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きっと人生が、映画ならば  作者: 人間モドキ
10/23

ハロー犯人

二千十六年、十二月三十一日、午後七時頃。

 木場達の乗った車は山奥の廃病院の前に停まっていた。

「やっと着いたな」

 木場は車から降りて、廃病院を見つめて言った。

「着いたのはいいんだけどさ、本当に僕達だけで行くの?」

 勝平は不安そうに言った。

「当たり前だろ。明日香が待ってる」

 竜司は力強く言った。

「そうだね、どんな事があっても、助けないと」

 奈々はいつにも増して、冷静そうだった。

「おう、しかし、気になることがある」

 木場がそう言うと、竜司が不思議そうに尋ねた。

「どうした?武志」

「何故、俺達の車とは別に、三台も車が停まってるんだ?一台はあのヤクザ達のってのはわかる。他の二台は一体誰のだ」

 木場がそう言うと、奈々が答えた。

「もしかして、あのパーカーのフードを被ってたやつ。橘って人のじゃない?」

「げっ!あいつ、まだいるのかよ」

 それを聞いた竜司が苦虫を噛み潰したような顔で言った。

「だとしたら、もう一台は?」

 木場のその問いかけに、答えられる者はいなかった。

「なんだか、ややこしいことになりそうだな」

 竜司がそう言うと、木場が答えた。

「まぁ、俺達の目的はあくまで明日香の救出だ。このバッグを渡して、明日香を取り戻す。それだけ考えて行動しよう」

 木場はそうは言ったが、そんな簡単に物事が進むとは木場は思っていなかった。ここでこれ以上余計なことを言っても、皆が混乱するだけだと考えた。

「さぁ行こう」

 木場達は廃病院に向かって歩き出した。もう四人の中にそれを躊躇する者はいなかった。

 木場達は廃病院のドアを開け、中に入った。

「屋上に行くには、奥の階段を上るしかねぇな」

 木場達は奥に進み、階段を上った。木場達が三階に上り切ったとき、廊下の奥からうめき声が聞こえてきた。

「なに?今の」

 奈々がそう言うと、木場はハッとした。

「ここさ、俺と奈々と勝平が、迷ってた所じゃないか?見覚えがある」

「あっそう言われたら、そうかも」

 奈々がそう言うと、勝平が続けた。

「じゃあ、この三階の廊下。あのパーカー男に襲われたとこじゃん。あいつ、また来るかもよ。早く行こうよ」

 勝平はとても怯えてる様子だった。

「そうだな。早く行こう」

 四階へと向かおうとする竜司を木場が止めて言った。

「ちょっと待って、奥に誰かいる」

「えっ?」

 竜司が聞き返した時、三階の廊下の奥から、こちらにゆっくり歩いてくる男がいた。その男の姿がはっきり見えた時、木場は叫んだ。

「あいつだ!」

 パーカーのフードを被ったその男は、銀色のシャベルをこちらに構え、物凄い勢いでこちらに全力疾走してきた。

 木場達は階段を上り、逃げようとしたが、奈々が躓き、転んでしまった。

 奴はもう目の前まで迫っていた。パーカーの男は奈々めがけてシャベルを大きく振りかぶった。

 その刹那、竜司は持っていた一億円が入った大きなバッグで、思いっきりパーカーの男の横腹を殴った。

 パーカーの男はふらつき、そのまま階段を転げ落ちた。

 転げ落ちた、その男は二階と三階の途中にある、踊り場に倒れた。

 しかし、すぐにパーカーの男は立ち上がり、首をポキポキと鳴らしていた。

 どうやら、完全に怒らせてしまったみたいであった。

