~真実と偽りの章~グラジオラスとザミア9
名も無き者は心に重石をするような、低い声で言った。
『話を戻そう、現代竜軍がなぜ壊滅しなかったのか』
彼からの忠告だと、僕は受け取った。
僕はいつも早とちりしたり、かっとなったりする事がある。
これ以上、そのような事をしない方がいいという解釈だ。
名も無き者は、この考えがわかったのか、話を再開した。
『現代竜軍の創立目的は、あくまで専守防衛だ。餌となる者を大量虐殺したところで意味が無い。ドラゴンは一度に多くのものを食べる事が出来ないだろう。さらには、しばらくして食べるものが無くなるのも目に見えていた。だが、他の生物による連合軍ができたとしよう。たとえ個々の力が劣っていれど、数で押されてしまうのは当然。いわば保険の存在だ』
そう、たとえ最強のドラゴンが一頭いたところで、戦いに勝つとは限らない。
最強のドラゴンが単独で生き残る事は出来るとしても、軍隊としては負ける。戦いの結果はどれだけの戦果を挙げたかでなく、本拠地を抑えたかどうかだ。
とすると、現代竜軍の部隊編成は人間のものと似ている事になる。
一部のエースを部隊に少しずつ混ぜておく。それ以外は平均的な強さの者か、戦い向きでない者だ。
こうすることで、全体としての実力を上げることができる。
しかし、体力消耗による壊滅が起こらないという説明は成り立たない。
『君達の世界にいるドラゴンの数は以前より減っている』
どういうことだ。
いろいろな事が噛み合わない。
ともかく様々な可能性を挙げてみようとするが、混乱が先走ってまともに考えられないのだ。
「あんたらが死んだからだろ」
そうだ。僕達と入れ替わりに現代竜が繁栄したのだ。
だがなぜ数が減る。
『君が最初に考えていたとおり、現代竜も体力消耗をするからだ。そして、ウロボラズに残った他の生物も』
一瞬、名も無き者と視線が衝突する。
全てを見通すような瞳に気圧され、すぐに目線をそらす。
まるで試しているかのような、表情だった。
僕はすぐさま思考に入る。
もともと考えるのは苦手だが、そのような事を言っている場合でない。
まず、引っかかったのはウロボラズに残った他の生物も体力消耗するという点。どの生物でも疲弊するのは当然だ。それをわざわざ名も無き者が言ったのだから、彼らも数の減少を被っているのかもしれない。
しかし、我々の主な食事となる生物は草食獣。草が減ったわけではないだろう。
いや、草は減っている。現代竜の放った炎や魔法によって、草がやられた場所がある。
魔法の影響で、土壌自体が悪くなった所もあった。
現代竜の支配力が高まっているのだから、草が減る可能性はあるのだ。
餌が少なくなれば、当然数も減る。
『そのとおり。では、繋げられるかね。大量虐殺の事と』
現代竜軍繁栄以前に行われていたという大量虐殺。
僕はその事を一切忘れていた。
虐殺したところで利益が無いと、現代竜軍は把握していたはずだ。
これでは、また矛盾が生じる。




