第18話
Another Story
綾野 祐介
第18話
「恩田君、どうかな。」
「あ、新山教授、相変わらずです。本当に大
丈夫なのでしょうか?」
「君が疑ってどうする。美希のためだと、君
が言い出したことだろうに。」
「それはそうなのですが、僕はどうも最近彼
らのことが信用できない気がしてきたのです。
彼らの目的は一体何なのでしょうか?」
密室に二人きりで話しているのだが、声の
大きさを抑えて話してしまう恩田だった。も
し、誰かに聞かれでもしたらとんでもないこ
とになってしまう。自分も、義父である新山
教授の立場を全て投げ出す覚悟は出来てはい
るのだが、途中でここを放り出されるのが怖
かった。それでは、今までやってきたことが、
全く無駄になってしまう。
「彼らしか頼る者が居ないのなら、頼るしか
ないではないか。いつまで、そんなことを言
っているのだ。ここには儂と杉江君しか入れ
ないとはいえ、いつまでもそのまま置いてお
く訳にもいくまい。」
「そうですね、それならもっと、検体を回し
て貰わないと、進むものも進みません。教授
のお力でなんとかなりませんか?」
「君のルートからでは、もう限界だろうな。
判った、それはこちらで何とかしよう。」
そこへ、杉江統一が入ってきた。
「教授、至急来てください。ああ、恩田助教
授もこちらでしたか。T-3に変化が現れた
んです。」
顔を見合わせた二人は、本当にあわてた様
子で杉江統一の後に続くのだった。
「どうしたものだろうね。」
結城良彦と岡本浩太は途方に暮れていた。
綾野祐介の消息は依然として知れない。大学
にも何の連絡も入ってないらしい。無断欠勤
が続いているようだ。このままだと、免職処
分になる、とのことだった。休むのはいいが、
連絡がないのが拙い。浩太の伯父の勇治が行
方不明の時はいろいろと手を回して免職処分
にならないようにしてくれた綾野が、今度は
自らの免職の危機なのだ。浩太は勇治に連絡
をとって、大学側に働きかけてもらうことに
した。
岡本浩太にすれば、手がかりがあるとすれ
ば、アーカム財団くらいだったが、浩太から
連絡をする術がなかった。
「アーカム財団か、判った、こっちであたっ
てみるよ。」
アーカム財団への連絡は結城に任せること
にした。ただ、財団の性格からして中規模の
新聞社である陽日新聞からのアポが取れるか
どうか、心もとないと浩太は心の中だけで思
った。
「岡本くん、一体君は何をしようとしている
のだね?」
琵琶湖大学の事務長である塔山勇一郎に呼
び止められていきなり岡本浩太はそう詰め寄
られた。
「何をって、綾野先生を探しているだけです
が、それが何か?」
「その件については私のところに綾野先生か
ら休学届けが着いている。病気療養、とのこ
とだ。行方不明になった訳ではないよ。あま
り、騒ぎ立てないでくれたまえ。」
「え、そうなんですか?。でも、前に聞いた
ときは無断で休んでいる、って仰ってました
よね?」
「そんなことは、言ってないだろう。君の勘
違いではないのかな。とにかく、綾野先生の
件についてはそういうことだから、多分完治
すれば戻って来られるだろう。」
「では、綾野先生は何処で療養なさっておら
れるのですか?」
「そんなことは、君に教える必要はないだろ
う。まあ、届けにはそこまでは書かれていな
かったがね。」
そういうと、塔山事務長はさっさと行って
しまった。どういうことなのだろう。前に浩
太が聞いたときには無断欠席だと、怒ってい
たのにもかかわらず、今は浩太の勘違いだと
言われる。
「これは裏に何かあるのだろうな。」
どんなに鈍い者でも、そう思うだろう。何
かを隠そうとして、そんな工作をしたのだと
したら、あまりにもお粗末だった。大学ぐる
みで隠蔽をしようとしているのだ。敵は案外
身近に居た、ということか。浩太は早速、結
城良彦に連絡を取って事の次第を伝えた。
結城の意見も同様だった。綾野の行方は大
学が知っていて隠しているのだ。若しくは、
大学側が積極的に綾野を監禁でもしているの
だろうか。浩太は伯父の岡本優治にも連絡を
取り、琵琶湖大学に綾野の件で折衝してもら
う件について、待ってもらうことにした。
「判った。でも浩太、あまり無理はするなよ。
お前まで大学に居られなくなるぞ。それだけ
なら、まだいいが、前みたいに命に係わるこ
とになってしまう可能性が高い。俺がそっち
に行ければいいのだが、せっかく綾野の尽力
で残れた大学を放っては行けないしな。とく
かく、くれぐれも無茶はするな。」
「判ってるよ、こっちで結城さんも手伝って
くれてるし、大丈夫、任せておいてください。
きっと綾野先生は僕が見つけ出す。」
優治に言った言葉を自分にも言い聞かせて
いる浩太だった。




