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ウロボラズ外伝1 竜の仮面  作者: Lightning
真実と偽りの章
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~冒険~グラジオラスとザミア6

僕は翼を広げて、岩山の渓谷部分にさしかかる。

硬い岩にぶつかって混ざり合う風は、僕をゴミくずのようにあしらった。


さて、ザミアはどこだろう。

翼を左右に反転させながら、奴を探す。着地まで時間があるとはいえ、せいぜいあと十秒。


世界が終わるとは、どういう事なのだろう。

全てが白紙になってしまうのか、はたまた漆黒の闇へと化すのか。

どちらにせよ自分もその一部となり、ドラゴンの姿で残る筈がない。


一度でいいから、僕は会いたいんだ。

ドラゴンの姿で。


そんな時、黒い軍服に身を包んだ奴が視界に端を縦に切った。


奴は既に岩山から落下ポイントまで半分以上をいっている。


僕はその姿を見るや否や、首をうねらせるように下へ向けて急降下した。

目標からずれないように翼を畳んで回転しつつ、加速する。


残り三秒。


ここで失敗すれば、残るのは死だけだ。

いや、そんな事は無かったりするんじゃないか。


__夢と大きな負担が入り混じる時、我々は知らず知らずのうちに逃亡思考になる。

つまりは過信だ。何の根拠もない過信。__


あと一秒。


でも僕は、無意識のうちに入り込んだ悪魔を追い払った。

というより、何も考えずにただ手を差し出す。


トン。


人差し指側の親指の付け根にある柔らかい部分で、僕は奴を受け止めた。

奴は弾くように舞い上がり風に煽られたが、そこを上手く拾う。


僕は直ぐに洞穴に戻ろうとした。

いくらドラゴンであっても、この風にいつまでも晒されるのは危険だ。

奴が何をし出すかわからないのだし。


ふと見ると、奴は降参だとでも言うようにされるがままで手の中に収まっている。


「さあ、戻ろうか」


僕は二度とあんなふざけた事をさせない為に、入り口を塞ぐよう腹這いになった。


「うるせぇ。き、貴様……てめえに触られたくねぇんだよ。何なんだよ」


確かにそうだ。ドラゴンの姿で脅して拷問していると言われても、僕に反論の余地は無い。

それに、あんな過去があるのだ。もし僕だったら、同じ事……いやザミアより酷いものだったろう。


「僕は君の過去を知っているんだ。だから言ってるんだよ」


顔中を恐怖に歪ませて、ザミアは逃げ場の無い奥へと後退く。


恐怖。それは心が無くては生まれないものだ。

奴は今まで、こちらが恐くなってしまう程無心になって殺しをやっていた。


可能性。僕の脳裏に浮かんだ言葉はまさにこれだ。


僕は止めというように、言い放った。


「僕は知ってるんだよ。君が心を持っていた事や、クライトがいた事もね」


「てめえは何がやりてぇんだ。オレを苦しめる事か? てめえも、どうせそんなモンなんだろ。復讐にあえぐバカなんだろ」


その瞬間、僕は何かから突き放された。

故郷に帰る。目的はあった。

でも、次第にザミアをあっと言わせてやりたいと思っていたのは確かだ。

人間の愚かな戦争につきあわされて、僕はそんな事する必要は無いんだって教えたかった。

なのにいつの間にか、人間を見下すだけのものになっている。


僕は人間をバカだと無意識のうちに思っていた。

そんな奴になりたくなかったのに、なっているのだ。しまったのだ。


「自分が正しいなんて思ってたろ。最初はそんな気なかったって思ってるだろ」


聞きたくない。

違う。バカな奴の言っている事だ。まともに聞いて、取り合う必要なんて無い。


バカ? 自分の頭に浮かんだ言葉を疑問に思う。

だがそれは反射的に否定された。偶然だ、奴とは違うのだと。


「最初っからなんだよ。お前は自分と少し違うだけで、自分に合わせないとダメだって思ってんだろ。え?」


何かが音を立てて崩れて去った。

崩れていない。僕は前から変っていないと思っている。

だが、もう一つの自分がいるのなら奴はこう言っていた。


「無理矢理、信じ込ませているだけだろ」と。


「お前はソックリなんだよ……あのバカ国王にな」


もうダメだった。どれが自分の意思なのかわからない。

国王のようにはなりたくないという無意識の気持ちが、今までの気持ちを壊した。


最低な悪い奴だと言われたら、それを否定する。

自分の考えが正しいのだと信じる。

僕は最初からいい事をしているのだと。


でもそれが最低な国王みたいだと言われたら?

僕は国王のような奴と言われた方が辛かった。

今までの考えを捨てざるを得ない。


「わかったよ」


僕がやっと絞り出せた声はそれだけだった。


「でも君だって、殺しを楽しんでたんだろ」


「もっと最悪だって言いたいのか」


ザミアにあった人間らしい行動は消えていた。

また殺人鬼の頃に戻っている。


「君は取り戻したくないの? あの頃を」


奴は地獄から這い出してきた者のような恨む目で僕を捉えた。


「もう消えたんだよ。無理なんだよ。てめえはオレの生きる道を全部潰したんだ」


もう何を言われようとひるまない。

素直に、気持ちをぶつけるまでだ。


「自分がした事も覚えてないのか。お前は、クライトの中にドラゴンを閉じ込めて、クライトを長生きさせたんじゃないのか? 別の空間に送ってまた会えるようにしたんじゃないのかよ」


僕は更に言う。


「無意識にも想ってるんだろ。あの頃としか言ってないのに、すぐわかったのは何でだい?」


だから触るなって言ったろ。

オレの中で怒りがふつふつと湧き上がっていた。


こんなに体中が震えるだなんて、久しぶりじゃないか。全部奴のせいだ。


「君はクライトが好きだった。平和であった時代の話だ」


奴は立て続けに言う。


「なのに殺されたんだ。戦争の幕開けに」


殺してしまったんだ。

オレは助けようとして、別の場所へ一緒に逃げた。そしたら、撃たれたんだ。

オレのせいで、あいつは死んでしまった。


既にオレは人を殺したんだ。

そして、殺しまくった。


「君は変ったんだよ」


__戦争は人を変える。__


「もう一回変って戻ればいいじゃんか。き……」


「黙れ!」


オレは全てを掛けて言った。

ただほんの少しの静寂だけを求めて。


だが、空虚な風だけは誰の指図も受けずに吹き荒れた。


オレの髪についた、血の染み付いた砂が吹き飛ばされていく。


「どうせ、オレに選択肢は無いんだろ」




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