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第14話

Another Story

  綾野 祐介

第14話


 そんなこんなで、結城が帰国後どうしても

もう一度会いたかった綾野祐介を訪ねたのは、

アメリカで別れてから半年以上も経った後だ

った。前回訪問したときと同様に琵琶湖大学

伝承学部の講師控え室に綾野を訪ねたが、控

え室には鍵が掛けられていた。仕方無しにそ

の辺りにいた生徒に綾野の所在を聞いてみる

と誰も言葉を濁してまともに応えてはくれな

かった。岡本浩太という生徒か枷村忠志とい

う生徒を見かけなかったか、と聞くとその内

の一人が岡本浩太の居場所を教えてくれた。

この時間ならコンヒニでアルバイトをしてい

る筈だというのだ。


 訪ねてみると確かに岡本浩太はレジに居た。


「久しぶりだね、岡本君。陽日新聞の結城良

彦です、覚えていますか?」


 最初は何のことかよく判らない様子だった

が、直ぐに思い出したように、だが顔色が変

わった。


「ええ、覚えています、でも今はちょっとま

ずいんで、10時過ぎにここに来てくれませ

んか。その時間で上がりですから、お話なら

その後で伺います。」


 こちらの用は聞かなかったのだが、どうも

岡本の方でも結城に話が、それもとても込み

入った他人には聞かれたくないような話があ

るようだった。結城は綾野祐介の居場所を聞

きたかっただけだったが、10時まで待つこ

とにした。この半年の間に何かが起こったの

だ。それを確かめなければならない。


 暫く時間を潰して10時にもう一度岡本浩

太がアルバイトをしているコンビニエンスス

トアに行くと既に店の前で待っていた。


「少し早めに上らせて貰ったんです。僕の部

屋に来ませんか、そこでいろいろとお話した

いことがあるんで。」


 結城良彦は浩太の申し出とおりアパートに

付いていった。アパートまでの道は歩くとか

なりあったが、浩太は自転車を押して歩く間

無言だった。何をどう話そうかと考えている

かのようだ。


 部屋についてもなお、何から話そうか迷っ

ているようだったが、岡本浩太は順番にあり

のままの出来事を話し始めた。


 それは衝撃的な告白だった。自らが旧支配

者であるところのツァトゥグアに吸収された

こと。友人の桂田利明を救うためにツァトゥ

グアの封印を解く方法を探さなければならな

かったこと。(この辺りの話は多少、綾野祐

介から聞いていたのだが。)そして、再度訪

れたヴーアミタドレス山での出来事。桂田は

結局精神を病んでしまっただけで、ツァトゥ

グアの開放には至らなかったこと。


 そのこと、そしてその前のクトゥルーの封

印を解く寸前までいったこと併せて、全てが

ナイアルラトホテップが画策した、アザトー

スの封印を解くステップに過ぎなかったこと。


 岡本浩太と桂田利明は程度の差はあるがツ

ァトゥグアに吸収されそのDNAが変質を生

じてしまったこと。橘良平と綾野祐介はそれ

ぞれクトゥルーとナイアルラトホテップの遺

伝子を受け継いでいたこと。


 何から何まで驚きの連続だった。


「それで、その綾野先生はどうしたんだ

い?」


「それが行方不明なんです。医学部の控え室

でナイ神父が現れてから何度か医学部に診療

というか検査に来ていたらしいんですが、休

職届が出されていて、今学期の講義はまった

くしていないんです。大学の関係者に聞いて

も全く要領を得ないんですよ。」


「医学部の検査っていうのはどうだったんだ

い?」


「恩田助教授、っていうのが例のナイ神父の

ときにも同席していた人なんですが検査の内

容はプライベートなことだとか言って話して

くれないんです。」


「手がかりは全くないのかな。」


「出来れば何か手がかりを探す手伝いをお願

いできないかと思ったんですが。」


「判った、僕も綾野先生にはもう一度会って

話がしたいと思ったからここまで来たんだか

ら、ぜひ手伝わせてもらおう。」


 こうして岡本浩太と結城良彦は綾野祐介の

行方を捜すことになった。

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