CHAPTER2 PART6-2
「母さん?」
母は、何か言いたそうなルカを連れて、家に帰った。
そのまま家の離れに行き、ルカを入れた。
「母さん…?
ここ…入っちゃダメって…」
そこは、ルカが『絶対に入ってはいけない』と言われていた場所。
ルカが見上げると、母は泣いていた。
「すみません…、すみませんルカ…」
「母さん?」
ルカには、彼女が謝る理由がわからなかった。
「いつかこの時が来るのはわかっていました…。
出来ることなら…あなたにこの使命を押し付けたくはなかった……」
「母さん…何言ってんの…?」
「……、すみません。
弱い母を…許してください…」
母は、ルカを抱きしめた。
「母は最期まで……あなたを愛していました」
そして、彼女は帽子を取った。
「母さんそれ…いつも大事にしてた帽子…!」
その帽子を、ルカに被せた。
とその時…
「……!!
うわ…わあああああああ!!」
ルカの頭の中に、大量の情報が流れ込んでいく。
「ああああああ!!」
ルカの右目からは、血が溢れだしてくる。
「うああああああ!!!!!!」
ルカの頭に入ってきたもの。
それは、“記憶”だった。
かつてのルカの祖母は、人々から『いかれた女』『いかれた帽子屋』などと呼ばれていた。
元々は普通の人間だった。
だが、愛する夫を強盗に殺されて以来、狂ってしまったのだとか。
祖母は狂ったように帽子を作り、それを燃やすことを繰り返していた。
何がしたいのか、誰にもわからなかった。
そんなある日、祖母はふと考えた。
─このワンダーランドの最期を、この目で見てみたい─
しかし、いずれは訪れる寿命。
─せめて自分の代わりに、見届けてくれるものはいないだろうか─
そう考えた祖母は、自分の記憶を愛用の帽子に移し、ルカの母に託した。