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ジンギのジンギ  作者: キミナミ
1話 少女との出会い
9/40

「ジンギ。あんたにいいことを教えてあげる」


 少女は、呟く。誰にも聞こえない位置から、誰にも聞こえない程度の声で。

 だからこれは、「教えてあげる」などと言いながら、ひとり言のようなものだった。

 それでも少女は続ける。黒く長い髪をたなびかせながら。


「神器ってのはね。それを作ることは難しくないの」


 神器。その姿を模した道具の性能を、異常に特化させる特殊な物体。

 その性質こそが神の候補者1人1人に与えられる能力であり、世界に存在する法則を捻じ曲げることを許される権利だ。


 水を飛ばす能力。佐久間が持つジョウロのように、神の候補者ならば誰しも存在するもの。



――ではそれはどうやって作りだされるか。



 答えは単純だ。〝物体の存在をイメージすること〟だ。

 そこに『それ』があると想像する。そこに『それ』が存在していると、確信する。そうすれば、体内の神通力は『エネルギー』から質量をもつ『物質』へ変換され、1つの形を為す。


 それはたとえ、目の前へ迫る恐怖から生みだされた、『攻撃を防げる〝何か〟を欲する』という感情であろうとも――発現への『引き金』となる。




「あたしは知ってるよ。――あんたはこんなところじゃ終わらない」


 悪い女だ。彼女は言葉の裏で、そんな感情を胸に抱く。

 


「見せてやりな。安倍仁義の――『ジンギ』の『神器』を」









――突然水が弾けるような音がした。


「…………え?」


 佐久間が水弾を放ち、死の恐怖から思わず目を閉じていたジンギは恐る恐る目を開けた。

 そこでは先ほどまで迫ってきていた水弾が消滅しており、離れたところでは佐久間がジョウロをこちらに向けたまま固まっていた。


 だがそんなことなど、ジンギにとってはどうでも良かった。目を開けたジンギが何より目を奪われたのは――




――無意識に突き出していた右手に握られた、〝スコップ〟であった。



 茫然とした様子で、ジンギは右手のスコップを見つめる。

 初めは何が起こったのか分からなかったが、スコップの一部が湿っているのを見た瞬間、ジンギは水弾がこのスコップに当たって弾かれたことが理解できた。しかもそこは木製の部分であるにも関わらず、スコップには一切の損傷が見られない。ドアを吹きとばし壁をも凹ます佐久間の水弾を受けて、だ。明らかにこのスコップは、普通ならありえない強度を誇っていた。



「おい、何だぁそりゃ……!?」


 ジンギと同じく驚き固まっていた佐久間が口を開く。


「おめえの右手にいきなり現れて、オレの弾丸を弾いた上にまったく折れる様子もねえ……。ケッ、つまりそれがおめえの神器ってことなるのか……?」


「……そう、みたいだな」


 佐久間が苦々しげにつぶやくのに同意しつつ、ジンギはよろよろと立ちあがった。


「…………」


「…………」


 それからしばしの間、二人の間を緊張感の伴った沈黙が流れる。ジンギが何か考えるように佐久間を見つめ、佐久間はジョウロを構えたまま、警戒したように動かない。



「…………一か八かだ」


 その状況は、ジンギがそう小さく呟き、佐久間に向かって駆けだしたことで破られた。


「ケッ! おいおい、まさか神器出しただけで勝てるとでも思ったのかよ。おめえは!」


 わずかにこめかみに血管を浮きだたせ、佐久間はジョウロの照準を合わせて水弾を撃つ。



(きた! でも落ち着け……冷静に、冷静に対処すれば……)


 その水弾に対し、ジンギは臆することなく走り続けた。水弾はまっすぐジンギに迫ってくるが、それが近くまで来たところでジンギはスコップの両端を横に持ち、水弾へ向かって突き出した。


 次の瞬間、「バシィ!」という音を立てて水弾は弾かれる。一方でスコップはいまだ損傷した様子はない。


 いける! ジンギはそう確信した。


(あいつとの距離はだいたい20mくらい……。この調子で弾丸を防ぎ続ければ……)


 ジンギはさらに足を速め、佐久間との距離を詰めていく。対する佐久間は表情に焦りが見え始めてきた。



「調子に乗るんじゃねえぞ!」


 怒声を上げ、佐久間は続けざまに2発の水弾を放った。だがジンギは少し焦った様子を見せるものの、どちらも冷静に防ぎきる。


 両者の距離は確実に狭まっていき、それにつれて佐久間の焦りも大きくなる。


(もう半分は切った! あと4,5歩くらいで……)


