第19話
Another Story
綾野 祐介
第19話
岡本浩太は大学が綾野祐介の行方を知って
いると確信したうえで、新山教授に相談する
ことにした。新山教授が何かを隠しているこ
とは確かだが、綾野の行方に関しては協力し
てくれると思ったからだ。利害関係ははっき
りしないが、とりあえず敵ではないと信じる
しかない。そう、話し合った結果、浩太と結
城良彦は改めて新山教授を訪ねた。
「どうも、大学自体が関与してるみたいなん
です。」
「何かそう思わせるようなことがあったのか
ね?。」
浩太は塔山事務長の豹変振りを説明した。
「なるほど、それはおかしな話ではあるな。
判った、私の方でも探りを入れてみよう。綾
野君には世話になっているから、それぐらい
のことはさせてもらうよ、それがもしかした
ら私と大学との確執に繋がったとしてもね。」
どうも、やはり何かを知っていて隠してい
るように見受けられるのだが、浩太はそれ以
上何も言えなかった。とりあえず、協力して
もらえるだけで十分だろう。話せる時がくれ
は、新山教授本人か助手である杉江統一から
詳しい話が聞ける筈だ。本質的に悪い人間で
はないことは判っているので、信じるしかな
かった。
しかし、自らと大学との確執に発展する可
能性がある、と感じていると言うことは、綾
野の行方がかなり大学にとってデリケートな
問題であり、犯罪の匂いすらすることである
かのようだ。そして、それを覚悟のうえ、と
いうことは、綾野に対して新山教授は相当な
恩義を感じていると言うことになる。
浩太は先日のツァトゥグアとの邂逅を思い
出していた。あの場所に新山教授が居合わす
ことができたのは、綾野のお陰だと言える。
それは新山教授本人の強い希望もあったのだ
が、教授単独では到底ヴーアミタドレス山に
辿り着くことはできなかったであろう。そし
て、無事に地上に戻ることも。
そして、浩太は思い出していた。ツァトゥ
グアの洞窟で、新山教授と杉江の二人だけが
残った時間があったことを。多分あの時に何
らかの、教授が目的としたことが達成された
のだ。
ツァトゥグアに対し何らかの申し出をして、
それが受け入れられたのか。或いは質問をし
て有効な回答を得られたのか。それとも何か
冒涜的な密約が結ばれたのか。いすれにして
も、それは新山教授にとって大切なことだっ
たのに違いない。そんなことでもなければ、
あのような危険な場所に赴く必要など無い筈
だった。そういえば、最近この生物学部の研
究所に恩田助教授が出入りしてるらしいのだ
が、それもかかわりがあるのだろうか。次は
恩田助教授にも探りを入れてみようと医学部
に向かうのだった。
「塔山君、私にも話せないことなのかね?」
新山教授は岡本浩太たちが帰った後、すぐ
に事務長の塔山を訪ねた。目的は勿論、綾野
祐介の行方だ。
「新山教授、何の話かわからないのですが。
綾野先生は病気療養の為に休職中ですよ。そ
れ以外のことは、存知ません。プライベート
に関することにもなりますし。どこの病院だ
とも、療養場所だとも聞いてはおりませんが。
岡本君たちが仕切りに気にしているようです
が、教授のところにも来たのですね。放って
おかれたらどうですか?教授もお忙しいでし
ょうに。」
塔山はそれだけ言うと、さっさと行ってし
まった。新山には話すつもりはないらしい。
「どうも、口が堅いって感じでもないです
ね。」
それは、影で見ていた杉江統一だった。
「そのようだな。杉江君、君はどう思うのだ
ね?」
「僕は、浩太たちの言うとおり、大学も何ら
かの関与をしていると思いますよ。その辺り
は恩田助教授の方が詳しいかもしれません
ね。」
「大学ぐるみで星の智恵派に与しているとい
うのか。でも、それは有り得ることだな、そ
もそも恩田君に星の智恵派を紹介したのが堂
本学長だと聞いている。」
「え、そうだったのですか。それは聞いてい
ませんでした。なるほど、学長の方が星の智
恵派の関係は古いということですか。でも、
なぜ綾野先生を隠す必要があるのでしょう
か。」
「彼は知りすぎたのだろう。加えてナイアル
ラトホテップの遺伝子を持ちツァトゥグアに
も侵食されているのだから。様々な利用価値
があるのではないかな。その辺りは私にはさ
っぱり判らない話ではあるがね。」
「それは僕も同じです。浩太の方が詳しいで
しょう。一度ゆっくり聞いてみますか?」
「いずれな。それよりも、今は綾野君の行方
だ。学長に直接当たってみるべきだろうな。」
「学長は今アメリカではなかったのですか。」
「そうらしいね、今頃は当大学の姉妹校であ
るミスカトニック大学で講演をしているはず
だ。恩田君によると、その姉妹校提携も星の
智恵派が関係しているらしいが。」
実験で忙しい二人は、とりあえずは堂本学
長の帰国を待つことにした。2日後には戻る
はずだった。




