第2話
Another Story
綾野 祐介
第2話
結城良彦はまず、現場を訪ねてみた。第一
報の記事しか手がかりが無いので、その内容
といえば大まかな墓場荒らしが行われた場所
と犯人の風体だけだった。比良山中のその場
所は未だ土葬の習慣の残る集落だった。被害
者、というか遺体の主は交通事故で無くなっ
た夫婦だった。子供は無く兄がひとり、その
集落に住んでいる。結城はその兄を訪ねた。
「ああ、そんなことがあったとは聞いている
が、別に詳しいことは聞いてないな。今頃何
を調べているんじゃ?」
「でも、あなたの弟夫婦の遺体が盗まれると
ころだったんじゃないですか。」
「いや、それは違うな。確かに一度掘り返し
て洋二郎、ああ、洋二郎というのが弟の名前
だが、その洋二郎と嫁の佐知子の遺体は一時
研究所に運ばれて何かの検査をしていたんじ
ゃ。その後、またもとの通りに戻そうとして
いたところを駐在に勘違いされて墓場荒らし
とかいうような記事が新聞に載ってしまった
わけじゃな。私にはいい迷惑じゃったわ。こ
ちらは了解していたことなのにな。」
話が大きく違うようだ。墓場荒らしは誤報
だったのか。ではなぜ誤報である旨の記事が
掲載されなかったのだろう。関係者の急な移
動も腑に落ちない。裏に何かあるはずだ。
「そうでしたか、では墓場荒らしではなかっ
たわけですね。それではその研究所のことを
お聞かせいただけませんか。」
「研究所?ああ、確か外国のなんとかいう名
前だったが、忘れてしもうたなぁ。」
「では一体何の調査のために弟さん達のいっ
たん埋葬した遺体を掘り起していったのでし
ょう。」
「なんでも特殊な病原体が見つかったとか何
とか言っておったが。いや、あまり詳しくは
聞かなんだで。」
「その程度の説明で弟さんたちの遺体を渡し
たんですか?」
「いや、それは・・。」
どうもかなりの金額を掴まされたようだ。
口に出しては言わないが、態度にははっきり
と出ていた。結局この男からは何の情報も得
られなかった。結城良彦の調査は一旦ここで
終わってしまったのだった。