 パーカーの男は一気に階段を駆け上がり、竜司のお腹に強烈な右ストレートを放った。もろに食らった竜司は壁に叩きつけられてしまった。

「竜司!」

 木場達が竜司に近づこうとすると、パーカーの男は木場にハイキックをした。木場は咄嗟に腕で守ったが、衝撃で、木場も竜司の倒れている場所へ吹き飛ばされてしまった。

 奈々と勝平は唖然とした顔で硬直していた。

「もう!頭来た!」

 竜司はそう言って、立ち上がり、パーカーの男にアメフトで鍛えた強烈なタックルをお見舞いした。

 パーカーの男はタックルの衝撃で、三階の廊下を吹っ飛んで行った。

「今のうちに屋上に逃げるぞ!」

 竜司はそう叫ぶと、倒れていた木場を起こし、階段を駆け上がった。

 廃病院は五階建ての建物だった。そのまま木場達は四階、五階、と階段を駆け上り、五人は屋上のドアを開けた。


屋上の奥には、明日香が椅子に縛られていた。その両脇には、スーツを着た男が二人立っていた。

「みんな!」

 明日香が、大きな声で叫んだ。明日香の両脇に立つ男達は、拳銃を明日香の頭に銃を突き付けていた。

「明日香!」

 木場はそう叫びながら、明日香に近づこうとした。すると、両脇に立っていた、片方の男がこちらに拳銃を向けた。

「おっと、それ以上動くなよ」

 こちらに拳銃を向けてる男はドスの利いた声で言った。木場は奴が電話の相手であることを確信した。

「頼む。明日香に銃なんか向けないでくれ。バッグはちゃんと持ってきた」

 木場は、両手を上げながら言った。

 拳銃を向けた男は、バッグを持つ竜司を見て、「ゆっくりこっちにバッグを持ってこい」と言った。竜司は言われたとおりに、スーツの男達にゆっくりと近づいて行った。

 その時だった。屋上にパンっという銃声音が響いた。突然、明日香に拳銃を向けていた男が何者かに撃たれた。

「ぐっ」

 撃たれた男はその場にゆっくり倒れた。

「東山!」

 こちらに拳銃を向けていた男は、撃たれた男に対して、そう叫んだ。撃たれた男は東山というらしい。

 木場含めたその場の全員が、屋上の入り口に目をやると、パーカーのフードを被った男が拳銃を構えていた。拳銃の銃口からは、煙がモクモクと吹き出していた。

「てめぇ。誰だか知らねぇが、邪魔ばっかりしやがって」

 スーツ姿のその男は、パーカーの男に対して拳銃を発砲した。撃った弾は、パーカーの男の胸に当たり、パーカーの男は口から血を吐き出して倒れた。

「こいつ連れてきたのは、てめぇらか。よくも、東山をやってくれたな。堅気に手出すのは俺の仁義に反するが、悪いが我慢の限界だ。お前ら、全員殺してバッグは返してもらう」

 スーツ姿の男はそう言うと、再び、持っていた拳銃を明日香の頭に突き付けた。その時、竜司が大きな声で叫んだ。

「武志!」

 木場が竜司の目を見ると、竜司が何かを決心したのが伝わってきた。次の瞬間には、竜司は持っていたバッグを大きく振りかぶり、スーツ姿の男の方向へと投げた。

 バッグは大きく弧を描いて空中を飛び、スーツ姿の男と明日香の頭上をゆっくりと越えていった。

 スーツ姿の男はバッグを視線で追い、天を仰いでいた。バッグは屋上から、地上へと落ちていった。

 その刹那、竜司は物凄い勢いで、スーツ姿の男に飛びかかった。バッグに気を取られていたスーツ姿の男は、竜司の飛び膝蹴りをもろに食らった。飛び膝蹴りを食らった衝撃で、スーツ姿の男は持っていた拳銃を床に落とした。

