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時の彼方へ ~完結編~  作者: 松本裕二
1/1

タイムスリップ

  〜時の彼方へ〜

  作:松本 裕二


 《ルルルルルー、ルルルルルー、ルルルルルー、ルルルルー、》

(くそ、こんな遅くにどこに行ってるんだ・・)

 妻は、男の帰宅が遅いのをよいことに、時折夜どこかに出かけているらしい、

 彼は乱暴に携帯を閉じると駅を背に歩き始めた、

(まったくなんて日だ、終電にさえ乗り遅れるなんて、)

 25年ローンで購入した郊外の自宅迄は電車で一時間半、とてもタクシーを使える距離ではなかった、

(とりあえずビジネスホテルに泊まろう・・)

 運良く? 駅前のシングルが一つだけ空いていた。

 上着を脱ぎ捨て、暑苦しいネクタイをベットに放り投げると、近くにある居酒屋に向かった。昼食を採る時間もなく、午前12時を過ぎた胃は空っぽになっている。


「えっと、とりあえず生の大と、それとこのスペシャル海鮮丼をください、」

「はい、かしこまりました、ビールは先にお持ちしますね、」

「うん、お願いします、」

 アルバイトらしい、店員は若い笑顔で微笑んでいる、

(可愛い子だな、友里と同じくらいの年かな・・まっ、可愛さでは娘の方が上だが・・)

 一人娘の友里は今年成人式を迎える、幼い頃は煩わしいくらいにまとわりついていてきたものだが、今ではろくに会話さえない、


「お待たせしました、生の大と、スペシャル海鮮丼でございます、」

「ああ、ありがとう、」

「伊勢海老のお味噌汁は後からお持ちしましょうか? 冷めるといけないので、」

「ああ、そうしてください、」

(気の効いた子だな・・娘の友里とは大違いだ・・)


 豪華な海鮮丼で2杯目を飲み干した頃である、

「お客様、やめてください、」

 先程の彼女の泣きそうな声が聞こえてきた、

 声がする座敷の方に目をやると、金髪で品のない男二人が、彼女にちょっかいをだしている、

「だからさ、一緒に飲もうって言ってるんだよ、酌してくれよ、」

 キツネ目の男が、彼女の右手をつかんでいる、

「そんな、ここはそんなサービスはしていません、他の店に行ってください、」

「つーかさ、俺達近くのホテルに泊まってるんだけどさ、部屋で一緒に飲まないかい、」

 もう一人の太った男が油の浮かんだ顔で、彼女の胸に手を伸ばそうとしている、

「やめてください、やめてー」

 店長は店の奥でただその様子を眺めているだけである、


「いいかげんにしないか、それ以上は犯罪行為だぞ、」

 男はしかたなく立ち上がると、座敷の二人に詰め寄った、

「はぁー、なんだおっさん、なにいちゃつけてんだよ、死にてえのか、」

 キツネ目の男が凄んでいる、低い鼻と曲がった口元に下品さが漂っている、

「死にたくはないね、お前達みたいな馬鹿相手にね、」

「馬鹿だと、上等じゃねえか、それは俺達に対する地雷言葉だぜ、今日がおっさんの命日になりそうだな、」

 太った油男が立ちあがった、でかい。

「やす、やっちゃえよ、」

 キツネがけしかけている、

 油男は指を鳴らしながら、座敷から降りてきた、

 男は少し広いスペースまで下がった、

「逃げるのかっ、てめえー」

 油男の右ストレートが顔面に飛んできた、ボクシングをかじっていたのかパンチがさまになっている、

 男はそれをすかざず左上段で受けると、空いたみぞおちに渾身の右中段突きを叩き込んだ、

 一瞬、油男の身体が宙に浮くや、もんどりをうって後ろに倒れた、ピクリとも動かない、

(しまった、本気で入れてしまった・・)

「やすっ、やすっ、」

 キツネが油男を揺すっている、

「おいっ、まだやるか、私は今日は少々機嫌が悪い、手加減はしないぞ、」

「いえ・・いいっす・・・」

 キツネは脅えきっている、根は極めて臆病な男らしい、この手合いは皆んなそうだ、

 しばらくすると油男が意識をとりもどした、立ち上がるも足がふらついている、

(良かった・・30年前の私の突きなら、死んでいたかもしれない・・)

「いいか、お前達、二度とこの店に来るんじゃないぞ、こんどはただではすまないからな、」

 二人は子猫のように震えながら店を出て行った、こういう手合いは強い者には極端に弱くなる。

「あのー、ありがとうございました、お礼と言ってはなんですが、今日のお代はけっこうですから、」

 店長が、おずおずと声をかけてきた、

「いえ、お代は払います、」

「お客様、ありがとうございました、あの二人最近時々来るようになって困っていたんです、お客さん強いんですね、」

「ははっ、大学時代空手をやっていてね、これでも主将だったんだ、」

「凄いっ、素敵です。あっ、そろそろ伊勢海老のお味噌汁お持ちしますね、」

「ああ、お願いします、」

 いらぬと言うのに、店長はサービスですと、次々と酒をだしてくる、すっかり男は酔ってしまっていた。帰り際には明日の朝食にとサンドイッチまで、持たせてくれていた。可愛い彼女に見送られながら男は千鳥足でホテルに向かっている、

