表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/33

第13話

Another Story

  綾野 祐介

第13話


 冬枯れの葦が一層寒さを感じさせる、とて

も陰気な場所にその建物はひっそりと建って

いた。同じロケーションでも海辺ならばもっ

と違う印象になるのかも知れない。ただ、海

といってもあくまで太平洋であり、日本海で

はここと同じような印象になってしまうのだ

ろう。湖と云うものは概してマイナーなイメ

ージがあるのではないだろうか。それともこ

の場所が特別なのだろうか。


 その建物は、建物自体が陰気な印象を与え

る。今現在あまり利用されていないことも要

因のひとつだろう。機能を重視しすぎた外見

のコンクリートの打ちっぱなしなのもいただ

けない。一時流行したのだが、今思えば味も

素っ気も無い、単にお金を掛けていない手抜

きのような印象を与えるだけだ。


 季節にも問題があるのかもしれない。2月

にはほとんど明るいイメージは湧かない。ど

うしても雪や寒さのイメージが優先してしま

う。


 その建物は地上二階建てに見えた。外観は

二階建てなのだ。但し、建物の本来の目的で

ある部分は見えている二階には無かった。地

下があるのだ。地下は六階まであった。地上

部分よりもずっと大きい。


 建物には「琵琶湖大学付属病院心理学病

棟」と書かれてあった。平たく言えば精神を

病んだ人々が収監される病院なのだ。管理部

門が地上の二階にあり、病棟は全て地下だっ

た。解放的な病室で病気を癒すのではなく、

完全に隔離してしまうことが目的だった。重

度で治癒の見込みが全くない病人が収監され

ているからだ。


 だから退院するものはいない。そのせいで

嫌な噂が流れているのも確かだ。この病院に

入ったら何かの人体実験の実験台にされて殺

されてしまう、というのだ。


 最近ではこの手の病院は皆無といってよか

った。人権問題が問い沙汰されている昨今で

は完全に患者を監禁してしまう病院では人聞

きが悪くて入院させたくとも出来ない状況に

なっていたのだ。


 結城良彦は日本に帰国してから何かと忙し

かった。上司である郷田局長は結局自己満足

しただけで結城が取材したものを何らかの形

で発表する機会を奪ってしまった。時期尚早、

或いはフィクションにしか思われない、とい

うのが理由だった。郷田局長自身も半信半疑

なのだ。いろいろと目の当たりにした結城で

さえ、もしかしたら夢だったのだろうか、と

時々思ってしまうぐらいなので、仕方ないと

いえば仕方ない話だった。結城は結局政治部

に復帰が許されて、それどころではない状態

になってしまったのだった。ただ、綾野達の

ことを忘れた訳ではなかった。簡単に忘れら

れるような体験ではなかったからだ。


 帰国後数ヶ月があっと言う間に過ぎてしま

い、奈良に長期出張の話が出てやっとゆっく

りとアメリカでの出来事を考える時間が得ら

れるような気がした。ただし、関西出身の政

治家の地元での評判を地元に顔が割れていな

い結城が内密に探ることが長期出張の仕事内

容だった。地元建設業者との癒着の証拠を見

つけなければならない。奈良に入っても一ヶ

月ほどは休み無しで情報収集をやらなければ

ならなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