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天才から始める魔法生活  作者: ガゼル
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序章+第1章

「零月零日の暁月夜れいがつはじめのあかつきづくよ


序章

穏やかな清流と蝶の舞う花畑、青空を映す美しい湖畔やそびえる山脈をのぞむ高原。悠久の時を感じさせる圧倒的なまでの自然が存在する世界。そしてその雄大な原世界とは打って変わって、山の麓から海を望む平地には生活を営む人間の姿が。大きな港町の波止場に泊まっている船は綺麗な装飾の施された客船や木箱をたくさん積んだ貿易船まで様々だ。そしてその港町の市場を行き交うたくさんの人、人、人。沿岸部だけではない。海と山の間の平地は全て人々の生活の及ぶ地だ。大人たちの働く工場。娯楽を求める人の集う賑やかな街、子供たちの通う学校の建つ丘、川とそれをまたぐ橋。畑、田園、牧場、遺跡。

自然と人類文明の共存する世界で最も美しく栄える国。「日本」。


第一章

1.

 「そう呼ばれる現在の日本の歴史も、いや、さらに大きくまとめるなら人類史というのは非常に曖昧なものとなっています。その要因もあまりに多い。なぜ世界が何の疑いもなく機能しているのか不思議なほどにね」

半円形の大講堂の中で行われている歴史の授業。生徒たちは黙々と先生の話よりも黒板の板書を優先に手を動かしている。生徒の集団の真ん中あたりの列の、窓際の席に座る月神千流つきがみちるは頬杖をつきながら退屈そうな表情を浮かべているものの、先生の話には耳を傾けている。彼にとって歴史の授業で興味を惹かれるのは久しぶりだった。

「人類史上最大の転換点となった要因、もちろんわかりますよね?」

先生の問いかけにすぐに右手指先を垂直に天井にむけ挙手をしたのはこの1年1組の我らが学級委員長 雨宮刹那。焦げ茶色の髪に翠色の瞳、表情の少ない顔面とマッチしたクールな性格の、文字通り優秀そうな男だ。

「《魔素》の発見です」

「その通り。その瞬間が、人類と魔法の歴史の始まりです」

教室はうるさいと感じない程度の小さなざわつきが絶えず続いている。先生は静聴を求めず話し続けるタイプの人だ。見た目もおっとりとした、細身で眼鏡の優しいおじいさんである。そんな先生も気分が高揚してきたようで、授業は盛り上がる場面に入るようだ。五月中頃の、ちょうど肌に心地よく感じるほがらかなそよ風が、月神の眠気を誘う。

「人類はかつて科学という武器でこの地球の生態系の頂点に君臨し、文明を発展させてきました。しかし同時にこの地球の自然と資源を犠牲にしていたのです。現在では考えられないことですが、先人類の歩みの中には自然と共存するという意識は極めて薄かったのです」

先生程の年齢の大人たちは、魔法の発見される以前の人類を先人類と呼ぶ。この理由は月神も自然と理解できた。魔法の発見による新たな文明の開花を人類の進化として捉えているのは、おそらく先人類への侮蔑だ。この辺りの街も昔は、コンクリートという物質でできたビルという建物の立ち並ぶ街だったらしい。今では考えられないのだ。大量に消費されていた石油という燃料も、電化製品という機械も博物館にしかない。

さらに、と先生の話は続く。月神の睡魔が徐々に活発になる頃だ。

「魔法の発見だけではないのです。《始まりの魔法使い》の真理の聖典エメラルドタブレットによって、それまで誤って認識されていた生命の歴史すら塗り変わりました。先人類の文明の崩壊とはまさしく《第二次世界聖戦》によるものです。この戦争によって人類は科学から魔法へと、日本を含む先進国の資本主義社会も崩壊、戦争で焼け野原となった地表の復興から今の平和な日常に至るまでの変化が始まるわけです。まぁこの辺りは来年以降の歴史授業の範囲なので割愛させていただきますね。そして次に―――」

