星空を見上げる少年と少女
夜空に煌く満天の星の光、それはまるで魔法がかけられているかのような美しさであった。
夜も更け、公園のベンチに座る2人の少年と少女の肌を秋風が冷たく撫でていくが、2人はそれを特に気にすることもなく、飽きずにただその星空を眺め続けている。
その2人の様子を、少し離れた位置から1人の若い女性が見守っていた。ほほえましい2人の姿に時折笑みをこぼし、その女性は何もせず、ただ2人の世界を見つめて楽しんでいる。
「もうお別れだね」
不意に少女の方が呟いた。その言葉を聞き、初め少年はあっけにとられた表情をするが、すぐに意味を理解し、歯を見せながら嬉しそうに笑う。
「……あなたは、さみしくないの?」
笑う少年へ、少女はそう問いかけた。少年は少女の言葉の真意が分からず首をかしげる。
「そうか、違うんだね。あなたはさみしいと思う以上に喜んでくれているんだよね。どうしてだろう。私がおかしいのかな? でもね……私はとてもさみしいの……」
少し無理した笑顔を見せる少女に少年は何か言葉をかけようと口を開くが、少女はその口に人差し指を当て、立ち上がる。
「だからさ。私はまた会いにくるよ。絶対、何があっても」
そう言って背中を向け、首だけで振り返りながら、今度は心の底からの喜びを表現した笑顔を少年に見せた。その笑顔に少年は安心したようであった。
「――――」
「うん。私も楽しみにしてる」
「――――」
「ありがとね。やっぱりあなたは……優しいね」
その時、少年は少女の目から一滴の涙がこぼれるのを見た。
少女はそれを恥ずかしそうに手で覆って隠し、なんどもゴシゴシとこすってから手を離した。しかし未だその目は赤い色を帯びている。少女もそれは分かっているのか、少し顔を赤らめつつ、再び口を開いた。
「ねえ。もし私たちがもう一度会えた時にさ、私のお願いを1つ聞いてくれないかな?」
「――――?」
「ごめんね。今はまだ言わない。再会した時、初めて聞いてもらいたいの」
「――――…………」
「あ! ダメ!」
少女は慌てた様子で少年の口を手で覆い、彼が口に出そうとしていた言葉を押しとどめた。
「その言葉だけはダメ。私もその言葉、すっごく嬉しかったよ。……でも今その言葉を使って欲しくないの。もう一度再会できた時、その時のあなたからその言葉を聞きたいから……」
少女の手がゆっくりと少年の口から離れる。少年は茫然とした様子で少女を見つめていたが、その少女はやがて少年に背を向けて歩きだした。
少女が公園の出口辺りに差し掛かった時、人影が現れ、少女は人影へ向かって駆けだした。そして人影の元へ寄ると少女は抱きつき、人影もまた彼女のことを抱きしめ返した。
その光景を少年は遠くから見続けていたが、不意に頭にポンと手が乗せられ、少年が振り向くと、それまで少年と少女のことを見守り続けていた女性が少年の後ろに立っていた。
「さ、私たちも帰ろうか」
そう言って女性は少年の手を握って立ち上がらせ、その手を引いて歩き始める。
少年は大人しくその手に従って歩いていたが、ふと何気なく後ろを振り返った。
すると少女も同じく振り返った時であったようで、少女は少年と目があったことに気がつくと、満面の笑みを浮かべて彼に向って手を振り始めた。
「またね! ひとよしくん!」
――それはある幼き日の出来事、いつしか忘れ、記憶の彼方へと消えていく程度の出来事であった。