 人気のない路地裏にさしかかった時である、

「おっさん、ご機嫌だな、」

「うん、お前は・・」

 酔った目線の先にキツネ男の姿があった、

「なんだ、まだやるのか?」

「やらねえよ、おっさん強いからな、一言謝ろうと思ってさ、」

 キツネ男が頭を下げている、

「まぁ、反省しているならいいさ、頭を上げろよ・・」

 言い終わらぬうちに後頭部にいきなり激痛が走った、振り返ると、もうろうとした意識の先に油男が鉄パイプを持って立っていた、

「お、おまえら・・」

 そのまま、意識が消えていった。


「淳起きろよ、淳っ、」

 誰かが激しく布団を揺すっている、

「起きろってば、講義遅れるぞ、単位やばいんだからな、起きろってば、」

(うん・・誰だ・・頭が痛い・・)

「起きろーっ、」

 今度は耳元で叫んでいる、さすがに目が開いた、頭がさらに痛い、

「君は・・君は誰だね?・・・」

「修だよ、おさむっ、お前のお友達の修さんだ・・お前な、コンパで飲みすぎなんだよ、昨日俺がかついで連れて帰ったの覚えてるか、」

「コンパ・・」

(そうだ、昨日・・昨日、あいつ等に不意打ちされて意識をなくしたんだ・・彼が私を助けてくれたのか・・)

「君が私を助けてくれたのか、いや、本当にありがとう、お世話になりました。いきなり後頭部を殴られてね、意識を無くしたみたいだ、」

「何言ってんだ、お前酔って、店の階段から落ちたんだよ、死んだかと思ったぜ、」

「いや、そんな筈はないんだが・・しかし君、もう少し目上の者に対しては敬語と言うものを使いたまえ、」

「何が目上だよ、俺達は22だ、誕生日で言えば俺がお前のお兄様だ、」

「22・・22歳ってことかね、いいねその年に戻れるものならね、戻りたいものだね、遠い昔だね・・」

「あー、もう馬鹿ちん、早く支度しろよ、朝めしだけは食わないとおばちゃんに怒られるからな、」

「いや、これ以上世話になるわけにはいかない、その君のおばちゃんにご挨拶して私は会社に行くよ、」

 後頭部をさすりながら立ちあがった、

「あー、うるさいっ、あっ、お前まんまじゃん、服きたまんまだ、そのままで行けるぜ、」

「えっ、」

(あれ、これはなんだ、誰の服だ・・細いジーパン、ブルーのTシャツ、スヌーピーの絵柄がお腹で笑っている、あれっ? そう言えばお腹がない・・妻にいつも注意されている腹が無くなっている、触ってみると脂肪のかけらもなく、替わりに固く四つに割れた腹筋がある。)

「なに、腹触ってるんだよ、さぁいくぞ、」

「ここは君の部屋かね?」

 四畳半の狭い部屋に机が一つ、ずいぶん旧型のラジカセが乗っている、他には白いファンシーケースが一つ、他はTVも何もない。

「この時代に、君はずいぶん質素な生活をしているんだね、苦学生かね?」

「苦学生? なんじゃそれ、ここはお前の部屋だよ、もういつまでもジョークこいてんじゃないよ、」

「あれっ、君、私髪がずいぶん長くなっているんだが・・」

 ファンシーケースに掛かっている鏡をのぞきこんだ、

「あれっ、シワが消えている、」

 肌がピンと張り、艶やかである、白髪が一本もない髪は耳を隠すほどに長い、そして、そこには若い青年のさわやかな顔が映っている。

「君、私若がえっているぞ、ひょっとしてここはあの世なのか、そうか・・そうなんだ、私はあのまま死んだんだ・・」

「ええーい、淳、いい加減にしろ、飯行くぞ、飯っ、」

 強引に手を引っ張られると、部屋の外に連れ出された、ギシギシとなる木の廊下を渡り、木の階段を下りて行く、

『南先輩、加藤先輩、おはようございまーす、』

 1階の食堂らしいそこには、7名程の若い男達が朝食を採っている、一斉に挨拶をしてきた、

「南先輩・・なんで私の名前を彼等は知っているんだ?」

「淳ちゃん、修ちゃん、ようやく起きたね、朝食だけはしっかり食べるんだよ、これはうちの掟だからね、」

「あっ、おばちゃん、おはよう、今日は何?」

「今日はね、鮭の塩焼きと、豚汁じゃよ、それと私が漬けた茄子と胡瓜の糠づけだよ、」

「おー、豪勢だ、」


「さっ、淳、食おうぜ、」

「ああ、あの・・貴女は時さんではありませんか?」

「ははっ、なんだい淳ちゃん、私は時さんだよ、この福良荘の名物おばちゃんさ、」

「お久しぶりです、お変わりないですね、大学時代は本当にお世話になりました。えっ、でも私が卒業する頃、お時さんは確か70歳・・あれから30年ですから、今は100歳ですか・・」

