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ジンギのジンギ  作者: キミナミ
1話 少女との出会い
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「そもそもだな!」


 ジンギが更に文句を述べようとサキを指差した時であった。建物全体が揺れるような衝撃が走る。それに一瞬遅れ、轟音とともにいきなりドアが吹き飛んだ。



「…………へ?」 


 呆けた顔をしてジンギが異変の起こったドアの方向を向こうとすると、ジンギとサキの間を高速の物体が通り抜け、その先でまた轟音を響かせる。


「……はひぃ?」


 ジンギが間抜けな顔を固定させたままその方向へ目をやると、その物体がぶつかったと思われる壁の辺りが大きく凹んでいた。その物体が残した傷跡に戦慄しつつ、ジンギが後ろを振り向くと、吹きとばされたドアの先で、ジョウロを片手に構える男が立っていた。



「あーりゃりゃ……威力があるってのも考えもんだな。窓だけぶち抜くつもりがドアごと吹き飛ばしちまったよ」


 男は一度ジョウロに目をやり、続けてジンギたちの方向を見る。


「おまけに外しちまったみたいだな。絶好のタイミングだったってのにもったいねえ」


「だ、誰だお前は!」


「んー? おいおい、オレは一応お前と同じ高校の先輩なんだぜ。敬語くらい使えよ」


「うるせえ! 誰だって聞いてんだ!」


「敬語は使わねえってか……まあ別にいいか。俺の名前は佐久間正二だ。……ああ、あとおめえのことは知ってるぜ。安倍仁義だろ? フラれ続けてるって有名だもんな。ケケケケケ」


「な、なんだとゴルァ!」


 佐久間の言葉にジンギが怒声を上げるが、事実であるため、それ以上言い返すことができなかった。



「…………」


 ジンギの言い争いの相手が自分から佐久間へ移る一方で、サキは怒鳴るジンギと対照的に、冷静な様子で佐久間のことを観察していた。


 そして右手のジョウロ、その逆の手にある金色のリングを確認すると、サキは確信する。


「…………ジンギ」


 サキはジンギにささやくように話しかける。


「何だよ。今忙しいんだよ」


「あいつ神の候補者よ」


「!」


 ジンギは表情を強張らせ、佐久間の方を見る。すると確かにその左手にはジンギが身につけているものと同じリングがあった。


「ウソだろおい……何でこんなタイミングで……」


「……で、そういやおめえ覚悟はできてるのか? 開始早々ゲームオーバーになっちまう覚悟は」


 ジンギが焦るのをよそに、佐久間はそう言って右手に持つジョウロの先をジンギへ向けてきた。それを見てジンギは眉をひそめる。


「なんだあいつ……? ジョウロなんかこっち向けてきて……」


 不思議に思うジンギに対し、佐久間は不敵に笑う。


「オレのジョウロの威力、とくと味わえ!」


 佐久間が叫ぶと同時に、ジョウロの先から何かが飛び出してきた。


 ジンギは自分へ向かってくるそれを見つめながら「へ?」と突っ立ていると、横からサキの手が頭に乗せられた。



「バカ! 伏せなさい」


 その言葉と共に、手に地面の方向へすごい力が加わり、ジンギは無理やり頭を下げられる。なんとなくその時コキッと首が変な音を立てたような気がしたが、それを気にする暇もなく先ほどまでジンギの頭があった場所をそれが通り過ぎていく。一瞬遅れて轟音が後ろの壁から響いてきた。


 ジンギがその方向に目を向けると、後ろの壁の凹みが2つに増えていた。先ほどは気がつかなかったが、凹んだ壁の辺りが濡れている。


「何だあれ……!?」


「……あれがさっき言った『神器』ってやつよ」


「ええ!? ちょっと待て、さっきのお前の話だと、神器ってのは剣とかピストルとかの武器なんじゃねえのか?」


「違うわ。神器っていうのは全て使う者の身近にある道具の形を模しているの。そしてその道具が持つ性能を異常に〝特化〟させたもの、それが神器なのよ」


 佐久間を睨みつけながら説明するサキを横目で見て、続けてジンギは佐久間の右腕のジョウロに目を移す。

 そこにあるのは、見る限り何の変哲もないジョウロである。しかしサキの説明の通りであれば、あれは神通力とやらで作られた異能の物体。先ほどから飛来してくる謎の攻撃もあのジョウロの力によるものだということだ。


