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ウロボラズ外伝1 竜の仮面  作者: Lightning
真実と偽りの章
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~冒険~セラフィナイトとフィーナ1

「あーあ。喉かわいたー」


クリュがたてがみを震わせながら言う。今日はとても暑い日で、昼の時点で水を飲みに戻って来た。

下草を掻き分けて、うろに入る。


『そなたら、何者だ』


突然の問い掛けに唖然とした。


「おばけー!」


最初に入ったクリュは、いつもの冷静さをなくしている。肩の後ろからスピネルも覗いた。


「何あれー」


角でその得体の知れない者を指す。初対面にしては、当然にも失礼に値する行為だ。


『何って……私はクライトだ』


あっちも興奮して、錯乱状態にあった。


頭でっかちで、額は広葉樹の葉。目の周りは新芽に囲まれている。口は無い。首はほっそりしていて、折れそうだ。胸にはヒイラギの葉。手はどんぐりの葉である。

空中に浮かび、足の無いその容姿はおばけと言われて仕方ない。


しかも朝まで誰もいなかったのに、下草を掻き分けたり、月光を取り込む穴から何の形跡も無く入り込んだのだ。木をすり抜けてやって来るというイメージが嫌でも湧き立つ。


ディレーズもようやく覗ける隙間を見つけて言った。


「誰だ、コイツは」


『だから、私はクライトだ。で、おばけじゃない』


「じゃあ何よ」という二頭の視線がクライトを刺す。ディレーズはまだわかってない様子だ。


「おい、早く答えろよ」


ディレーズが言った。


クライトは黒い目を細くして、不満気な顔をする。もう答えたからだ。


「ねえ、ディレーズ。クライトはおばけじゃないって言ったよ」


代わりにスピネルが言った。


「そうなのか?」


二頭と一匹(?)はコクンと肯いた。


「ああ、わかった。ディレーズは心の声がわかんないんだよ」


__ここで、読者の皆さんに伝えておきましょう。クリュの言った心の声とは、エレスチャルや名も無き者、キーシャがよく使う“頭に響く声"です。キーシャは普通の声と心の声を使い分けられますが、普通の声を聞き取れても、普通の声で喋れず、心の声でしか話せない者がいます。また、心の声をきいたり、話したり出来ない者も多くいます。__


心の声という正式名称は無いが、ディレーズ以外は「ああ」と納得する。ディレーズは、自分だけ取り残された気分になった。


『それで、結局あなた達は誰なの?』


次はクライトの聞く番だ。だいぶ落ち着いてきたようで、声音がかなり優しくなった。


「私はスピネル。で、こっちはクリュよ。あたしたち、荒野のド真ん中の木で気絶してたら、なんか成り行きで、ここまで来ちゃったの。そしたら、後ろのディレーズが青龍って言う悪いやつと戦ってた」


青龍が悪い奴と言った瞬間クライトは目をしかめた。


「で、あたしたちが助けたら、恩返しにって拾ってくれたの」


おしゃべりなスピネルが答えた。


『青龍は賢く、優しかったわ。…………あなたたちは彼を殺したの? なら……、そんな奴をこの木に入れておけないわ!』


クリュが、震える声をほぼ同時にディレーズに通訳する。


「青龍はこの森を燃やした」


漆黒の目が見開かれる。嘘、嘘だ。目がそう語っている。


「ねえ、青龍が賢くて優しいってどうしてわかったの?」


スピネルはきいた。


『五百年くらい、前の話よ』


この時点で全員ぶったまげた。この中で五百年生きた記憶のある者などいない。ディレーズだってその十分の一くらいだ。


『ごめん、続けて』


クリュが続きを促した。


『私は気付いたら、この世界にいたわ。昔も何処かで生きていたような気がする。でも、記憶は無かったわ』


私達は、自分達と同じだと確信した。


『あるのは、好きな人がいたっていう気持ちだけ。それだけは、残ってた。でも人よ』


ここで、ディレーズはさり気なく二頭に人間の説明をした。


『私は木の精霊なのに……。何もわからなかったから、ともかく何処かへ行ってみようと思ったわ。そしたら、西の滝で青龍に会ったわ。私は滝に裏にかくまって貰ったわ。幸せな感じだった。でも、突然人間の夢を見たの。どうして人間だってわかったか、それも解らないわ。ただの感覚。夢というか幻想だったわ。それでも私は取り付かれたように追い続けたわ。そしたら……』


クライトは言葉を切った。新芽の葉に雫がついている。


『人間がたくさんいる世界にいたのよ。真っ黒な世界。遠くに行きすぎたのよ。どうやって来たのか覚えてなかった。帰られないって思ったわ。でも、帰りたくて仕方なかったの。すごく悲しい世界でしたもの。人が殺し合いをしている。人の出した灰で人が真っ黒になってるの。人の出した犠牲で人の手が真っ赤になってるのよ。そこには、偉い人がいたらしいの。でも、最低な人だと思うわ。あんな事する人ですもの』


雫がヒイラギの葉まで落ちた。


『私はこの緑色でしょ、目立つからすぐ捕まえられて、牢屋と呼ばれる場所に連れていかれたわ。真っ暗で何も見えない場所よ。そこから出られないようにしてあるの。…………何にも与えられなかった。話す事も無かった。何も聞けなかった。でも、捕まる前に一日に一度奴隷という人達がここに連れてこられるって聞いてたわ。だから、それで日にちはわかったの。煤だらけの壁を擦ると煤が剥げて、文字が書けたの。風も無いから、そのまま保存されたわ。それで、たまに偉い人らしき人が来たわ。その度に言うのよ。「まだ死なない」「何故まだ死なない」って。それが五百年くらい続いた今日、牢屋から出られたのよ』


クライトはもくもくと泣き続けた。皆いろいろと言おうとしたが、スピネルが止めたのだ。いつもは一番おしゃべりなスピネルが黙って見守っていた。


ただ話かければ、かっこいい事を言えば、その者の傷が塞がるという事はない。

聞いてやらなくてはならないのだ。


もし話かければ、一方的にものを言う“偉い人”と同じになる。自分の都合中心な親切の押し売りになるのだ。


『突然、辺りが明るいピンク色になったのよ。そしたら、水……いいえ、水以上に透明なドラゴンが現れたのよ。「あなたが願う人と出会えますように」って。そしたら、ここに居たのよ。ここは、私がこの世界で最初に来た場所だったの。ここから、西へ向かったのよ。私はこの木と、仲間達と仲良くなって、その頃多かった火災から守るって約束してたの』


ここから先は、ただただ悲しみが頭の中で音となって波のように押し寄せてくるばかりとなった。


話したい。

悪い事とわかっているのに、良いと思ってしまう。


他の者の内面。見ることが出来ないから、もしかしたら話した方がいいかも知れないという気持ちを抱いてしまう。

ただの言い訳に過ぎないのに、良い事になっていたり……。


何も知る事は出来ないのではないだろうか。

突然、キーシャの言葉が思い出された。


なら、もう気にしないでおこう。

クライトについて知っている事を整理していこうと思った。


その結果はこれだ。

クライトは、この森の最初の守り手だった。その後、ディレーズの祖先「フンババ一族」がやって来て森を治めるようになる。


そしてクライトが戻ってきて、青龍を殺すような悪い奴を入れない、と言ったのも、森の守り手であったからだろう。

というところだ。


「ヒュン……」


わずかだが一時的に音が消え、静寂が訪れた。

悲しい事などがあった時は、話すのが一番いいと言われると同時に、聞く側はそれを遮らない方がよいとされています。


心理学できいた事ですが、間違ってたら教えてください。

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