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ウロボラズ外伝1 竜の仮面  作者: Lightning
始まりの序章
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~魔法と部族と戦争と~2

あの首にある輝き。セプトクルール(七色の虹)は、世界を護る「翼のある者達」にだけ与えられている。あの木は本物。そして、その周りにいる翼のある者達も本物。


「バカ、首切り落とすぞ」


思わず、頭を出しすぎていたようだ。

すぐに引っ込めたが、また出してしまうような事が起きた。


木が突然光り出し、最初に枝分かれしている所に白い光が集まる。その光は回転したように見えた。すると、一瞬でそれは違う形となる。


キーシャ。悠然と立つ姿は、勇猛な戦士でも怖じけ付く。キーシャとは、あの木のように世界の様子を示していた。


姿といい性格といい、私達の世界の麒麟に一致する。麒麟というのは、龍の頭と鱗、魔牛の胴体、馬の蹄を持つ。性格は穏和で、戦いは好まない。そのため、頭のてっぺんにある角も肉に包まれ、他を傷つけないようになっている。


ただ一つ我々の世界と違う点は、平和な時にしか現れない麒麟が、キーシャの場合は戦乱時に現れる特性があることだ。しかし、キーシャは雄の麒麟のことで、雌のリンセは平和な時にしか現れない。


何!? キーシャの視線が自分の目を射抜くようだった。一瞬だったが、焼き付いている。


「キーシャは世界を渡れるんだ。真実の世界からやって来た本物のやつだ」


おどおどしく、ガルドは言った。


『君達はこの世界の四神に恨まれている。いずれそれによって、この世界を後にするだろう』


二頭は、ぽかんとしていた。


『君達に似た者達がこの森林を荒地に変えた。君達は悪くなくとも、彼らは必ずや動いてでるだろう』


(きびす)を反して、一足駆けると彼は消えた。


頭に響く言葉、名も無き者と一緒だ。そんな思いに浸っていると、危険を感じた。強い殺気。どこからだ? と飛んで辺りを見る。

ガルドが怪訝な顔をしているのが目の端に写った。


その途端、ガルドは視界から消え、静まり返った森がザザザッと鳴る。ほんの数秒だったが、縦揺れをしたようだ。そして小枝が降ってくる。


「たいしたザコイ木だなあ」


揺れた時は大分ビビっていたのに、止んだとたんにこのデカい顔で毒をはく。こうしていると余震がくるというのだが……神よこの蛇に天罰を与えてください。と思った。


願いがかなったのか、不吉な音がした。きしんだ音をたてて、反対側の森の巨木が倒れかけている。


それを見たガルドは口を開け、威嚇姿勢になったまま、固まってしまった。そして、さっきより強力な揺れ。大きな枝が落ちてきた。普通なら、尾で木っ端微塵に粉砕して僕に木片をぶつけてくるが、今回ばかりは柔らかい頭部に直撃する様である。


*********


私はわずかな風をたてがみに受けながら、隣の奴を見た。

それは、白い体に翼が生えているものだ。


そいつが言った。


「さっきのが言ってたけど、森を壊しちゃだめなんだよね」


「そう、だめ。森に行って悪いやつ止める?」


彼女らは頷いて、針葉樹林に駆け出した。


*********

僕は揺れが収まり、殺気も弱まったのを確認すると地面に降りた。


「おい、ガルダ戻るぞ」


ガルドは緊張した面持ちで、背中を向け本拠地に戻った。


「はあ、せっかく綺麗な夕日だったのに」


「ところで、ここって何なの?」


とても重要な事なのに、どうでもよくなっていた。


「偽りの世界だ」


「偽り?」


僕は復唱した。

「ああ。何度も言うな胡散臭えバカめ。……元は本当の世界っつうのがあった。だが、悪者のせいで、歪んだこの世界が生まれちまった。要するに、嘘ばっかだ」


「じゃあ、ドラゴンは?」


僕は、名も無き者から、地上と天を征する者として、ドラゴンが存在すると教えられていた。


「本当の世界には居る。だが、あの悪者のせいで死んだかもなあ」


ガルドはまるで他人事のように言う。世界をどうこうする気など、本当にあるのか計り知れない。


でも、言っている事はわかる。

実際、“本当の世界”には、セラフィナイトとフィーナがいるのだろう。しかし、この世界では暴走する白馬しか居なかった。


だとしたら、あの二頭は本物なのだ。本物の世界からやって来たというのか。


「ドラゴンに二種類いるのは知ってるか?」


ドラゴンはドラゴンでしょう。という顔をすると、


「やっぱ阿呆だ。てめえの脳みそ赤ちゃんのまんま!」


恒例のからかい文句が終わると、ガルドは真面目に話し出した。


「悪者の味方になったお硬い頭の馬鹿な木偶の坊連中がいたんだ。それが一つのドラゴンの種類」


「それから、そいつらの敵になったドラゴンだ」


敵。つまり、戦いがあったわけだ。

どうして戦いが絶えないのだろう。愚かな事だってわかってるのに。

ついさっきそれを体感したのに、何故また聞かされるのだ。


自分で問い、自分で答えた。


「そんな事に限って繰り返してしまうからだと」


夕日になってから日が落ちきるまでの時間は短かった。日没になると、ガルドの目はらんらんと光り、殺されそうだ。


「何そんなに怒ってるの?」


洞穴の上でイライラしながら、ずっと吠え立てられると、さすがに限界がくる。

何故かは知らないが、急に怒りだした。


「あいつらだ、あいつら。チクショウどうやって、とっつかまえんだ」


とっつかまえる?あれを?普通なら僕の表情を見て、バカとか何とか言って解説してくれるが、あっけなく無視。


「おい、ちゃんと寝ろよ。明日とっつかまえてやる。いいな」


言われなくてもだった。幸いガルドは黙っていてくれた。


しかし、気でも僕は狂ったのか自分から話しかけた。


「ねえ、ガルドの目標って世界を制することなんでしょ」


今更何だと睨まれた。でも僕は構わず続ける。


「何するの? 具体的に」


ガルドはやっと僕を正面から捉えて、口を開いた。


「宿敵をぶったおす。それだけだ」


宿敵とは、あの悪者のことだろう。また戦うんだ。


「僕には目的が無いんだ。出てきたは良いけど、何もやる事がないんだ」


ガルドは黙りこくっている。この手の質問は苦手なようだ。


「家。……家を見つければいい。この崩れた世界をマトモにして、いい家作って呑気にしてやがれ」


最後だけ毒舌調になったが、ガルドは本気で答えた。


おかげで、僕は目的が出来たのだ。


僕だって、こんな嘘ばっかりの世界は嫌だ。

綺麗に見えても、戦争ばっかりで、殺し合いばっかりなんて御免だ。


これからは、新しい、講堂に代わる居場所を見つけるのだ。この蛇と旅をして。


その間に、世界を変えるんだ。その間は戦い続ける。

僕は覚悟を決めて、星空の蛇を睨み付けた。


__生き物は、正義が自分についていると思えば何でもやる。ガルダもその一つ。自分も愚かな戦いの一部になっているなど気付いていなかった__


*********


__あいつ、本当にオレがただの夜行性の蛇だと思ってやがる。オレはそんなの関係ない。蛇じゃない__

ガルドは空を見上げた。月を背景に仲間が飛んでくる。

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