「何失礼なこと言ってんだよ、淳、お時さんは今年まだ69になったばかりだよ、この前皆んなでお祝いしたばかりじゃないか、」

「ああ・・そう・・・」

(そうだ・・ここは確かに福良荘だ、この食堂、よく故障する古びたTV、食堂の片隅にある黒電話、背の高い首の廻らない扇風機・・なによりお時さんの笑顔とこの男臭い香り・・・)

「おーい、淳っ、自分の分は自分で持ってけよ、牛乳は俺が持っていってやるからさ、」

「ああ・・」


「君、美味いね、この豚汁は最高だよ、いや手作りの料理なんて久しぶりだよ、」

「ああ、おばちゃんの豚汁は最高さ、肉が少々少ないけどな、お前も早く結婚して手作りの朝食を作ってもらえよ、」

「いや、それは無理だね、うちの妻ではね・・」

「はぁー、どこの妻だよ・・」

(うん・・この男は・・・)

 豚汁を嬉しそうにご飯にかけている男の横顔に記憶が蘇ってきた、

「あっ、君は、君は修か?」

「はー、なんだよ淳、いや南君、まだジョークこいてんのかよ、」

「そうだ、修だ、いや加藤だ・・ずいぶん若変えったな、頭に毛もあるし、」

「ふざけんなよ、俺の髪はまだふさふさしてるよ、」

「いや、30年後の君はつるっぱげになっているんだ、」

「つるぱっげ・・嫌なこと言うなよ、確かに親父が禿げてるからな、気にはしてるけど、俺は違うぞ簡単に禿げてたまるか、」

「気合だけでは駄目だね、禿げない努力しないと、どうでもいいが今日は何年だね? 昭和○○年、7月20日さ、馬鹿かお前は・・・」

「し、昭和・・昭和○○年・・30年前じゃないか、」

「知るか、」

(と言うことは・・・私は30年前の大学時代に戻ったと言うのか、タイムスリップと言うやつか・・まさか・・・)


(懐かしい、何年ぶりだろう、ここは間違いなく、私の母校 東都大学だ、本当にタイムスリップしたのか・・)

「加藤君、いや修、昨日私は黒い鞄を持っていなかったかね?」

「鞄? お前って財布さえ持たないじゃないか、」

「紺のスーツを着ていたはずなんだが・・」

「ああ、就活に備えてそろそろ買わなくちゃな、来月バイト代がでたら買いに行こうぜ、」

「困ったな鞄の中に携帯とノートPCが入っているんだ、」

「携帯?、ノートPC? なんだよそれ、」

「電話だよ、君、それとパソコンさ、それがないと仕事に困るんだよ、」

「電話が鞄に入る訳ないだろう、パソコン? なんじゃあそれ、 お前さ、本当おかしいぜ、やっぱ昨日階段から落ちた時、頭打っておかしくなったんだ、講義が終わったら病院に行った方がいいぜ、」

「ああ、いや・・」

『南先輩、おはようございます、おっす、おっす、おーすーっっ、』

 屈強な若者の一団が頭を下げている、

「ああ、おっす・・」

「修・・彼等は誰かな?」

「お前の空手部の後輩達じゃないか、忘れたのかよ、退部してまだ三カ月だろう、まっ、しかしお前は全国大学選手権で準優勝して主将を引退したんだもんな、頑張ったよな、」

「ああ、まぁ・・遠い昔の話しだよ、」

「まっ、これからは就活だよな、つまんないよな、サラリーマンなんてさ、」

(そうだ・・結局加藤は父親のコネで証券会社に入ったが、過労死で亡くなった・・)

「ああ、そうさ修、君はサラリーマンは辞めた方がいい、特に証券会社は辞めたまえよ、絶対に、」

「はぁー、なんだよそれ、証券会社なんて俺の一番苦手な世界じゃないか、でもさ結局はサラリーマンになるしかないんだよな、なんの才能もないしな、」

「そんなことはない、とにかく証券会社は止めたまえ、君には向かない、」

「変だぜ、お前・・」

「あー、しかし修、若いっていいね、体が軽いよ、しかもここはいいよね、時がゆっくりと流れている、」

「なんだよ、お前、まるで中年の親父みたいだな、」

「うん、まあね・・」


 国際経済組織法の講義が始まった。加藤は隣で寝ている。

(桜井講師だ・・)