 木場はスーツ姿の男が落とした拳銃をすかさず、拾った。木場は拾った拳銃を思わず、スーツ姿の男に向けた。

 木場が奈々と勝平を横目に見ると、二人は突然に起こった一連の出来事に、脳がついていけないのか、硬直していた。

「この糞餓鬼!」

 スーツ姿の男は蹴られたお腹を押さえながら、ゆっくり立ち上がった。

「てめぇみたいな餓鬼にチャカが扱えるか?」

 スーツ姿の男は笑いながら言うと、ゆっくりと木場に近づいて来た。

 その時、屋上の入り口のドアが開いた。白髪混じりの中年の男と、木場達と、さほど歳が変わらないであろう男が二人、屋上に入ってきた。

 二人のその男は、屋上の有様を見て、心底驚いている様子だった。二人は胸元から拳銃と警察手帳を取り出して叫んだ。

「全員その場から動くな!警察だ!」

「警察?何故、ここに?」

 木場は思わず呟いた。

 スーツ姿の男は入ってきた、その二人の男を見るなり、笑いながら言った。

「黒岩竜の極道人生。どうやら、ここまでみたいだ」

 スーツ姿の男はそう言うと、ゆっくりと屋上の端へと歩いて行った。

「動くな!」

 二人の刑事は、黒岩と名乗る、その男に対して叫んだ。しかし、黒岩はその歩みを止めなかった。

 屋上の端にたどり着いた黒岩は、木場達の方を振り向き、こう言った。

「糞みてぇな人生だったが、悪くなかった」

 黒岩は笑いながらそう言うと、屋上から地上へ身を投げた。

 次の瞬間には、地上から身体が地面に叩きつけられる鈍い音が聞こえてきた。

 それを聞いた屋上にいた一同は、しばらく固まっていた。

「一体、何がどうなってるんだ」

 中年の刑事は困惑した表情で言いながら、持っていた拳銃を下した。

「話すと長くなります」

 木場が刑事にそう言っている間に、竜司は明日香を椅子に縛っていたロープをほどいた。

「みんな!ありがとう!」

 明日香は嬉しそうにそう言うと、竜司と共に奈々と勝平のもとに走り出した。奈々と勝平は泣きながら明日香を抱きしめた。

「心配かけてごめんね」

 抱きしめられた明日香も、泣きながらそう呟いた。

「良かった、本当に良かった」

 竜司も明日香の肩をポンポンと叩きながら男泣きしていた。木場がその光景を微笑ましく見ていると、若い刑事が木場に近づいてきた。

「あの、水を差すようで本当に申し訳ないんだけど、君達には聞きたいことが山ほどあるんだ。悪いけど、捜査に協力してもらってもいいかな?」

 若い刑事は、申し訳なさそうな顔で言った。

「ええ、もちろんです」

「良かった。あっ僕は木下。こちらの刑事は、赤木です」

 木下は赤木という男を手で指した。赤木は軽く会釈をした。

「あっ木場武志と申します。あのでかいのが海村で、あの子が秋元奈々、太いのが山田勝平で、あの金髪の子が桜庭明日香です」

 木場はそう言うと、やっと泣き止んだ四人をそれぞれ指さした。

「木下、お前は血を流してる二人を確認して、至急応援を呼べ」

 赤木は木下に指示すると、木下は「はい」と言って撃たれた二人のいる場所に走った。「赤木さん駄目です。既に二人とも死亡してます」

 木下はそう言って、どこかに電話をかけていた。

「赤木さん、恐らくパーカーを着ているあの男、手配されてる橘圭吾って男だと思います」

 木場が神妙な面持ちで言うと、赤木の顔色が険しくなった。

「いや」

 赤木はそう言うと、パーカーの男に歩み寄り、顔を確認した。

「こいつは橘圭吾じゃない」

「えっ?」

 木場もパーカーの男の顔を確認した。その男の顔は、木場には見覚えがなかった。しかし、後ろに立って電話していた木下が驚いた声を上げた。

「赤木さん、やっぱり、こいつ」

「ああ、そうだ。火野大輔だ」

「何故、こいつが」

「橘もこの建物のどこかにいるはずだ」

 木場は訳が分からず、置いてけぼりだったが、ある事を思い出して木場は、はっとした。

「赤木さん、木下さん。この建物には恐らくまだ人がいます。三階の部屋に人が二人監禁されているのを見ました」

「それは本当かい?おい、木下行くぞ。木場さん、悪いんだけど、その部屋まで案内してくれるかな?」

 赤木にそう言われた木場は「ええ、もちろん」といって屋上から建物の中に入って行った。木場に続き、赤木、木下、そして何故か竜司たち四人も一緒について来た。

「ここです」

 木場はそう言って、部屋のドアを開けた。中は薄暗かったので、木下は持っていたミニライトで部屋を照らした。中には二人の人影があった。二人とも口はテープで塞がれ、手足はロープで縛られていた。昨日の夜、木場が見た光景のままであった。しかし、昨日の夜と違った点があった。二人は昨日の夜に比べて、かなり弱りきっていた。

 中にいた二人は、木場達に気づいたのか、うめき声を上げた。よく聞くと「助けてくれ」と言っているのが分かった。

 赤木は男達に近づき、口を塞いでいるテープを剥がした。木場は監禁されていた内の一人の顔を見て驚いた。

「橘圭吾」

 木場は思わず口に出した。

 橘圭吾と呼ばれた男は、木場のその言葉に反応して、木場の顔をまじまじと見つめた。しばらく考え込んだ後、橘は思い出したかのように言った。

「君は・・あの時の子か」

「僕もやっと思い出しましたよ」

 木場が橘にそう返すと、赤木と木下は互いの顔を見た。赤木と木下は二人とも、訳が分からないといった表情を浮かべた。

 赤木はもう一人の男に近づき、顔を確認して話しかけた。

「お前は田村健太だな?」

 赤木に田村と呼ばれたその男は、「はい」とだけ返事した。

「行方不明になっていた田村か。何故、橘と田村がここに一緒に監禁されているんだ?分からないことが多すぎて、混乱してきましたよ、赤木さん」

 木下はそう言いながら、自分の髪の毛をくしゃくしゃにした。

 すると、建物の外からパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。

「応援が着いたみたいだな。外に行こう。君達には、署で話を聞かせてもらうからね」

 赤木はそう言うと、皆を廃病院の外に出した。廃病院の外には、たくさんのパトカーと二台の救急車が到着していた。

 木場が赤木に一億円の入ったバッグの事を伝えると、大勢の警察官たちが建物裏を捜索し始めた。しかし、何故か、バッグは見つからなかった。

 黒岩、東山、火野と呼ばれていた人達の遺体は、救急車へと運ばれていった。

 そして、橘と田村は赤木と同じパトカーに乗せられていた。木場達はそれぞれ木場と竜司、奈々と明日香と勝平に別けられ、パトカーに乗せられた。

 木場達を乗せたパトカーは近くの警察署へと走った。

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