木場は思わず、深いため息と共に呟いた。

「まぁ、大方予想はしていたが、やっぱりな」

 竜司は険しい顔をして言った。

「多分さ、これ一束、百万円だよね?てことは何千万ってことだよね?」

 それを聞いた竜司は周りに目立たないように、バッグを足元に置き、札束を静かに数えた。

「一億・・。一束百万円だとするとここにあるのは一億だ。まぁ、ヤバい金ってことは間違いないが」

 竜司は辺りを警戒してバッグを閉じた。

「僕達、相当やばいことに巻き込まれちゃったね」

 勝平が泣きそうになりながら言った。

「そういえばさ」

 奈々が何か思い出したかのように、喋り始めた。

「あの廃病院から追っかけてきた、パーカーの男。あいつはこの件とは関係あるのかな?」

 奈々が不思議そうに言ったところで、木場は静かに否定した。

「いや、これは恐らく俺の推測だが、あのスーツを着た男二人とこの一億円。そしてあのパーカーの男は無関係だ。最悪な事に、俺たちは二つの別々の事件に巻き込まれてしまった可能性が高い」

「何故、そう思うの?」

 奈々が不思議そうに尋ねた。

「ほら、昨夜、あの廃病院から逃げる時に、少し話したろ。パーカーの男は今、都内で話題になっている連続失踪事件の誘拐犯なんじゃないかって。多分そうなんじゃないかな。奴はあの廃病院を隠れ家にしてたんだ。この真冬に心霊スポットに行こうなんて奴はそうそういない。隠れ家にはうってつけだ。しかし、同じことを考えた人物がいた。それが佐田さんだ。ヤクザの金を奪った佐田さんは、廃病院にヤクザから隠れる為に逃げ込んできた。秘密を知られそうになったパーカーの男は、佐田さんを襲った。そして、佐田さんはパーカーの男から、廃病院を出て、逃げた。しかし、今度はヤクザ達に見つかってしまって、逃げているところに、俺たちの車が通った」

「なるほど、それなら確かに納得だ。しかも、その廃病院に肝試しに行く、物好きな若者達が現れた。それが俺たちって事か。」

 竜司が頷きながら言った。

「つまり、俺達は連続誘拐事件の犯人と、ヤクザ二人を相手に喧嘩売っちまったってことだ」

 木場は自分の髪の毛をくしゃくしゃにしながら言った。

「最悪だね」

 勝平は木場の背中をさすりながら言った。

 四人の空気はどよんでいた。竜司がその空気を吹き飛ばすように大きな声で言った。

「とにかく!ここでずっとうだうだ言ってても、問題は解決しない!さっき、武志の携帯の地図で調べたら、ここから廃病院までは車で五時間はかかる!約束の時間は一刻と迫っている!俺は近くにある、レンタカーで車を借りてくるから、お前達はここで待ってろ」

 竜司はそう言うと、その場を後にした。

 竜司を待つ間、奈々は木場のスマートファンを使って、連続誘拐事件の記事をインターネットで調べていた。すると、奈々が急に大きな声を出して言った。

「ねぇ!あのパーカーの男!橘圭吾っていう奴みたい。自分の奥さんを殺されちゃった復讐で当時の容疑者をどんどん誘拐してるみたいね。あっ、顔写真も公開されてる!みて!」