「ケケケケケ、その女の言うとおりだ安倍仁義。そしてこれがオレの神器『ジョウロ』〝水をかけることに特化した神器〟さ。有する能力は……まあ見たらわかるだろうよ」


 自信満々な様子で佐久間は再びジンギへジョウロを向け、そしてまた何かを撃ち出した。


「うぉお!?」


 威力を見せられた以上、さっきのように突っ立っているわけにもいかず、ジンギは慌てて近くの机の下へ逃げ込む。するとサキも同じように机の下へと逃げ込んできた。


「……『水をかけること』ってことは、おそらくは水を高水圧で放つ能力と言ったところかしらね。飛び道具とは厄介だわ」


「悠長に解説してる場合か! そもそもこの状況は全部お前のせいだぞ。どうしてくれる!」


「知らないわよ。いくらあたしだってリングを渡した直後に候補者の襲撃を受けるなんて思わないもの」


「おめえら、机の下に隠れりゃ安全だとでも思ってるのか? ケケケケケ」


「! 隣の机へ飛べ!」


 ジンギの合図とともに、隠れていた机の下から2人が飛び出すと、直後に机が吹き飛んで行った。


「くそっ、言い争いしてる場合でもないってか!」


「ジンギ、いったん逃げて体制を立て直すわよ」



「どうやってだよ。入口にはあいつがいるし」


「まずはあたしが飛び出してあいつの注意を引くわ。そしたらあんたは近くにある物をあいつに投げつけて、できる限り大きいものを」


「え? ちょっと待て、その作戦お前が危険じゃないか?」


「あら何? 心配してくれるの? 騙してきた相手を」


 わざとらしく嫌味な目をしてくるサキにジンギは顔を引き攣らせる。


「お、おお……確かにそりゃそうだ。むしろそのくらい引き受けるべきだな」


「でしょ? じゃあ上手くいったら窓から飛び出るようにして。それじゃ行くわよ。1、2の3!」


 合図をすると同時にサキは机の下から窓の方向へ駆けだした。


 その動きにつられて佐久間はジョウロの先をその方向へ向けるが、飛び出してきたのがサキであったことに気がつくと、ジョウロの先がピタリと止まった。


「女のほうだと!?」


「あら? 撃ってこないの? 意外と紳士的なのね?」


「黙っとけ! くそっ、フェイクか。安倍仁義の奴は…………ってうおっ!?」


 サキのことを一瞬で切り捨て、佐久間が周囲を見回そうとした瞬間、ジンギが投げた椅子が佐久間の頭に直撃し、佐久間は勢いに押されて転倒した。それを見てジンギもサキに続いて窓へと駆けだす。


「おめえら! 小賢しいマネしてくれてんじゃねえか!」


 佐久間は椅子を払いのけながらジョウロから水弾を放ったが、椅子が頭に当たっとき目まいでも起こったのか、水弾はジンギから大きく外れ、その間にジンギは窓から外へと飛び出した。


「おし、脱出成功だな」


「バカ! 安心するのはまだ早いわ。向こうの方に路地が見えるからそっちへ逃げるわよ」


 そう言って先に外に出ていたサキは、工場のさらに奥に見える建物の隙間にある道を指差す。


「わかった」


 その方向を見てジンギもうなずくと、2人はその路地の方へと走って行った。


「……舐めやがって」


 ようやく目まいから立ち直った佐久間は、窓を通してその逃げていく2人の後姿を見ながら、ジョウロを握る右手をワナワナと震わせていた。


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