このあたりで月神の意識は、あえなく途切れた。

しばらく深い眠りについていた月神の意識が少しずつ戻る中で、同時に少しずつ、よく聞きなれた声が彼の耳に響いてきた。

「千流!起きて!・・・・・・千流!」

冬の早朝の瞼の重さを思い出すようにゆっくりと頭を上げながら半開きがちに目を開けると、やはり思っていた通りの少女が立っていた。セミロングの桜色の髪が窓から吹く穏やかな風に乗ってなびく。まるで寝坊した息子を起こしにきた母親のような呆れた顔を浮かべているのは千刃 美兎奈せんばみうな。既にお分かりだろう。彼女は月神の幼馴染である。

「ベタか」

「何のこと?とにかく次は千流の好きな実技授業だよ!支度しなきゃだよ」

「なるほどね。どうも魔法知識の絡まない授業は苦手みたいだ」

私は先に行くからと言い残し、美兎奈は教室の外で待っていた他の女子たちと更衣室に向かっていった。今日もグラウンドの予定だった気がする。少しずつ目も覚め、幼馴染っていいな、と思った月神であった。


2.

 グラウンドには既に1年1組、2組の生徒男女が列になりながら揃いつつあった。体操着に着替え終わった月神も、急ぎ足で1組の男子の列の中に加わる。歴史の授業担当の細メガネ先生の雰囲気とは正反対の、快活的な体育会系・短髪先生がやってきた。

魔法実技授業担当の大久保先生だ。彼の小麦色の肌とガッチリとしたフォルムは体育会系教師のテンプレート的要素である。1組、2組の魔法実技教科係の生徒が今日の出欠状況を伝えると、彼は大きくうなずきながら声を張り上げた。

「みんな元気な様子で十分!今日も前回に引き続き、《自分の属性》系統の魔法の基礎訓練だ。内容は毎回同じだが、おそらくみんな飽きるどころか自分の魔法が少しずつ増える楽しみを感じている頃だろう。いつも通り属性別にグループに分かれてくれ!」

指示通りに、足並みはバラバラに、生徒たちがおおよそのグループごとにまとまっていく。

月神は雷系魔法グループだ。四月から共にこの授業でグループとなる生徒たちとも、少しずつではあるが仲間意識を感じられるようになってきている。

「今日もグループ内二人ずつで、同系統魔法を相殺する練習だ。みんないつも通り、怪我には気をつけような!」

そう周りに気遣いを見せるのはこのグループの良きまとめ役、武蔵野 洸夜だ。髪は綺麗なブロンドだが、本人曰く脱色しているだけらしい。髪型もオシャレで、不良のようなイメージが湧きそうではあるが、1年生の中でもかなり優秀な生徒で、1組の刹那とは定期テストでよく争いあっているらしい(月神は魔法関係の授業と実技以外では標準レベルの成績なので、あまり興味がない)。刹那とは違い、人当たりが良く常に笑顔で周りを引っ張る存在の彼は、当然人望も厚い。月神も彼には好印象を抱いており、四月から編入してきたばかりの頃に優しく話しかけてきてくれたのも洸夜だった。

「今日は俺と洸夜だな。よろしく頼む」

「千流!くれぐれもお手柔らかに頼むぜ」

「今日はなかなか威力の強い魔法も試したいから、ちょうど洸夜でよかったよ」

はははと賑やかに笑いながら、月神と洸夜はそれぞれ距離を取り、位置につく。既に他のメンバー、他のグループも始める頃だ。大久保先生も歩きながらそれぞれのグループを見て回り始める。

魔法というものはどういう仕組みや法則があるのか。訳あって四月から急に《魔法科》に編入してきた月神は、普通科生徒のころには見られなかった才能を魔法科で開花させ、中等部から魔法教育を施されてきた生徒たちにすぐに追いついた。

まず魔法とは前提として、魔素というエネルギーを元に発動するこの世界の《奇跡》だ。

炎も、水も、氷も、風も、電気も、あらゆる現象をまるで人体から生み出したかのように自在に操れる、神話に登場する神々のごとく奇跡のような力を行使する手段が、《魔法》だ。

