CHAPTER2 PART3-1
ある日のこと──。
あたしの部屋でヤマネとお茶をしていると、帽子屋さんがやってきた。
「あぁ、ここにいたんですか」
帽子屋さんがあたしの部屋に訪れるのは珍しい。
「何か用事?」
あたしの代わりにヤマネが聞いてくれた。
「いえ。
お客が来たので会ってこようと思っただけです。
少しの間、アリスはここにいてください」
「へ?」
(どうして…?)
「大したことではありません。
ヤマネ、アリスをお願いしますね」
言いたいことだけ言って、帽子屋さんは去っていった。
あたしが、理由がわからずポカンとしていると、
「帽子屋を信じていれば、大丈夫」
とだけ、ヤマネは言った。
─────……………
(やれやれ…。
どうしてこんな時に彼が来るのか…。
いや、こんな時だからこそ来るのか…?)
帽子屋は、客を迎えに行きながら頭を抱えていた。
(はぁ…。
面倒なことにならなければいいんですけど…)
溜め息をつきながら、扉を開ける。
「おや、久しぶりですねぇ。
老け顔は健在ですか」
「…フンッ。
貴様は相変わらず胡散臭いやつだな」
「それはお互い様ですよ、ジャック」
2人は笑っているものの、目では笑ってなかった。
「で、何の用ですか?
私、これでも結構忙しいんですけど」
「…貴様の忙しさなどどうでもいいが、俺も急ぐのでな。
手短に話そう」
ジャックは咳払いを一つした。
「アリスという少女を探している。
心当たりはないか」
帽子屋はほんの少し目を細め、考えるフリをした。
「アリス?
知りませんねぇ、そんな子。
何で探してるんですか?」
「ジョーカー様がお探しなのだ」
(ジョーカー…。
あのいけ好かない小僧か…)
「へぇ、ジョーカー様が…。
とりあえず、私は知りませんよ」
知らない、と帽子屋は言ったのに、ジャックは立ち去ろうとしなかった。