 40代半でまだ一介の講師にすぎないこの人は、20年後には外務大臣となり、大いにその手腕を発揮するのである、今はまだ、よれよれの背広を身につけ、鼻水をすすりながら滑舌の悪い講義をしている貧しい身分に過ぎなかった。たまに袖で鼻水を拭いている。


「いやー、修、桜井助教授の講義は楽しかったよ、勉強になったよ、」

「そうか・・後でノートコピーさせてくれよな、しかし腹減ったな、」

「ああ、そうだね、」

 お時さんの美味しい漬けもので三杯もおかわりしたのに、もう腹が鳴っている、

「一食に行くか、」

「一食?」

「第一食堂さ、お前のお気に入りじゃないか、」

「ああ、うむ・・」


「さて、何にするかな、」

 自動券売機を二人は眺めている、

「今日はかつ丼と肉うどんだな、」

「淳は何にする?」

「じゃ、私もそれで・・幾らだね?」

「300円だよ、」

「300円かね・・随分と安いね、」

 ポケットを探ると、シワシワの500円札がでてきた、

(おー、懐かしいな、500円札だ、これは使いたくないな、)

「なんだよ、札は使えないぜ、いいや俺が立て替えてやるよ、」

 加藤はポンポンと硬貨を入れると慣れた手つきでボタンを押している、


「修、このかつ丼の肉はハムかね?」

「ハム? 薄いだけさ、学食だからな、」

「しかし、美味いね、」

「まぁな、」

「このうどんの肉も小さいが、出汁がしっかりしててなかなかのものだよ、私は接待で高級料理ばかり食べてきたが、こういう粗末な物も悪くないね、」

「はー、そうですか、ところでお前、今日バイトの日だろう、」

「バイト?」

「部を辞めてから、火曜と金曜はデニーのバイト日だろう、」

「デニー? ああ、あのスーパーなら10年前に倒産したよ、」

「倒産? 馬鹿言うなよ、全国展開のデニーが潰れるわけないだろう、」

「いや・・ああ、まぁいいか・・何時からだったかね?」

「五時だろう、」

「ああ、うむ・・」


「南課長どういうことですか、なんの為の計画書なんですか、提出してもらってからまだ2週間もたたないと言うのに、さらに200万ショートすると言うんですか、これでは計画にもなにもならない、あなたの4課だけですよ、こんなに毎回数字が狂うのは、管理能力を疑われてもしかたないですね、」

「すみません・・」

「分かっているとは思いますが、今月は本決算です、通常月とは違うんです、どうしても数字をやらないといけないんです、分かってますよね、」

「はい・・重々承知はしています・・」

「ではやってください、もう一度二人の係長と数字を詰め直してください、もうこれ以上、他の課に上乗せはできませんよ、」

「はい・・」

 幹部会議は重い空気に包まれている、黒崎営業部長を中心に4人の営業課長達は暗い表情で楕円形のテーブルを囲んでいる、その中でも4課の南の表情はさらに沈痛であった。


「・・・と、言う訳で修正計画は蹴られたよ、なんとしてもやれと言うんだ、」

 2人の係長は疲れきった表情でうつむいている、

「すみません、課長、詰めに詰めた結果の200万マイナスなんです、これ以上はどうしょうもありません・・」

 1係長の山木が、係の計画書を睨見ながらうなだれている、

「課長、山木さんとも話したんですが、二人でこの200万を作ろうと思うんです、」

「作る・・どういうことだ、」

 2係長の上田が青ざめた顔で話している、

「はい・・二人で100万づつ、買おうと思うんです・・」

「買う? 何を買うんだ、」

「商品です、山木さんと私の販売店に頼んで商品を100万づつ仕入れて貰って、それを買おうと思うんです・・販売店にとってはリベートや、表賞の数字になるのでメリットがあります、」

「それは不正行為だ、なにより、なんで君達が100万もの自腹を切らなくてはならないんだ、山木君、君は子供が生まれたばかりじゃないか、今から金がかかるんだぞ、上田君だって来年結婚するんだろう、お金が必要な時だよ、駄目だ、絶対に許さんぞ、」

「しかし、課長、もう手がありません、1課や2課、3課も決算の為にそれぞれの店で商品を少しづつ買ってるんです、課長は昨年転勤でこの支社に来られたばかりで、ご存知ないでしょうが、この支社ではそうして数字を作ってきたんです、少し前までは公に半強制的に社販までしていたんです・・」

 山木が開き直ったように話している、

「馬鹿な、そんなことをしてどうなると言うんだ、いいかとにかく200万を少しでも詰める努力だけをしてくれ、くれぐれも課員に変なことをさせてはいけないよ、君達もだ、全ての責任は私がとるから・・分かったね、これは命令だ、」

