唐揚げ
二千九年、春。
木場は大学一年生だった。内気な性格の木場は、中々友達が出来ず、お昼休みの時間も一人でご飯を食べるのが常であった。
その日もいつものように、大学の中庭の隅にあるベンチで、コンビニで買った唐揚げ弁当をつまんでいた。
そこに、ガタイの大きな男が近づいて来た。
その男は隣に座り、「そこのコンビニの唐揚げってさ、美味いよな」と呟いた。
木場はその男の独り言とかと思い、無視してお弁当を食べ続けた。
「美味いよなぁ、唐揚げ」
その男は一向に喋り続けているので、木場はいよいよ彼が自分に話しかけているという事に気づいた。
「良かったらさ、一つ食べる?」
木場は勇気を出してその男に話しかけた。
「え?いいの?」
その男は白々しく、喜んだ。そして木場からもらった唐揚げを、美味しそうに頬張った。
「いやぁ、やっぱり美味いな。ここの唐揚げ。最近、金欠で今日の昼飯代もなくてさ。助かったよ」
木場は苦笑いしながらその男に「そうなんだ、良かったね」と言った。
「えーと、君も一年生?」
その男は口の中に含んだ唐揚げを飲み込んで言った。
「そうだよ、木場。木場武志って名前」
「武志か。俺は海村。海村竜司だ。よろしくな、武志」
海村竜司と名乗るその男に、木場は大変驚いた。初対面でいきなり、下の名前で呼んでくる人と出会うのは初めてだった。図々しいのか、フレンドリーなのか分からなかった。
木場は思い切って、自分も下の名前で返してみた。
「竜司君ね。よろしく」
そんな会話をしていると、木場と竜司のもとに、三人の男女がやってきた。
「あっ!竜司、こんな所にいた!探してたんだよ!」
三人組の一人の金髪の女の子が、声を荒げていた。
「おう、明日香。今、丁度、この武志と友達になってな。唐揚げもらってたんだ」
竜司はそう言うと、木場の肩にポンと手を置いた。木場は友達と呼んでくれたことが嬉しかった。
「あの、初めまして、木場武志って言います」
木場はその三人組に緊張しながらも自己紹介をした。
「木場?木場ちゃんね!私、桜庭明日香!」
その金髪の美女は無理矢理木場の手を握り握手をした。この明日香という女性の振舞いには、どこか欧米人らしさを感じた。ちなみに、彼女は生まれも育ちも日本だそうだ。彼女のにこっと笑った笑顔は眩しくて、太陽みたいだった。
「木場ちゃん、どうせ、勝手に竜司にお弁当取られたんでしょ?よかったらこれあげる!」
横にいた相撲取りのような男がそう言って、持っていた肉まんを木場にくれた。
「おい、勝平!俺が金欠なの知ってるだろ!俺にもくれよ!」
竜司はそれを見て、勝平と呼ばれた男に対して、怒っていた。
「残念ながら、これラストの肉まん。残念でした」
勝平はそう言って、いたずらな笑顔で笑った。
「竜司、安心して、今日お弁当作り過ぎちゃったから、あんたの分も作ってきてあげたよ」
そう言ったのは、三人組の一人の黒いロングヘアーの女の子だった。
「流石!奈々が天使に見えるぜ」
竜司はたいそう喜んで、奈々と呼ばれた女性からお弁当を受けとった。
「木場ちゃん、私たちも一緒に食べてもいい?」
奈々と呼ばれた女の子が木場の隣に座って言った。
「もちろん、どうぞどうぞ」
「武志も俺たちと同じ、一年生だってよ」
竜司は木場の肩を軽く叩いて言った。
「え?本当に?じゃあ、木場ちゃんも一緒に授業受けたりしようよ!」
それを聞いた明日香は嬉しそうに言った。
「え?いいの?」
木場は戸惑いながら言った。
「当たり前だろ、もう友達なんだから」
竜司が奈々からもらったお弁当を頬張りながら言った。
「じゃあ、そうさせて頂きます」
木場がそう言うと明日香が笑った。
「もう、木場ちゃん、堅苦しいなぁ。同い年なんだから、ため口でしょ!そこは!」
「あ、ごめんごめん」
「よーし、今日は飲み行くぞ!」
竜司が大きな声で言った。
「竜司、金欠なんでしょ」
奈々が冷たく竜司に対して言い放った。
「勝平!お金貸して!」
竜司は勝平に手を合わせてお願いした。
「またぁ?しょうがないなぁ。倍にして返してよ」
「おっけおっけ。任せとけ」
竜司がひょうひょうと言った。
良く晴れた春の日、木場に大学生生活初めての、友達ができた。




