CHAPTER2 PART6-3
母はその記憶─帽子と共に、右目の傷も受け継いだ。
その傷は、祖母が夫を失った時の傷。
祖母の生きる理由でもあった。
そして母が『いかれた女』と呼ばれていたのは、『いかれた帽子屋』の娘だったから。
ただ、それだけだった。
「はぁっ…はぁっ…」
ようやく落ち着いてきたルカは、這いつくばりながら前を見た。
そこには、ついさっきまで“母だった”砂があった。
その中からルカは、母が付けていた眼帯を探し、自分に付けた。
ルカの右目は、もう見えない。
「……これは?」
砂にまみれて、古い本が落ちていた。
開いて見ると、綺麗な字で書かれた日記だった。
母のものではない。
『あの人がいなくなって数年がたった──。
私はいつまで生きるのだろう』
『あの子に罪はないけれど、あの子の面影があの人に重なる…。
あぁ、どうにかなってしまいそう…』
『あの人に似合う帽子を毎日作る。
でも、どれもダメ。
全部失敗』
『作れない。
あの人の為に帽子を作ってるのに、あの人は帰ってこないんだもの。
作ったって意味がない』
そこから、数ページ空白になる。
『ふと思いました。
このワンダーランドは、どのように終わるのでしょうか。
始まりは知ることはできないけど、終わりならこれから見ることはできる』
『困りました。
私の寿命はもうすぐ尽きてしまいます。
何かよい方法は…』
『あの子は…私を恨むでしょう…。
でも…どうか…、このワンダーランドの行く末を……』
そこからのページは途切れていた。
「………」
ルカは、黙ってその本を床に置いた。
そして
「…さて、この離れは燃やしてしまいましょう。
私には必要ないものですし」
そうつぶやいて、出ていった。
こうして現在の帽子屋─マッドハッターは生まれた。