 二人の係長は泣きそうな顔で下を向いている、時計は午後10時を過ぎていた。

 二人が帰った後も男は一人デスクに残っていた、

(疲れたな・・何が一流企業だ、社員にくそみたいな負担をさせて、馬鹿な上司達の為に神経をすり減らす・・派閥争いに明け暮れるだけの、くそ爺いどもが・・これが私の人生か・・名門東都大学を卒業し、天下の美生堂に入社できたものの、毎日数字と言うノルマに追われ、販売店に頭を下げ、部下に気を使い、あげくのはてには5歳も年下の上司にこきつかわれている・・家に帰っても妻は不在か、寝ているし、一人娘の友里は口もきいてくれない・・なんなんだ・・どこで私の人生は間違ったんだ・・戻れるものなら過去に戻ってやり直したい・・やり直したい、やり直したい、やり直したい・・・・・・)


(ここら辺だったかな・・)

 デニーの裏口に廻ると、警備室があった、

「あのー、すみません、バイトのものなんですが従業員入口はこちらですか?・・」

「おー、なんだい南君、いつものギャグかね、この前貸してくれた経済原論、面白くてね、もう少し借りててもいいかな?」

「経済原論?・・あ・・どうぞ、どうぞ・・あっ、岩佐さん・・岩佐さんですよね・・お久しぶりです、30年ぶり・・」

「ははっ、火曜日以来だからね、お久しぶりだね、」

 白髪の警備員は陽気に笑っている。家庭の事情で高校を中退した彼は勉強が好きで、大学生の南から休憩時間に大学の講義内容を聞くのを楽しみにしている、

「南君、タイムカードを押すの忘れるなよ、また主任から叱られるからね、」

「あ、はい・・」

 従業員入口を入るとすぐにそれはあった、アルバイトの列に南 淳のカードがあった。

『ガッチャ、』と打刻する、ずいぶん旧型のタイムカードである。

 少しづつ記憶が蘇ってきた、

(ここだ・・)

 ロッカーに南と書いてある、

 デニーの赤い制服に着替えると店内に向かう、

(確か、食品3課だったよな・・この辺か・・)

 彼の担当は食品3課のインスタント食品コーナーである、インスタントラーメンを中心に様々なインスタント食品が並んでいる。各商品の補充やPOP付け、特売のエンド作りが主な仕事である。

(この時代はまだカップ麺は少ないんだよな、ほとんどが袋麺だ、)

 彼は30年前のスーパーにタイムスリップしていた、レジを観るとPOSシステムはまだなく、レジでは価格を直接打ちこみ、お金を数えては客にお釣りを渡している、

(大変だな・・よく間違えないもんだ、)


「南くーん、ちょっと手伝ってくれ、」

(えっ、誰だろう・・)

「タイムセールの準備を手伝って欲しいんだ、今日は卵だからね、とりあえず500パックをエンドに積んで欲しいんだ、」

「あっ、はい・・」

『主任―ん、加藤主任、店長がお呼びでーす、』

「あ、はーい、じゃ南君頼むよ、」

「は、はい・・」

(思いだした、加藤主任だ、ずいぶん若いな、そうか当時彼は31か・・今の私より20歳も若いんだよな、いや・・20歳年下か?・・)

「お兄ちゃん、タイムセールは何時から?」

 太ったおばちゃんが、声をかけてきた、

「あっ、はい・・えーと・・そう六時からです、確か・・」

「そう・・なんかあんた頼りないわね、」

「すみません、新米なもので・・」


(ふうー、スーパーの仕事は大変なんだな、少しづつ仕事の記憶が戻ってきたものの、てんてこ舞いだった。しかし疲れのかけらもないな、若いとはいいものだな・・)

 九時の閉店後、帰ろうとした時である、

「南君、お疲れ様、これから少しつきあってくれない?」

「えっ、水上さん・・水上さんですよね?」

「なに言ってんのよ・・いつもの酒楽亭で待ってて、」

「ああ・・はい・・・」

 水上 早苗は、食品3課の副主任である、当時29歳。南には忘れようがない女性であった、

(水上副主任・・生きている・・・)


 彼女はニ階の個室がお気に入りであった。この時代には珍しく4年生大学を卒業し、デニーの商品部に配属されたのであるが、現場を強く希望した彼女は今はデニーM支店、食品3課の副主任を勤めている。

「私ね、デニーの今のやりかたでは将来駄目になると思うの、創業時からの薄利多売の方針では、いつか息詰まるわ、これからの消費者は価格よりも価値を求めてくる時代になると思うの、商品部でもずいぶん提案したんだけどね、相変わらず、どこよりも安くだもんね、時代遅れの頭の固いおっさんばかりよ、」

 ピンク色に染まった頬には成熟した女の色気が漂っている、

「あのさ、加藤主任のことどう思う?」

「えっ、どうって・・」

 南は二杯目の生を飲み干そうとしていた、

「あれ、南君、ずいぶん飲めるようになったわね、ふーん、いいことよ、私の奢りだからね、どんどん飲みなさい、君は不真面目のようで真面目だからね、今一イラツクのよね、たまには狂いなさいよ、」

