第6話
Another Story
綾野 祐介
第6話
社に戻ると編集長からすぐに声がかかった。
「結城、どこ行ってたんだ。本社から呼び出
しだ、すぐに東京に飛べ。」
「えっ、でも今からすぐにですか、もう8時
ですけど。」
「そんなこと知るか、とにかく今すぐ、大至
急だ。本社の郷田局長のところに行けば判る
そうだ。」
何がなんだか判らないままに結城良彦は新
幹線に乗り込んだのだった。
ほぼ真夜中に本社に着いた時には当然のよ
うに郷田局長は不在だった。仕方なしに宿直
室にもぐりこんだ結城だった。
翌日9時に出社してくるはずの郷田局長を
待っていたが、いつまで待っても局長は出社
しなかった。
「郷田局長はどうされたんでしょうか。」
不思議に思った結城が尋ねてみると、
「結城良彦さんですね、郷田局長からの伝言
を承っております。自分が出社するまで待機
して置くように、とのことでした。」
それならそうと早く言っていれればいいも
のを、結城が尋ねるまで誰も結城に声を掛け
てはくれなかった。そして、そう伝えてくれ
た女子職員もそれ以上結城にどこで待つよう
になどとは指示してくれる様子は無かった。
結城は自分の会社なのに疎外感に見舞われた。
ここでは異邦人だった。前に本社勤務だった
時には感じられなかった感覚だ。一度地方に
跳ばされた人間は皆このような疎外感を感じ
るのだろうか。それともここは特別な場所な
のか。結城には判断が付かなかった。
時間つぶしに佐々木伸介に連絡を取ろうと
してみた。資料室に配属されている、とのこ
とだった。局長室にいつまでも居る訳にもい
かないので直接資料室を訪ねてみた。
「あの、佐々木伸介さんはいらっしゃいます
か?」
「あなたは?」
「京都支局の結城良彦といいます。前は本社
の政治部にいました。資料室にも何度も来た
ことがありますが。」
応対に出た女子職員は見覚えが無かった。
他に見渡してみたが、見知った顔は誰も居な
い。半年やそこらで全員入れ替わってしまっ
たのだろうか。
「そうですか、生憎佐々木室長は長期休暇に
入っておられます。なんでもどこか海外で過
ごしておられるとかで私どもも連絡は取れな
いのですが、何か急用でも?」
「長期休暇?最近転属になったばかりですよ
ね。」
「ええ、去年の秋にここにいらしたばかりで
すが、なんでも前から計画なさっておられた
ようで。」
「そうですか、いや、急用ではないんで結構
です。できれば出社されましたらこの電話番
号に連絡をしてもらってください。」
どうしても例の事件の関係者には連絡が取
れないようだ。何かの意思を感じる。かなり
大きな意思だ。
相変わらず郷田局長は出社していないこと
を確認した結城は適当に場所を見つけて綾野
祐介から渡された本を読み出した。
それは不思議な話だった。ある種の神話の
ようだがただ言い伝えられている実体のない
物語としての伝説ではなく今も脈々と続いて
いる生きた伝説なのだ。封印された神々。
神々と呼ぶことが妥当かどうかは別として、
それは神、または邪神としか表現できない混
沌、概念としての悪意、破壊衝動の塊、遥か
遠宇宙より飛来した原初の生物。
それらはあるものは封印され、知能や能力
を奪われ、ただ復活の日を待っている。そし
て、その日を一日でも早めようとする眷属や
人間の僕たち。
そんな話の連続だった。物語としては多少
興味が湧かない訳ではないが、あまりにも荒
唐無稽だ。綾野はこれを事実として信じろ、
というのだろうか。邪神たちがその封印を解
かれようとしているのだと。
その日、結局郷田局長は出社せず、連絡も
無かった。