CHAPTER2 PART6-1
今よりも、ずっとずっと昔の話──。
ワンダーランドの町外れで暮らす、一人の男の子がいた。
彼の名はルカ。
「母さん!
森の木に生ってたリンゴ取ってきたよ!」
彼は母親が大好きな、普通の子供だった。
「ありがとうございます、ルカ」
彼の母は身体が弱く、よく寝ていることが多かった。
そんな彼女にルカは、毎日外に出かけては、いろんな話を聞かせていた。
「町で聞いたんだけどさ、今はリンゴよりブドウの方が人気あるんだって!」
「へぇ」
「買ったら、母さんに一番に食べさせてあげるからね!」
楽しそうに笑っているものの、2人もわかっていた。
母がもう、長くないということに──。
ある日ルカは、母を連れて買い物に出ていた。
母に、ブドウを食べさせてあげるために。
「ほら、母さん!
これがブドウだよ!」
ルカが手に取って見せるも、母はあまり嬉しそうではなかった。
それどころか、酷く周りを気にしている。
「母さん…?」
ルカが何かを察した時──
ガンッ
「いっ…」
母に、石が投げつけられた。
「母さん!」
ルカが慌てて見ると、母の後ろに石を投げたであろう男と、その周りに数人の大人たちが立っていた。
「何すんだよ!
母さんに謝れ!!」
ルカが怒って叫ぶも、男たちは悪びれることなく、
「へっ。
誰が謝るかよ、そんないかれた女に!」
と、キツい言葉を返した。
『いかれた女』
なぜかルカの母は、人々からそう言われていた。
「…っ、いかれたって何だよ!
母さんが生まれつき身体が弱いからか!?
右目が見えないからか!?
そんなの…そんなの…!」
ルカは母を庇うように前に出て、ポロポロと涙を流して叫んだ。
「母さんはいかれてなんかない!!」
男たちを睨むルカを、母は優しく包んだ。
「ルカ、もういいのです」