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ジンギのジンギ  作者: キミナミ
1話 少女との出会い
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「ジンギィイイイイイイ!」


 叫んだのはくせ毛の男、山崎の方であった。彼は叫び声を上げると同時にジンギに向かって全力疾走をし始め、その後から竹田が少しだるそうに駆け足でついてきていた。



「え? どうしたんだやまざ……」


「ファアアアアアアアアックゥウウウウウウウ!」


 ジンギが驚いているのも一切無視して山崎は掴みかかってきた。はっきり言ってうるさい。周りの下校中の生徒が不審な目を向けてくるくらいうるさい。



「おい。いきなり何だよやまざ……」


「何でじゃあ! 告白連続失敗記録を更新し続け、高校入学からわずか2カ月で『失恋の安倍』なんて二つ名を獲得したお前ごときが何でじゃあゴルァア!」


「いや、お前せめて名前までは言わせろ……って何だそれ!? 誰だ! そんな不名誉な二つ名で呼んでる奴は!?」


「んなこたぁどうでもいいわ! ありえねえんだよ! 『非モテの安倍』と呼ばれるお前があーんなかわいい娘にィイイイイ!」


「ちょっと待て! 今叫んだの違う二つ名だったぞ!? まさか他にもあるのか! そんな悪意のこもった二つ名……って、え? かわいい娘?」


 ジンギは山崎の言葉の中から『かわいい娘』という部分だけに反応を見せた。だが状況を理解できたわけでもないので、しばらくそのまま山崎に掴まれていると、後ろから竹田が追いついてきた。



「髪は黒くさらっと腰まで伸びていて、目や瞳は大きく全体的に色白だった。足も長いモデル体型で身長は160の2か3といったところか……。服の上からの目測でイマイチ自信はないが、スリーサイズは上から74・58・80――と正直言って絶壁であるのだが、まあそれもまたステータスであると言えるだろう。年は俺たちと同じくらいのようだったが、私服だったから大学生の可能性もあるな。他に聞きたいことはあるか?」


「いや……別にいい。というかお前初対面の女の子どれだけ観察してるんだよ……」


 到着と同時に、淡々とした口調で件の女の子を描写していく竹田。確かにおかげでその娘のイメージが固まるものの、そんな友人にジンギは一抹の不安を感じながらひきつった笑いをすることしかできなかった。



「そ、それで? 一体その娘がどうしたんだよ?」


 竹田との会話を切る目的を持って、ジンギは未だ自分の制服を破らんばかりの勢いで掴んでくる山崎を突き飛ばし、説明を求める。


 しかし突き飛ばされてなお山崎は鬼の形相を崩さないままであった。



「そのことだクラァ! さっき校門から出ようとしたら、その娘が俺たちに向かって歩いてきて、『安倍仁義を知ってますか?』って聞いてきてよ。友人ですって答えたら、『町外れの工場跡のところで待っているから来てくれるよう伝えてくれ』って言われたんだよ!」



「……へ?」


 山崎の言葉を聞き、ジンギは一瞬で固まった。彼の言っていることがよく理解できなかったからだ。一呼吸置き、二呼吸置いてもまだ理解できない。しかし三呼吸目を迎えた時、山崎の言葉はジンギの脳の中でようやく意味を持った言葉として理解されてきた。


 そして彼の言葉を完全に理解できた時、彼の眼はカッと見開いた。



「マママママママママジなのか山崎! ううう、嘘じゃないんだよな?」


 ジンギは思わず逆に山崎に掴みかかっていた。


 文脈から判断しても他には考えられない――これはジンギにとって待ちに待っていた『異性からの呼び出し』……。少なくともジンギの頭の中ではそれ以外の何物でもなかった。


「当り前だ! 嘘でこんなキレてなあ……!」


「まあそういうことだ。もう十分わかってるだろ? 早く行ってやれ」


 なおも猛ろうとする山崎を手で制止しながら、竹田が山崎の前に出てきた。


「荷物は邪魔だからここに置いておけ。後で俺がお前の家まで届けておいてやるよ」


 そう言ってはにかむ竹田。薄情な奴だと思っていたが、結局こいつも友達思いのいい奴なんだ。そうジンギは心のうちで感動を覚え、彼に向ってグッと親指を立てた。



「サンキューな、竹田。恩に着る!」


 そう言ってジンギは荷物を竹田に預けて駆けだしていった。その背中には、ただ希望だけが満ち溢れていた。










「…………おい竹田。なんであそこで止めたんだよ。俺はまだまだあいつに言いたいことあったのに……」


 ジンギの走り去って行った方向を恨めしそうに見つめがら、山崎は竹田に問いかけた。その問いかけに竹田があきれたようにわざとらしいため息をつく。


「お前は馬鹿か。あそこでジンギに文句を言って何になる。呼び出したのは彼女の方だぞ」


「うぐぐ……確かにそりゃそうだが……」


 竹田の言葉に何の文句を言えず、山崎は悔しげに舌打ちをしていた。


 するとそばでガサゴソと音が聞こえてきた。山崎がその方向へ目を向けると何故か竹田がジンギの鞄を漁っている。



「……え? 竹田何してんの?」


「分からないのか? ジンギの財布の中身を抜こうとしてるんだよ」


 さも当たり前のように言う竹田に、山崎は「ああ」と一瞬納得しかけてしまったが、やっぱりどう考えてもおかしい。



「いや、お前さっきすげえいい笑顔で……」


「ムシャクシャしたからやった。後悔とか反省とか意味が分からないが、とりあえず懐が潤ったからどうでも良かった」


「…………」








 自分を笑顔で送り出してくれた友人に金を盗られているとも知らず、ジンギは町外れの方向へ向かっていた。


 ジンギ達の住む町――神奈川県千種市湯浅町――ここでは首都圏にも近いという立地的な利点から、高度成長期には多くの工場が次々と建てられていた。それは工場群と呼ぶにふさわしい規模になり、当然のごとくそこで働く人、その家族のための住宅地が次いで開発されていった。こうして湯浅町と言う町は大きく成長を遂げることになるが、バブルがはじけると十分な見通しも考えられず乱立したそれら工場は、その多くが閉鎖に追い込まれ、現在ではほんの一部の稼働する工場を除き、ただ広い入り組んだ路地を作る工場群跡が形成されるに至っていた。


 その工場群跡には人のまず訪れないという場所も数多く、地元ではヒミツの話をする格好のスポットともなっていた。



 そんな場所に呼び出されたとあって、ジンギの心は高鳴っていた。スキップのような奇妙な走り方をしながら駆けていく彼に周りは珍妙な目を向けていたが、そんな冷ややかな視線も今の彼には届かなかった。それほどまでにジンギは舞いあがっていたのである。



 ――そのためだ。その後ろをつけている人影に、彼は気付く由もなかった。


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