「はぁ・・」

 加藤主任がどうかしたんですか?」

「結婚を申し込まれているの、」

「へー、そうかね・・」

「そうかねって・・」

「いや、いえ、そうですか・・」

「変なの・・でもね、なんか違うのよね、なんか・・」

「直感的と言うやつですか?」

「そうよ、それそれ、」

「そう言う時はやめておいた方がいいと思うね、たぶん・・」

「うん・・そうよね、さっ、飲みましょう、私明日は公休なの、南君はどうせ毎日が日曜日の大学生だから大丈夫でしょう、」

「えっ、まぁ・・」

(そうだ、私は22歳、大学の四回生、毎日がゆったりと楽しかったあの時代に戻っているんだ・・夢ならずっと覚めないで欲しい・・)


(淳のやつ、あのコンパ以来ほんと変だよな、なんか中年の親父になったって感じだ・・)

「おさむちゃん、あたしゃ帰るからね、あと頼むね、」

「あっ、おばちゃん、お疲れ様でした、」

 加藤 修は、このうどん店、“くら”で週三日のバイトを始めて二年になる、福良荘の近くにある店で国道沿いにある為、学生だけでなく、一般のお客さんも多い、おばちゃんはいたって呑気で、うどんの出汁づくり以外はコミカルなほどにいい加減なオーナーである。彼はレジの清算をすると、年代ものの黒い金庫にお金を入れ、まかない?を作り始めた。

(今日は何にするかな、肉うどんにまる天入れて、えび天もいれて、昆布もいれて、きつねも入れて、もち卵もいれて、ネギは滅茶一杯のせて、とにかく全部のせうどんだ、あと稲荷とおにぎり食って・・夏場はおきゃくが少ないよな、冷やしうどんとかすればいいんだけど、おばちゃんはなぜか頑固にメニューを変えないんだよな、まぁ、いいけど・・)


「淳のやつ、まだ帰ってないみたいだな、」

「加藤先輩、南先輩今日はバイトですよね、最近なんか変なんですよね、夜は11時には寝てるし、朝なんか早く起きて散歩してるみたいですよ、」

 経済学部一回生の田中がお茶をいれてくれている、

「散歩か・・」

 福良荘の食堂では加藤の持ち帰った、おにぎりや稲荷を寮生達が頬張っている、売れ残った分はもったいないので、全て持ち帰って皆んなで食べるようにおばちゃんに頼まれている、

「昨日なんていきなり部屋に来て、『君、これからはITの時代になる、その分野をしっかり勉強しておきたまえ』、なんて言われるんですよ、」

 工学部二回生の井上は好物の稲荷とおにぎりを交互に頬張っている、変わった男で稲荷の皮を外しては別々に食べている、

「ITってなんだよ?」

「はい、加藤先輩、情報技術のことです、」

「ああ、あれかコンピュータか、」

「はい、うちの大学でも研究が始まっているみたいですが、とにかくコンピュータの操作は難解なんですよ、一般の人にはとても使えるような品物ではないんですが、南先輩いわく、30年後には小学生でも使っていると言うんですよね、」

「ふーん、淳のやつどうせSFの本でも読んだんじゃないか、」

「あっ、それと30年後には殆んどの人が携帯とかを持っていると言ってましたよ、手のひらに乗るくらいの小さな電話なんですって、」

 文学部二回生の木下が缶ビールを片手に話に加わってきた、おにぎりのたくあんをつまみにしている、

「ふーん、淳のやつそんなこと言ってたのか、携帯電話か・・あれば便利だろうな、」

「そんなことないですよ、加藤先輩、どこにいても連絡が取れるってなんか窮屈じゃないです、うちの親はうるさいですからね、しょちゅう電話されたらかなわないですよ、なんか猫の首に鈴って感じで・・」

「少し例えが違う気がするが、まっ、そりゃそうだな、自由がなくなるよな、それに手のひらに乗る電話なんて、ありえないよな、糸電話じゃあるまいし・・」


「おはよう・・」

「ああ、おはよう・・」

「今日も仕事かい・・」

「ええ、容態の悪い患者さんがいてね、気になるのよ、貴方お食事は冷凍室に作りおきしてあるからチンして食べてね、それじゃ、行ってきます、」

「ああ・・」

 朝刊に目を落としたまま、妻の顔を見ようともしなかった、

 自分でコーヒーを入れると、トーストを焼く、疲れが泥のように溜まっている。

「あっ、おはよう・・」

「・・ああ、おはよう、」

 珍しく娘と会話?をした、置物を見る様な目で”チラッと”一瞬こちらを見たかと思うと、冷蔵庫から牛乳を取りだし、逃げるように二階に消えて行った。後ろ姿が若い頃の妻にそっくりである、