魔素を元に発動する魔法だが、発動方法にはいくつか種類がある。《精霊》と交信する精霊詩アイトを詠唱した後、魔法名を発することで魔法が発動する《詠唱方式》、複雑な魔法発動式を空中に描くことで精霊と交信し、直後に魔法名を発することで魔法が発動する《表記方式》が、主流な発動方法だ。そしてすべての発動方式に共通するのは、精霊と呼ばれる目に見えない存在との交信だ。魔素を魔法へと昇華するのは、この精霊との交信によってのみ可能なのだ。この交信が必要不可欠な理由は、まだ千流達高校生には簡易的にしか説明されていないが、要約するならば、魔法という《奇跡》とは既にこの世界の物理法則を無視した超常現象であり、発動させようとしている魔法が健全に平常的に保たれるべき世界のバランスを壊さない程度ならば、そのバランスを保つ為に存在すると言われる精霊達の許可が下り、魔素を元に魔法が発動できるというシステムだ。この精霊との交信なくしては、魔法名をいくら叫んでも魔法は一切発動しない。

一般人はおろか、普通の魔法使い達にもその存在を感じることのできない精霊だが、世界に少数存在する《魔法を作り出す者たち》は、大半の人間には感知できない精霊とコンタクトを取る力を持っており、その力で魔法を作り出しているらしい。これは事実である。最強クラスの階層にいる魔法使い達は皆、この才能を持っているのだ。月神自身もその才能が開花するのを期待しているのは言うまでもない。

洸夜が精霊詩を詠唱し始める。同時に月神の指先に淡い光が灯り、古代文献の記号の羅列のような魔法発動式を空中に描いていく。

「雷電司りし精霊に告ぐ、迸り煌き敵を穿て」

洸夜の突き出した掌が、月神の描き終わった発動式の羅列が、小さなスパークを起こしながら青白く輝き、

「「雷電の閃光ボルテ・グランツ??」」

カッとまばゆい発光を伴い、バヂヂヂヂヂッッ??という激しい炸裂音と同時に白く光る二つの電撃がぶつかった。

両者ともに高出力で電撃魔法を発動、周りのタッグよりも大きな閃光と炸裂音が、ギャラリーを集め始めた。しばらくヂヂヂヂッとぶつかりあっていた電撃が、少しずつその光量と音量を小さくしていった。おぉと辺りも少しざわめき、すごかったなぁと賞賛の声を漏らしつつ各々の元の位置に戻っていった。

「千流、前よりも発動式の形式が複雑になってなかったか?」

「よく気付いたな洸夜。発動に必要な魔力を3割ほど削減するように工夫したら発動式が少し長くなっちゃったんだよ」

「そんな裏技授業で教わってないだろ……また図書館の文献でどんどん高度な分野に手を出してるのか!?」

「魔法に関しては本当に興味が尽きないよ、普通科の頃の落ちこぼれだった自分がなつかしいわ(満面の笑みをうかべて)」

「その優秀さが定期テストでも顕著に現れれば本当の天才なのにな」

「うん的確に急所を突くね、洸夜君は??」

口裏を合わせていた訳でもなく同じ魔法を発動したことも二人の笑いを誘った。

「洸夜、デカいの一発試してみたいんだけど、お前も相応の一発撃ってくれよ」

「相殺どころかお前が若干吹っ飛ばされるくらいのをかまして……」

洸夜は凍りついたように静止した。褒めに来たような笑顔ではない大久保先生が、どす黒いオーラを放ちながら洸夜の背後に立っていた。


3.

