CHAPTER2 PART7
「…くそ!!」
今日も部屋で、ジョーカーの苛立ちの声が聞こえる。
白うさぎはそれを聞きながら、複雑な気持ちになっていた。
ジョーカーは最近、苛立ちを露わにすることが多くなった。
それは、アリスが見つからないから。
白うさぎも探している。
ジャックやその大勢の部下も、血眼になって探している。
なのに見つからない。
本来ジョーカーは、ヒトに八つ当たりするような人物ではなかった。
いつも余裕そうな態度を見せ、怒った姿など滅多にみせない。
それが、アリスが見つけられないというだけで、いとも簡単に崩れてしまう。
酷い時には、部屋に一歩入っただけで物をぶつけられたというものもいる。
ジョーカーのアリスへの愛、いや執着は計り知れなかった。
どうしてそこまでアリスにこだわるのかは、白うさぎにはわからなかった。
ただ、ジョーカーがワンダーランドを支配し始めて間もない頃、他の世界から盗んできた『魔法の鏡』でアリスの姿を見た、ということしか知らない。
「一目惚れしたんだ」と言って、幸せそうに笑っていたジョーカーしか知らない。
一目惚れだけで、あそこまでなるものなのだろうか。
白うさぎは気になって仕方なかった。
ガンッ!
パリン…
また、物が壊れる音がした。
ともかく、急いでアリスを探すしかない。
自分に出来ることはそれくらいだ、と、白うさぎは走り出した。
その様子を、遠くから見つめるものがいた。
「ははっ。
こりゃ面白い」
しま模様のしっぽをフリフリしながら、木の上で楽しそうに笑っていた。
「ジョーカーは愛しのお姫さまが見つからずご立腹ってわけね」
笑っていた顔は、瞬時に真面目な顔になる。
「…でも、もう呑気に過ごしているわけにはいかないな。
帽子屋に連絡入れとかないと」
それは、スゥッと音無く消えていった。