(妻と知り合ったのは今の百合くらいの年だったよな・・)

 一人寂しくトーストにバターを塗り始めた時、携帯が震え始めた。

 着信に岡 友美と表示されている、

(岡君?・・)

「はい、もしもし岡君かい、」

「南課長ですか・・」

「うん・・私だよ・・」

「岡です、岡 友美です・・」

「ああ、岡君、どうしたんだね?」

「課長・・実はご相談がありまして・・せっかくのお休みのところすみません・・」

「いや・・いいよ、なんかあったのかい、」

「はい・・・」

(彼女の声に尋常でない様子を感じた・・)

 岡 友美は4課の美容社員である、まだ19だが仕事熱心で、販売店や顧客の評判がすこぶるいい、いずれは美容社員のリーダー的存在になる人材である。


「課長すみません、せっかくのお休みなのに・・」

「いや、かまわないよ、どうせ暇だしね、それよりどうした顔色が悪いぞ、」

「実は・・私・・私・・妊娠しているんです・・・」

「えっ、妊娠・・・」

 口に運ぼうとしたコーヒーカップが宙で一瞬とまった、彼女は下を向いたまま、まだ手もつけていないコーヒーカップを見つめている。

 日曜のカフェはそろそろ人が増え始めていた、

「相手は彼氏かい?」

 少し声をひそめて聞いた、

 彼女は静かに首を振ると、白い頬に涙がつたい始めた。

「いや・・さしつかえがあるなら答えなくていいんだよ・・で、どうするんだい・・産むのかい?・・」

 今度は激しく首を振っている、そして大粒の涙が幾筋も頬を流れ始めた、

 廻りの客達がチラチラとその様子を眺めている、

「黒崎・・黒崎部長の子なんです・・」

 彼女は喉からふりしぼるよう声で、ようやく口を動かしている、

「えっ、黒崎・・黒崎部長の?・・・」

 それは二カ月前の慰安旅行の事だという。二次会も終わった頃、美容主任の山木の誘いで、何人かの美容社員とともに、黒崎部長の部屋で飲み始めたという。黒崎が苦手な岡は早く自分の部屋に戻りたかったものの、美容主任の山木のてまえ席を立てずに我慢していたと言う。そして、黒崎が作った水割りを飲んだ直後急に強い睡魔に襲われ、そのまま意識をなくしてしまったという。

「気づいたら、部屋には私一人になっていて、で・・部長が上に乗っていて・・それで、それで私、激しく抵抗したんですが・・」

 余程辛い思いをしたらしい彼女の肩は激しく震え始めた、

「先月、生理が来なかったんです、それで昨日病院に行ったら二か月だと言われて・・」

「いいよ、岡君、もういいよ・・辛い思いをしたね、分かった、この件は私に任せなさい、これ以上君が傷つかないように考えるからね・・」

(なんてことだ、黒崎の奴・・もし娘の百合が同じ目にあったとしたら、私は奴を殺すかもしれない・・)


「・・と言う訳で淳、月曜の六時空けておいてくれよ、」

「うーん、コンパなんてこの年だしね、私は遠慮しておくよ、」

「なにがこの年だよ、そりゃ22なんて10代からみればおじさんかも知れないけど、お前コンパ大好きじゃないか、なっ、頼むよ、もう返事しちゃたんだからさ、なんか凄げえ美人揃いらしいぜ、頼むこのとおりだ、」

 修が男にしては少さな白い手を合わせて拝んでいる、

「うーん、じゃ顔だすだけだよ、修には借りがあるからね、」

「よっしゃ、そうこなくちゃ、」


 コンパは行きつけの焼鳥屋、”大衆亭”の二階で行われた、客の殆んどが東都大学の学生で、大盛りで安いメニューが人気である。

「それじゃ、只今から清美荘と福良荘のコンパを始めたいと思います、皆さんグラスをお持ちください、」

 幹事の修は、張り切っている。乾杯の後、自己紹介と続き、宴は始まった。

「月並みですけど南さんの趣味はなんですか?」

 前の席に座っている文学部の二回生、秋山 唯が大きな瞳で尋ねてきた、

「趣味、・・そうだね、神社や城巡りがすきだね、」

「へー、渋いですね、」

「君は何が好きなんだい?」

「私・・私は漫画が好きなんです、将来は漫画家になりたいんですけど、両親は反対で、小説家ならいざしらず、漫画家なんて絶対駄目だって言うんですよ、卒業したら早く結婚して欲しいらしくて、女の子が漫画家って変ですか?」

「そんなことはないさ、漫画はね、この国を代表する立派な文化になる、頑張りたまえよ、人生は一度だけだからね、」

「はい、ふふっ、なんか南さんて面白いわ、なんか未来から来たおじさんみたい、」

「はは、そうかね・・」(当たっている、女性と言うのは鋭いものだ・・)