 月神 千流は15歳まで、現在も通う日本国立煌陽こうよう学園の普通科に通う一般生徒だった。16歳で魔法科に編入することになるまで、彼には魔法を使う素質が発現していなかったのだ。

現在全世界人口は40億人。約6割は以前の月神のような魔法を使う素質のない普通の人間。そして約4割は、魔法を使う素質を開花させた《新人類》と呼ばれる人間だ。魔法の発見される以前の人類を先人類と呼ぶことで、現在も才能を開花させていない6割の人間も大いに侮辱しているという怒りは当然のように爆発し、そのような蔑称を避けるため、それら6割の人間は《未覚醒人類》などと呼ばれている。新人類と未覚醒人類の対立に関しては、先人類が抱えてきた肌の色の違いによる人種差別よりも大きな問題として、終わらない議論が続いているのが現状だ。

月神は15歳で才能を開花させたが、実はこれは異例だった。通常の場合、6歳までに魔法を使えるようになるのか否かが決まる。これは魔素の及ぼす人体への影響の謎の一つとして未だハッキリとしていない現象だが、6歳以降に魔法を使えなかった人間がいきなり魔法を使えるようになる実例は、魔法が発見されて以来100年弱の歴史の中で、30件ほどしか記録に残されていないのだ。月神は普通高校入学前の最後の身体検査時に、新人類の3倍以上の魔素の体内蓄積が確認された。一般的に、魔素の体内保有量の差異が新人類と未覚醒人類の大きな違いとされているため、すぐさま大掛かりな病院で再検査、月神本人も知らない間に未覚醒人類から新人類へと覚醒していたことが明らかになった。

「君は煌陽学園魔法科へ急遽編入することになった。四月から魔法科中等部から上がってくる同い年の生徒と仲良くやるんだぞ」

と言われましても、というのが月神の率直な気持ちだった。煌陽学園職員に検査後にそう伝えられ、滅多にない異例として普通科のさほど仲良くもない友達からも賛辞の声が上がったが、反面快く思わない生徒たちが沢山いた。成績も中の下、友達もあまり作ろうとしなかったせいか少なく、彼にとって自分の人生とは退屈以外の何物でもなかった。周りに隠している才能が唯一あった。それは「足の速さ」。だが陸上競技部に所属することも面倒だと辞退し、帰宅部として中学三年間を何かに打ち込むこともしなかった。何故彼が何事にも消極的なのか。原因は過去にあった。

月神は生まれた時から天涯孤独の身だったのだ。母親の顔を見たことがなかった。だが物心ついた時に、月神は「千刃」という姓の家の養子として育てられていた。現在同じクラスの幼馴染、千刃美兎奈の家だ。彼は12歳まで千刃千流として美兎奈と共に育てられてきたが、13歳を迎える年に、自分が養子であることを知った。正確には知ってしまった。

その時に自分の生い立ちを美兎奈の両親に問い詰め、事実を知る。そして自分の本当の苗字であった月神に姓を戻し、全寮制の煌陽学園中等部に入学した。月神はその頃から心の中に大きな虚しい穴を感じるようになっていたのだ。

だが編入が決まり嬉しいことが一つあった。それは魔法科に中等部から通っていた美兎奈と同じ校舎に通えることだ。恋愛感情とはなにか違う依存を自覚しつつも、幼少期から美兎奈は月神にとって心の拠り所となっていた。彼女の朗らかな穏やかさが、月神にとってとても温かかった。振り返ってみると、美兎奈のいなかった中等部校舎のつまらなさに拍車がかかっていたのは言うまでもない。

学校という場所で久しぶりに美兎奈と会話をしたのは、入学式が始まるまでの整列中だった。サ行とタ行の苗字のおかげで、偶然隣になる配置になったのだ。

「今日から同じ教室に通えるね!千流!」

「全寮制だったせいですごい久しぶりに感じるな、美兎奈」

「でも年末とかは普通に実家で会えてたじゃん!もう魔法科の皆は異例の編入生が入ったって話題でもちきりだよ〜」

「中学まで普通科カリキュラムで受けてきたから、不安しかないんだが……」

「千流あんま頭良くないもんねぇ。でも案外優秀になっちゃったりして!」

にひひひといたずらに美兎奈が笑う。自然と月神からも笑みがこぼれた。

翌日最初の魔法実技授業で、月神千流の名が大きく広まることになる。




初めて小説を書く者です。本当は長々と考えた設定を熱く語りたいのですが、読者の方を置いていかないようにペースを作るのはとても難しく、これからさらに勉強していきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

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