~真実と偽りの章~ウロボラズ外伝
岩棚からの風が、頬を撫でる。
ザミアが僕らの世界に来ることを同意した後、私達は開戦時の話をしていた。
*
捕らえられた僕はまず、ザミアに戦争に参加する理由を聞かされる。クライトの話だ。
すると、強制的に町へ入れられた。
「おいザミア、遅かったじゃねぇか。……あ、クライトはどこだ?」
町に入ったとたん、こんな言葉を誰からも掛けられる。
「殺したよ」
訊いた人に対して、端的にザミアは答えた。いつもとは違う冷酷な目に町の人はたじろき、僕達の周りから遠ざかっていく。
「早く行くぞ」
ザミアが向かって行っているのは、テントをいくつも重ねて巨大化させたような場所だ。
そこにお偉い様がいるらしい。
僕達から少し離れた所では、あちこちで騒ぎが起きていた。
何度も助けを求める叫び声が、途切れるのを聞く。
国王が「人殺し」を町に入れた為の騒ぎだろうと予測できる。とはいえ、町の人は最低限の判断力と平常心をとどめていた。
だが、それは圧力政治に対しての反応だ。
町の人は生気を失ったように立ち尽くしたり、座り込んでいる。
政治など、信用ならない。
誰も守ってくれない。
こんな世界に喜びは無い。
現実感をなくしているような表情から、そんな心の声が聴こえてくるようだった。
自分の事、自国の政治に関心をなくしてしまった場所ほど悪いものは無い。
反対意見を押しつぶしてしまうのは、危険な土地の証拠だ。
そんな事を考えていると、積み上げテントの場所に来ていた。
戦士になる為に来たであろう「戦闘狂」が溢れ返っている。僕達は、なんとなく溶け込めずにいた。
殺気だっているのに、誰も殺さない。不思議な力に抑えられているようで、ねっとりとした空気が流れていた。
すると、ある背の高い男に声を掛けられる。
「あんたら、自分は人殺しじゃないって思ってんだろ。オレらの醜さをみてな。……だがな、残念ながらオレらとあんたらは同じ仲間なのさ」
彼は高らかに笑いながら仲間のもとに戻った。
吐き気がしてくる。ザミアは顔が土気色に変っていた。
僕達は少し人から離れた所にある、石垣に腰を下ろした。
何故こうまでしてザミアは戦おうとするのだろう。
その疑問を解く間もなく、テントの奥から三人の人が出てきた。
恐らく中心が国王、左右は護衛だ。
彼らに気づいた前方から、だんだんと静まっていく。
石垣からは、全体がよく見える。
大型屋台が一つ入る幅ほどの道が、積み上げテントの正面にある。
その道が全て殺気と殺人鬼で埋まっているのだ。
国王らしき人物が、片手をあげた。
「諸君、よく集まってくれた。この町の周りは荒地だ。そこを超えてやってこられたのだから、諸君の力は並のものでないと確信している。だが、こんな小さな町では全員を養うことはできん」
ざわめきが、人々の間に走った。
だが何かが違う。驚きではない、理解出来ていない訳でもない……期待だ。
「諸君には、これから戦ってもらう。生き残った者だけが戦士としての人生を得られるのだ」
雄叫びが、戦闘狂からあがる。しかし、地獄の底から叫んでいるように聞こえた。
「なるほどな」
ザミアが呟いた。
「あれは良くできたニセモノだ」
僕はどういう事だと、ザミアの方を向く。
「変装でもしてるんじゃないか? 国王の雰囲気も話し方も変っている。あいつが国王を殺して、それに成りすましているんだよ」
「目的は?」
「さあな。人殺しグループのリーダーだったとすると、新しく殺し場をつくる為なんじゃないか?」
最低だ。それ以外、何とも言えない。
「おお」
と人殺しの間から声があがる。
前方の数人が倒れているようだ。
「国王の許可なく入るテントに入るとはな。確かに殺し合いの会場はテント内だ。……まあ良い。皆、テントに入るのだ。入った瞬間が戦いの始まりだ!」
そうして、僕達もテントの中に入った。
あまりの雑踏に、ほとんどの事を覚えていない。
ただ、人の死体の上に、また人の死体と積み上がっていた。そして、その上に僕達を含めた数十人が立っていた事は覚えている。
*
そんなことを、振り返りながら話していた。
「正義が変わっていった。殺さない事から、人殺しに。お前らの世界は、変わらないのか? 正義が」
ザミアは岩に背をもたせかけながら訊いてきた。
奴とはかなり長い間過ごしてきたが、未だに謎な部分が多い。
例えば今回のように、他者の痛い所を見事についたい質問ばかりすること。
「変わるよ。ちょうど、君が来た頃に変わった」
僕は、あの事件について語り出した。




