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第三話




 俺は、きっと物語にあこがれてたんだろうと思う。剣や魔法で凶悪なモンスターと戦い、危険なダンジョンを仲間とともに渡り歩く。そして美しい女性と出会い、ハッピーエンドを迎える。そんな英雄譚を、俺も世界に刻み付けたかったんだと思う。

 ―――俺が望んでいたのは、こんな世界だったのだろうか?




 あの日。俺が人間であった最後の日。突然倒れた俺は、すぐに地元の病院に入院した。しかしすぐに息苦しさで息が遠のき、気がつけばこの体これであった。

 最初は何が起こっているのかよくわからなかった。壁にもたれているようではあるが、後ろも周りも岩がむきだし。目の前には動く岩石の塊と鉱物の塊。どう考えても日本ではない。夢か、と疑った。胸の鼓動も呼吸している感覚も感じられないから、夢と言い張ることはできたのかもしれない。でも、もう二度と向こうの世界には帰れないという確証が、なぜか、心に太い根を張ってしまっていたのだった。

 その時の俺は、茫然自失、心ここにあらず、といった状態だったらしい。その状態の中で、目の前の無機物の塊が俺に話しかけてきた。

起動しためざめたようだね。動けるかい?」

 白く輝く金属のそれが優しい声色で言う。

 何このファンタジー。そう思っていると、動けないと判断されてしまったらしい。

「反応鈍いなー。末っ子なのに不良品なの、まずくない?」

「ダメだよー!せっかく弟できるのに、これじゃ意味ないじゃんー!」

「ルビー、ガネト、落ち着きなさい。彼は正常に作動している。もう少し様子を見よう」

「「はーい、プラチナ」」

「プラチナ、・・・というのか、あんたは」

「「お、さっそく動いたー!」」

 動けることを主張するために、少し体を起こしてしゃべる。息をしていないのに、声は出る。

「そうだよ。君の兄にあたる存在だ。そこの二人の兄でもある」

「この二人のお兄さんだよー」

「後7人お兄さんがいるよー。僕ら含めてねー」

「じゃあほかの“お兄さん”たちを呼んできてもらおうか、ルビー、ガネト」

「「はーい」」

「・・・さて、改めて自己紹介しようか。私はプラチナ。君の兄であり、ここにいる兄弟の長男だ」

「あんたたちは俺の兄なのか?俺の体、人間のものみたいなのだが」

 全身見れるわけではないが、俺の腕や胴は日本にいた頃より少し白いくらいの人間の肌をしている。裸ではなく服を着ているようではあるのでそこは安心してほしい。一応性別は男の様だということも追記する。

「君は、エマス。私たちゴーレムの中でも、最終型の体である人型人形ヒューマノイドだ」

 それから、プラチナは俺にゴーレムやこの世界について教えてくれた。俺たちゴーレムは、ラビという技術者によって作り出された労働用の人形である。人間の仕事の負担を下げることを見込まれ、実験用の機体として9体のゴーレム―――金属型人形アイアノイド4体、岩石型人形ストーノイド4体、そして人型人形ヒューマノイド1体―――がこの地下の鉱床で働くことになったのだという。ラビは、その9体を作成したうえで、起動したプラチナたち8人に教育を施し、俺を起動して去っていったのだという。それから数か月たち、俺がやっと起動して今に至る。

「詳しいこと、君にこれからやってほしいことは追々説明するよ。今これ以上話しても入ってこれないだろうから」

「あ、ああ・・・ありがとう、プラチナ兄さん」

「ふふ、プラチナでいいよ。」

 プラチナはそう言った。金属の塊だから表情は見えないがどこかしら嬉しそうだった。

「わかった。プラチナ、これからよろしく」

「ああ、よろしく」

「ずるいなぁ、プラチナ。一人だけいいところもっていきやがって」

「ダイヤ。あの二人から聞いたのかい」

「ああ。他の奴らはもうどんちゃん騒ぎだから、お前ら呼びに来たんだよ」

 岩の塊が俺の前にやってきた。さっきまでいたルビーとガネトよりも少し大きく、そして白っぽい。ダイヤと呼ばれたその塊が俺に向かって話しかけてくる。

「っと。挨拶してなかったな。おはようエマス。俺あダイヤ。岩石型人形ストーノイド第一機体だ。お前の面倒を見るようにラビに言われてる」

「エマスにはダイヤと一緒に仕事してもらうことになるよ」

「そういうことだ。よろしく・・・そういえば、プラチナ。お前、伝言伝えたか?」

「あぁ、まだだね。エマス、ラビから伝言だ」


『エマス、君はゴーレムにとっても、人々にとっても大切な存在なんだよ。この世界で為すべきことを、自分で決めていってほしい。それがきっと、この世界を支えていくから』


 この伝言を聞いた後、俺たちは他の物たちのいる場所へ向かい、今と同じように宴会をした。その場にいたシルヴァやルビーたちも同じことを言っていた。

 これが、俺にとってのこの世界における最初の記憶である。




 宴は最高潮を迎えていた。ルビーとガネトはいつの間にか頭の陥没を修復して、またバクバク砥石を食べていた。トパー、カーパーも警備から戻ってきている。

「エマスよぉ、もっと食べようぜ」

「そうだ、そうだー!」

「よく食べて、楽しく騒げー!」

「一理あるな。しっかり食べないと」

「・・・修復や再構成に鉱石の摂取は必要だぞ」

「わかったよ!食べればいいんだろ、食べれば!」

「無理はしない方がいいぞ」

「無理して食べる程度じゃないとダイヤとか納得しないけどな、トパー」

 兄たちは、俺に絡んでくる。少しうっとうしくはあるが、みんな優しさをもって俺に接してくれている。その優しさに、俺は少しうれしくなる。


 この世界は俺の望んだ世界ではない。非現実的で、退屈だ。二度と血の通った体に戻れないであろう絶望は、薄れることがないだろう。

 ―――だけど。このひとたちのせいで、やっぱりこの世界は嫌えそうにない。

ご指摘ご感想ありましたら感想蘭にぜひお願いします


次回更新は10/28(金)10:00

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