CHAPTER1 PART1-2
「…飾りじゃないよ。
本物だよ」
(まぁ、本物だなんて変わった子ね)
あたしは、子供の冗談としか思わなかった。
「あなたの名前は?
どこから来たの?」
とりあえず気になっていることを聞いてみた。
「僕は白うさぎ。
ワンダーランドから来たんだ」
「白うさぎ?
ワンダーランド…?」
(白うさぎなんて変わった名前。
それにワンダーランドってどこかしら。
そんな街の名前、聞いたことないわ。
……あ!わかった!)
「そう。
白うさぎさんはワンダーランドから来たのね」
あたしは子供の空想だと思って、付き合ってあげることにした。
「白うさぎさんは何をしに来たの?」
あたしが聞くと、白うさぎさんは俯き、またすぐ顔を上げて言った。
「…僕は、アリスを迎えにきたんだ」
(あたしを迎えに?
…あたしの名前を知ってるってことは、友達の知り合いの子ね。
もう、誰がこんなことしたのかしら!)
「そうなの。
どこへ行くの?」
「ワンダーランド。
来てくれる…?」
「えぇ、もちろん。
行きましょう」
(ワンダーランドとか言って、どこかのお家に行くつもりなのね。
婚約パーティーも嫌だったし、丁度よかったわ)
すると男の子は、自分の首にかけていた銀時計を開いた。
その瞬間、あたしと男の子の足下に時計のような模様が現れた。
「あらら?」
(何だろう…これ…)
訳がわからず固まっていると、急に眠たくなってきた。
寝てはいけない気がする。
でも、眠気に勝てない。
「………」
あたしは堪えられず瞼を閉じた。
「ごめん……、ごめんね、アリス…」
ごめん…と、ひたすら謝る男の子の声を、最後に聞いた気がする。