~真実と偽りの章~ウロボラズ外伝5
名も無き者は語り出した。
『そう案ずるでない』
そして、人面狼を見て笑いかけた。すると、人面狼は次第に光が薄れて消えていったのだ。
『どうやら君は私の存在を知っているようだね。さてはウロボラズ外伝を読んだのであろう?』
僕をみつめて、彼は言った。
ザミアはウロボラズ外伝とは何か教えろという顔をしている。
名も無き者は囁くように、僕へ伝えた。
教えてやりなさいと。
他者が自分の考えを手にとるように理解されるのは、とても恐ろしい感覚である。
慣れていないからなのか、知られたくないものも抱えているからか。
「さっき僕達の世界の事を話しただろう。だけど、実際に僕達は世界の始まりを見たわけじゃない。ウロボラズ外伝は、僕達の世界の動きをまとめた本なんだ」
ザミアはため息をつくように、返答をした。
「それで世界の始まりの事も、こいつの事もわかったってか」
僕は反射的に言い返した。
「名も無き者の事をこいつとはなんだ。そんな呼び方するんじゃ……」
名も無き者の視線は、すさまじい威圧感があった。それを感じた僕は言い返すのをやめる。
『そう恐れんでも宜しい。私は君達に伝えねばならぬ事があるのだよ』
彼はザミアと目を合わせ、僕の方に視線を動かす。
ザミアは僕の方に行けということだろう。
『まずは私の存在についてだ。……決して慌てるな。落ち着いて聞くがよい。特に、そこの人間よ』
ザミアは、居心地が悪そうに僕の手に座った。
『私は死者の世界を司っている。そして紛れもなく、ここは死者の世界に近い。もちろん、近いだけであって、入っているわけではないが……』
ザミアの緊張感が少しほぐれたようだ。
『あと、私は純粋な"光"と"闇"を持ち合わせておる。どちらが多くても、少なくてもいかん。
バランスが崩れると、私の中から飛び出して、周りに悪影響を及ぼすのだ。世界を破滅に導くような恐ろしい力を兼ね備えているからだ』
ここで、威厳があれど優しそうだった名も無き者の顔が一変して、深刻な表情になった。
『だが、死者でない者が混じってしまったのだよ。約五百年前に』
一体誰だろう。第一、生者がここの世界に入って死者となるのだ。
死者の世界に入って生者である者はいないはずである。
しかし、約五百年前といえばあの事件だ。
何かおかしな事が起こっても、不自然でない気がする。
『そして、出てはいけない"闇"が私の中から飛び出した。生者の世界に』