「おっ、ここは盛り上がっているな、」

 修が酌をしにきた、5対5のコンパは今ひとつ盛り上がっていない、福良荘の木下、田中、井上の下級生メンバーは女性軍と話しが弾まず、女性達も自分達だけで固まって飲んでいる。

「淳、頼むよ、木下達、顔も芋だが話も芋でさ、座がしらけちゃってるんだよ、いつものギャグで盛り上げてくれよ、」

 修が耳元でささやいている、

「いや、修、できれば私はそろそろ帰りたいんだがね・・」

「何、言ってんだよ淳、まだ北野さんも来てないしさ、これからだぜ、頼むよ、また酔っぱらってもいいからさ、一発頼むよ、」

「うーむ・・」

 仕方なく、ビールを飲み干している、

「あー、女性の皆さん、例えば30年後、この国の姿はどうなっていると思うかね?」

 南の親父のような真面目くさった質問に一斉に笑いが巻き起こった、

「南さんはどうなっていると思いますか?」

 経済学部三回生の下川 歩美が手を挙げて質問している、

「ああ、そうだね、30年後のこの国は経済大国になっている。生活の中にはIT技術が浸透し、個と個が繋がる時代になっているんだ。ただそれは真のコミュニケとは違う一面もあってね、色々と問題が生じている。あと、小学生までが携帯と言う手のひら程の電話を持っていてね、スマホと言うコンピュータと電話が一体となったツールも急速に普及しているんだ。コンピュータはもはや一部の人達が使うものではなく、パソコンと言う個人のコンピュータもあたりまえの様に普及している、高齢の方も当たり前のように使っているんだ。そうそう、ネットは急速に広まってね、仕事上でも、生活においてもなくてはならないものになっているんだ。女性は本来の能力を発揮し、世の中は女性を中心に動いている、しかし結果、婚姻率が下がり、少子高齢化が進んでいくんだ。夫婦別姓と言う討議もなされ始めている。家族と言う最小単位は気薄となり、食事さえ一緒に採らない、いやむしろ家族全員で夕食を採るシーンはむしろ珍しい時代になるんだよ。」

「ずいぶん寂しい話ね、」

「あっ、北村さん、」

「ごめんなさい、加藤さん、解剖の実習が長引いて遅れました、」

 南の会話をさえぎるように北村 瞳が現れた、白のTシャツに赤いジーンズ、綺麗な目鼻立ちに知性の高さと意志の強さが溢れている。

「福良荘の皆さん、遅れてすみません、医学部三回生の北村 瞳です、宜しくお願いします、」

『宜しくお願いしまーす、』

 男性軍の目が一斉に彼女に注がれている、

「私、ここに座っていいかしら、」

 彼女は南の右隣の席を指差している、

「ああ・・どうぞ・・・」

 南の右隣に腰をおろした、

「あ、それじゃ、北村さんが見えられたのでもう一度乾杯といきましょう、」

 加藤はいそいそとグラスを彼女に手渡しビールを注いでいる、

「それでは皆さん、再度、清美荘と福良荘の親睦を祝して乾杯―っ、」

『乾杯っー、』

「ああ、お腹空いた、ホルモン美味しそうね、さっきまでこんな感じの臓器を解剖していたのよ、」

「もう嫌だ―、北村先輩、やめてくださいよ、」

 秋山 唯が口をとがらせている、

「あー、南さん、何をそんなに北村先輩のこと見てるんですか、」

「あっ、いや・・・」

(瞳だ・・妻の瞳だ・・・そうか私と妻はこのコンパで知り合ったのか・・と言うことは彼女とさえ結婚しなければ30年後にあんな冷たい仮面家族の暮らしをしなくて済むんだ、よし、ここはとにかく嫌われることだ、徹底して・・嫌われてやるぞ・・)

「北村さんは医学部なんですね、将来は女医さんなんて凄いですね、」

「たいしたことないですよ、なんか人の役に立てる仕事かなって思っているだけで、」

「南さんはどんな仕事に就きたいんですか?」

「いやー、別に決まってないな、できるだけ楽で稼げる仕事を探すつもりですよ、」

「ふーん、それもありよね、」

「えっ・・」

(妻なら絶対に反論してくるはずだか・・)

「彼氏とかいるんですか?」

「いないわ、いたらコンパなんて来ないもの、まっ、欲しくもないけどね、勉強忙しいし、」

「そうかね・・」

「南さんは彼女いるんですか?」

「うーん、まぁいるようないないような、29歳の社会人の女性とね、そこそこ付き合っているって言うか、遊びというか、」

「どこで知り合ったの?」

「うん、バイト先の上司なんだよ、」

「へー、大人の女性と付き合っているんだ、」

「まぁ、遊びさ、相手もね、」

(よしよし、いい展開になってきたぞ、女性が一番嫌うタイプの男の会話だ、これで妻は私を嫌いになるに違いない・・)

          《次回へ続く》





























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