真実と偽りの章~ウロボラズ外伝7~
名も無き者は、僕の後ろ——どこか遠くを見つめた。
『闇と光は、同時に存在しながらも交わらない。生まれたとき、闇は心の奥底。つまりは気づかないような程小さく眠っている。しかし、年を重ねるごとに闇は表面に出てくる。決して年を重ねれば暗く、悪くなると言っているのではない』
名も無き者は、ザミアを見た。
『君は長く生きすぎた。人間にしてはな。もちろん、他の人間以上に闇が出てはいる。だが、そなたが悪でないことは、隣に友がいることで証明されておる』
僕は、一瞬ドキっとした。
ザミアは、僕が友であることに否定したい気持ちと、悪人扱いが嫌という意思が相反しているようだ。
その上、悪人でもいいのではないかとも考えているらしい。
僕の目を伺いながら、そっぽを向いている。
『闇とは、いわば経験だ。生きていれば、様々なものを体験する。その体験には、した者にだけ感じる色のようなものがあるのだ。色は交われば深くなる。ざっと見れば黒だが、個別の差がある。海底の闇だって、場所によって違うだろう。それと一緒だ』
自然に、全く同じものは存在しない。
これは、それぞれの経験が違うからである。
だから反発する。だから大切に思うこともある。
僕がザミアを傷つけたくなかったのは、このせいかもしれない。
『生まれた時は光、死ぬときは闇が大きくなるのが生き物だ。だが例外がいくつかある』
誰だかわかるか? というように名も無き者は首をかしげた。
『不老不死の力があるものは、皆この特性をもっている。いくらかいるが、君達にわかるものであれば私。そして四つの翼だ。私を含め、この者達は純粋な光と闇をもっている。生き物の闇は、多くの色が混じったものであり、純粋ではない。私達は生き物として生きた事がない為、そういった闇を持たないのだ。当然生まれることもない為、光すら持たない。純粋な光と闇とはこういったものだ』
光と闇、五百年前の僕達の世界は闇が多かったような気がする。
長い時を生きた世界。やはり、闇と光のバランスが悪ければ、向かうのは死なのだろうか。
『闇と光のバランスが悪ければ、向かうのは崩壊だよ』
名も無き者は言った。
二回目だが、思考奪取さているようで恐ろしい。
『私達の闇と光のバランスは、強さを示している。どちらかに傾けば多い方を制御できなくなり、周りに悪影響を及ぼす。その力は世界崩壊をさせるほどだ。……君は五百年前のある事件以前から、大量虐殺が行われていたことを知っているかね?』
知らなかった。
僕は首を横に振ったが、嘘ではないかと思った。
実際僕は、事件以前に死んだ知り合いがいない。
現代竜がそんなことまでしたと仮定すれば、最低な奴のレベルを超える。
まずもって、ドラゴンは人間ではない。
ザミア達人間は、機械という助太刀があって食事以外の"殺し"をする。
彼らはそうでないと生きられない、悲しい生き物のように思えた。
しかし、僕達ドラゴンにちょっとした、いざこざあれど戦争は不必要だ。
無駄に体力を消費する上、同属殺しは諌められる行為。
自分に悪い事が、大概跳ね返ってくる。
いや、なぜ現代竜は戦争をしても死ななかったのだろう。
普通は、異常な体力消費で軍は壊滅したであろうに。
『真相に近づいたな。グラジオラスよ』




