CHAPTER1 PART7
「………」
あたしは夜中、目をぱっちり開けていた。
(だめ…、眠れないわ…)
帽子屋さんの家に置いてもらって数日が経った。
食べ物もくれた。
寝る場所もくれた。
服もくれた。
帽子屋さんたちは、生活するためのものを全て与えてくれた。
でも、何かが足りない。
あたしは、それが気になって眠れない日が続いていた。
心に、ぽっかりと空いた何かが知りたくて。
(何が…何が足りないのかしら…)
あたしは、今までの暮らしを思い出してみることにした。
まだ、お姉さまがいた、家での暮らし。
朝、早くに起きてお母さまの家事を手伝う。
寝起きの悪いお姉さまを起こして、3人で他愛のない話をしながら朝ご飯を食べる。
それから、街へ行ったり家でゴロゴロしたりして、また3人でご飯を食べる。
そして昼からは、お姉さまと一緒にいろいろな勉強をしたり、お昼寝をしたり。
夜になったら、また3人でご飯を食べて、たくさんお話しする。
口喧嘩をすることもあったけど、毎日がとても楽しかった。
(あぁ…わかった……)
あたしは、ポロポロと涙を零した。
(あたし……ずっと寂しかったんだわ……)
食べ物も、住むところも、服も。
たくさん用意されてたって、何も楽しくない。
大事なのは、誰かと心が繋がっていること。
誰かと一緒に笑ったり泣いたり出来なきゃ、何にも嬉しくない。
(お母さま…お姉さま…!)
コンコンッ
(…!?)
声を押し殺して泣いていると、あたしの部屋のドアがノックされた。
(誰…?)
慌てて涙を拭きドアを開けると、ヤマネが枕を持って立っていた。
「ヤマネ?
どうしたの?」
「ねぇ、アリス。
一緒に寝てもいい?」
(……へ?)
「いい…けど…」
「じゃあ…お邪魔します」
遠慮なくあたしのベッドに入っていくヤマネ。
「アリスも寝よう」
そう言われ、ベッドに入った。
ヤマネが一緒に寝てくれたおかげかな。
その日は、ちょっとだけ眠れたんだ。