「なぁめぇんなぁああ!!」


 意地でも近づかせまいと、佐久間はそれまでの数倍の大きさはある巨大な水弾を撃ってきた。


 先ほどまでと違い、もしこれを正面から受けようものなら、たとえ防げても勢いを殺し切れず後ろへ吹き飛ぶことになる。佐久間の狙いはそこにあった。



 ――しかし実際には、この弾丸がジンギを有利に、佐久間を不利に運ばせる。


 巨大すぎる水弾は速度を殺すことになり、またその大きさゆえに佐久間からジンギの姿を隠すことになった。


 歯を食いしばりながら、ジンギは左足を踏み切り右前方へと跳んだ。そして水弾をギリギリの距離で通り抜けて着地し、今度は右足を踏ん張って左前方へ踏み込むと――そこは既にジンギの間合いであった。



「!」


「くらぇえええ!」


 水弾のせいでジンギの動きが見えなかった佐久間は、完全に反応が遅れていた。そしてジンギはスコップを両手で長く持つと、大きく振りかぶってその佐久間めがけて叩きつけた。


「ゴッ!」という鈍い音とともに、スコップが佐久間の顔面にめり込むと、ジンギはそのまま力任せに振り切る。


 佐久間は殴り飛ばされて地面を転がり、やがて舞い上がった土埃によってその姿は見えなくなった。





「……ゼェ……ゼェ……」


 全力疾走と、迫り来る水弾を防ぎ続ける緊張感からくる疲れによって息を切らせながら、ジンギは土埃の先を見つめていた。


(やったか……?)


「ふーん。やるじゃん、あんた」


 ジンギが心の中でそう思っていると、上のほうからサキの声が聞こえ、そちらに目を向けた。サキは空き地に隣接した建物の屋根の上で「やっほー」と手を振っており、ジンギはそれを見て彼女を見る目を細める。


「……ずっと見てたのか? サキ……」


「言ったでしょ? あんたの声が聞こえる位置にいるって。……でもまあ意外だっ

たわね。まさか自力で勝っちゃうなんて」


 サキが感心した様子で言うと、ジンギは「ハンッ」とわざとらしく鼻を鳴らした。


「どうだ! お前の力なんて借りなくてもこんなもんだ! 神器だってアドバイスなしで出してやったしな」


「はいはい。わかった、わかっ……!」


 自慢げにスコップを掲げるジンギへ適当に返事をしつつ、サキは佐久間のほうへ目を向けると、急に言葉を詰まらせる。



「ん? どうしたサ――」


「ジンギ! 危ない!」


「え?」


 サキの声を受けてジンギは佐久間の方向を見る。――すると、すでに水弾がすぐそこまで迫ってきていた。


「うおっと!」


 ジンギはギリギリのところでそれをスコップで防いだ。サキの声がなければ確実に食らっていたことだろう。


 そしてそのタイミングで土埃は晴れ、その向こうが見えるようになる。そこには、右手ではジョウロを持ち、左手で殴られた個所を抑えながら、怒りの形相の佐久間が立っていた。



「……痛ってえな」


 体を怒りで震わせながら、佐久間はジンギを睨み付ける。


「くそっ、気絶してなかったのかよ」


 そんな佐久間を見つつ、ジンギは悔しそうにつぶやく。しかしその言葉が佐久間の神経を逆なでしたのか、佐久間は目をカッと見開かせた。



「ざけんな!! ついさっきこの戦いを知ったような雑魚がぁ! この戦いの恐ろしさを、このオレが教えてやるよ! ケーケケケケケケケケケケ!!!」


 佐久間はブチ切れ、怒りのまま叫びあげる。彼は左手を顔から離すと、その手に新たな何かを出現させた。


「何だ? それ……?」


「ケケケケケ、もう後悔しても遅えぞ」


 『それ』を見つめてジンギは問いかけ、佐久間は笑う。その左手には、ジョウロに取り付けるシャワーのようなものが握られていた。



 佐久間はそれをジョウロの先へ取り付ける。


「先に言っておくぜ安倍仁義! この戦いはなあ……いかに神器の能力を使うかってのが肝要なんだよ。ただ能力を使うだけじゃダメなんだ! ましてやただ神器をだしただけのおめえじゃあな! ケケケケケ! だからよく見とけ! チカラってのはこう使うんだよ!」


 そう言って佐久間はジョウロの先をジンギへ向ける。


 それを見てジンギがスコップを構えると、同時に佐久間は叫んだ。


「【ショットガン】!」


「?」


 技名らしきものを叫ぶ佐久間に疑問を覚えつつも、ジンギは先ほどと同じようにスコップで佐久間の水弾を防ごうとしていた。






 ――だがその直後、撃ちだされた水は無数の細かい弾丸となり、ジンギの体中を貫いていった。


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