第3話
Another Story
綾野 祐介
第3話
ところが、この墓場荒らしの現場近くで多
少の聞き込みをしていた時のことである。あ
る住人から妙な噂を仕入れた。なんでも琵琶
湖岸近くの別荘地で最近大規模な空襲のよう
なものがあったらしい。近隣には映画の撮影
だと知らされていたのだが、偶然見た人には
とても映画には見えなかったようだ。本物の
怪物に向かって自衛隊機やなんとアメリカ空
軍機が実弾を発砲していた、というのだ。な
んとも子供じみた噂話ではあるが、妙な人た
ちが住み着いていたその別荘地が、撮影の後
無人になってしまったことは事実のようだ。
具体的な場所を聞いて結城は向かってみた。
確かにそこには無人の別荘地が存在した。
ただ、最近まで人が住んでいた様子もほとん
ど無かった。ただ一軒の家に表札がかかって
いた。
「多胡」
とあった。誰かが住んでいる様子は無い。
その家と湖岸の間に大きな穴が開いていた。
三十メーター四方はあるだろうか。転落防止
のためか柵をしてロープが張り巡らされてい
た。ちょうどこのあたりの湖岸に神殿のよう
なものがあり、それに向かって実弾が発砲さ
れていたというのだ。ところが、その辺りに
は神殿などが作られていた形跡はない。映画
のセットを撤収しただけならば、後は残るは
ずも無かった。
「たぶんこなんことだろうと思ったんだ。」
予想されたとおりになっただけだったので
結城はそんなに気落ちした訳ではなかった。
怪獣だの米空軍が実弾を発砲していただの、
信じられる話ではない。当然そんな新聞記事
も出ていなかった。
ただ、帰ろうとした結城は車の中でふと気
になったことがあった。たしかこの話をして
くれた人は自分の息子が見た話だといってい
た。見知った人がその現場にいたかのような
話もしていたのではなかったか。あまりの突
拍子も無い話にそのあたりの確認もせずとり
あえず現場に来ただけだったのだ。
結城は話を聞いた人のところへと戻ってみ
た。幸い先ほどの農地で作業を続けて入れて
いた。連絡先も聞いていなかったことを改め
て思い出し、ほっとした結城だった。
「さっきはすいませんでした。」
「ああ、見にいかはったんやね。で、どうで
した。」
「確かに無人の別荘地はあったんですが、ど
うもお話のようなことがあった痕跡は見当た
らなかったんですが。それで、もうちょっと
詳しい話をお聞きしたいと思いまして。確か
息子さんが目撃されたんでしたよね。」
「そうや、息子の忠志が血相欠いて戻るなり
大変な騒ぎやった。でもあいつは学生寮に入
っとるで今はおらへんで。彦根に居るんや、
琵琶湖大学知っとるやろ、そこで何でも地震
の研究してるらしいわ。そっちに行ったら話
し聞けるかも知れんな。」
「分かりました、枷村忠志さんでしたよね、
そっちの方に回ってみます。」
とりあえず気にかかったことは解決しない
と収まらないので枷村忠志に会うために彦根
に向かう結城だった。