理不尽な世界
夜が更けてふと昔のことを思い出す。
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こちらからは手を出さなくても、あちらから手が出てくる。これがいじめ。
それに抵抗するとケンカになる。でもケンカになると、喧嘩両成敗、なんて言葉が出てくる。それで怒られる。仲良くねって、手を握らされる。僕はいじめられるしかなかった。
なんて残酷なことなんだろう。僕は手を出される限り傷つけられる事しかできないんだ。それでも手を出されない方法なんてなかった。僕は僕のまま生きていても、僕が僕でなくなろうと努力したって、僕は虐げられるだけだったんだ。
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そのうち皆が年をとって、手を出すことがなくなる。僕のお茶にウィンナーを突っ込んだあの子だって、上履き盗んだあの子だって、椅子を引いて転ばしてくるあの子だって、アトピーだアトピーだと気味悪がっていたあの子だって、僕に砂をぶつけてくるあの子だって、みんな手を出さなくなる。にこやかに笑っていろんな人と仲良くなるその子たちの姿を、遠巻きに眺める。
どうしてあんな罪を犯しておきながら、そんな顔で生きていけるの。なにもかも忘れたような顔して、生きているの。なんで今になって、ずっと小さいことで、僕に謝るの。僕を遊びに誘うの。いじめられ、抵抗する事もできず、理不尽に叱られ、煙たがられ、腫れ物になり、傷つけられて、自分の尊厳なんてきっとどこにもなくって、皆大人になって優しくなって、鬱憤も晴らせず。
矛先はどこにもなかった。きっと、死ぬしかなかったんだ。
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一昔前と、その更に昔の事を一塊思い出したところで、俺は自分を取り囲む世界に為す術無く今日という日を生きた事に気づく。あの日の「ぼく」を殺して今まで生きてきた事を思い知らされる。
水でも飲んで今日はもう眠ろう。