第22話
Another Story
綾野 祐介
第22話
「いいんですか?」
恩田助教授が義父である新山教授に問いか
ける。
「放っておくと私たちの目的に悪影響を及ぼ
すこともあるだろう。彼らが綾野君に辿り着
いても何ら問題はないが私たちの目的は知ら
れてはならない。最後の秘密はどんな手を使
っても守る。肝に銘じておきたまえ。」
「判りました。」
二人の会話を隣室で聞いている杉江統一は
自分たちのやっていることは正しいのか、そ
れとも神への冒涜なのか、判らなくなりつつ
あった。教授は尊敬しているし、その目的は
心情的に充分理解できる。恩田助教授も同様
だ。研究に対しての興味も大きい。但し成功
してもどこにも発表できない研究は、どうな
のだろう。
あと新山教授が酷く自分を信頼しているこ
とが腑に落ちない。この計画の開始時から特
にだ。最後の最後、保険として自分が切られ
る可能性も高いと自覚している。『助手が勝
手にやったことだ。』と言い逃れされること
が充分考えられる。その時はその時で、自ら
の研究として公にできるのなら、それでもい
いと思っていた。家庭環境の悪い状況で育ち、
現在は身寄りもいない杉江にとって新山教授
は親のようなものだと感じている。狂った研
究者としてでも後世に名を残せるのなら、そ
れはそれでアリだと思っていた。
「それでは私と岡本君、それと結城記者で綾
野先生を訪ねてみましょう。」
恩田助教授は綾野の行方は既知の事実とし
て認識されているかのような言い方で生物学
室を後にしたのだった。
恩田助教授と一緒に心理学病棟を訪ねるの
は一日置いての明後日と決まった。それまで
は特にすることもないので岡本浩太と結城良
彦は当日の朝、恩田助教授の控室で待ち合わ
せることにした。あと数日でアーカム財団の
マリア=ディレーシアが戻るはずだが、折角
の機会を先送りする訳にもいかない。
岡本浩太はもうすぐ3年生になるが、この
2年の様々な出来事を思い出し、もう自分に
は普通の人生は送れないのだと思っていた。
綾野も当然そう考えているだろう。でもどこ
かに監禁されていたり自由が奪われているの
なら、それは同じ境遇であることも含めて解
放する努力は惜しまないつもりだった。
生物学部の新山教授や医学部の恩田助教授
(この春からは准教授という名前になるらし
い)とは親しくなったが、担当の教授には睨
まれている。講師である綾野と親しいことも
気に入らないらしいので、春の進級は望めな
いこともあり、大学を辞めようかと考えては
いるが綾野の件が片付かないと学外に出る訳
にはいかなかった。学内を自由に行き来でき
るメリットは大きい。但し、行方不明の綾野
本人のことも含めて、この件が終われば大学
を去らざるを得ないと感じていた。
結城良彦は本来の仕事に戻っていた。地方
に取材で出張中の身なので東京にいるほどで
はないがあるていど時間は拘束されるのだが
綾野の行方の方が言い方は不謹慎かもしれな
いが興味があった。正直地方出身代議士の汚
職事件なんてどこにでもある話なので余程の
大物でないと大したニュースにもならないだ
ろうし、場合によってはもみ消される可能性
も否定できない。とりあえず明後日一日の予
定をやり繰りして慌ただしく取材を詰め込ん
でいるのだった。