 奈々はそう言うと、写真を木場と勝平に見せた。

 その時、木場の表情が変わった。それを見た勝平は木場に「どうしたの?」と尋ねた。木場は橘圭吾の写真をまじまじと見ながら言った。

「俺、この人に会った事ある。と思う」

 それを聞いた奈々と勝平は「ええ?」と大きな声を上げて驚いた。

「ど、どこで?」

 勝平が木場に恐る恐る聞いた。

「それが・・・思い出せない」

 奈々と勝平は一気に落胆した。

「なによ、それ。びっくりさせないでよ。どうせ、そっくりさんとかいうオチでしょ?」

 奈々は白けた目で木場を見て言った。

「うーん、いや、確実にどっかで会ってると思うんだよなぁ。うーん」

 木場は目をつむり、身体をひねらせて思い出そうと、必死に考えた。しかし、出てこなかった。

「はいはい、わかったわかった」

 必死に考える木場を横目に、奈々は全然信じてない様子だった。

「てか、思ったんだけどさ」

 木場は思い出すのを諦め、少しでもこの張りつめた空気を換えようと話題を変えてみることにした。

「佐田さんが車に乗ってきた時さ、ヒッチコック監督のサイコって映画を思い出したんだけど、観たことある?」

 木場のその発言に奈々と勝平は呆れた顔をした。

「ちょっと!こんな時にまで映画の話しないでよ!」

「そうだよ!そんな呑気な事言ってる場合じゃないでしょ!」

 木場は二人に怒られたので、反省した。場の雰囲気を少しでも和ませようとしたが、裏目に出たようだった。

 そんな話をしばらくしている内に、竜司が帰ってきた。

「おう、みんな車借りてきたぞー。すぐ出発するぞ」

「時間がない。急ごう!」

 奈々の合図で皆は立ち上がり、車へと向かった。


 二千十六年、十二月三十一日午後一時頃。

 木場達は竜司がレンタルしてきた車に乗り、山奥の廃病院へと向かっていた。道なりを走っていると、渋滞に捕まってしまった。

「糞。こんな田舎道で渋滞かよ。ついてないな」

 竜司は運転席でいらついていた。木場が助手席の窓から渋滞の先を覗くと、警察が車を一台一台、検問していた。

「まずいな」

 木場は思わず呟いた。すると、後部席に座っていた奈々が木場に尋ねた。

「どうしたの?」

「警察が検問してる」

 木場がそう言うと、竜司が木場に言った。

「別に俺達は悪いことしてるわけじゃないんだ。堂々としていればいい」

 竜司はそう言って、皆を落ち着かせた。

「確かにそうだな。勝平、お前は特に顔に出やすいんだから気をつけろよ」

 木場が冗談交じりに言うと、勝平は必死に真顔の練習をしていた。それを見た奈々は「あんた、ふざけてるでしょ」と勝平のお腹をつねった。

 検問はついに木場達の乗る車の順番になった。検問をしている警察官は、運転席の窓を軽くこつんと叩いた。

「なにかあったんですか?」

 竜司がハリウッド俳優顔負けの演技で警察官に問いかけた。

「指名手配されてる人が、この辺りで目撃されてね。あまり時間はとらせないから協力してもらってもいいかな?」

 対応した警察官はとても愛想のいい人だった。だが、次の彼の一言で社内の空気は凍り付いた。

「君、そのバッグなに?」

 警察官はそう言って後部座席で一億円の入ったバッグを大事そうに持つ、勝平を指さした。

「あっ旅行用のおやつです。僕、こんな体系だからいっぱいないと不安で」

 勝平は真顔で答えた。警察官は一瞬口を尖らせたが、すぐに表情は笑顔に変わり「そっかそっか」と答えた。一瞬、車内の空気もピリッとしたがすぐに和やかな空気に変わった。

「大丈夫そうだね。一応トランクだけ見せてもらえる?」

 警察官がそう言うと、竜司は快くトランクを開けて見せた。警察官はトランクを確認すると、運転席の竜司に向かって「行って大丈夫だよ。ご協力ありがとうございます」と言った。竜司は軽く会釈をして車を走らせた。

「いやぁ。冷や冷やしたなぁ」

 運転しながら竜司が呟いた。

「勝平にしては、ナイスアドリブだったな」

 木場は後部座席に振り返り、勝平を褒めた。

「気づいたら、考える前に喋ってたよ」

 勝平は言いながら顔を赤らめた。そんな勝平を奈々が「調子乗るな」と勝平のお腹をポンポン叩いた。

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