~冒険~グラジオラスとザミア2
今回はとっても下手な恋愛描写だと思うので、そこは目を瞑って……。
しかも、単純すぎるだろ!
とツッコミを入れたい位わかりやすいだろうな。
注意)ラブラブカップルさんは回れ右。読む場合は覚悟して。
とはいえ飛ばすと追いていけなくなるので……。
__ザミアはこの時まで、彼女の事をきっかり忘れていた__
「クライト」
僕は名前を消え入るような声で呼んだ。あいつは、にこりと笑って返してきた。
ここは町から遠く離れた花園。その間には砂漠が広がっているため人はあまり立ち寄らないが、そのお陰で美しいままとなっている。
もちろん、町も活気のあるいい場所だ。たまに、キレやすい屋台のオッちゃんがいるのが難点だけど。
__これは、ザミアの過去。彼がまだ、メサイアだった時代の話だ__
僕達はお気に入りの小岩に腰をおろす。ここでいつも呑気に話をするのだ。
「ねえ見た? 今日……」
クライトが話し始めたその時、突如僕達の頭に闇が降り注いだ。
逆光で真っ黒になったその物騒な巨石は、投石機から放たれたものであった。
何も考えていなかったが体はとっさに動き、クライトを拾って横っ跳びにかわす。
苗木並の小さい枝が折れる感触が背中に伝わり、着地した。
「いでっ」
枝にぶつかった反動で、クライトが跳ねて顎が僕の胸に直撃した。そして僕の腕を下敷きにしている。
クライトが目をぱちくりさせて、起き上がろうとした瞬間。
何かが抜けるような音がして、頬にねっとりとした温かいものが付いた。それが左手にも纏わり付き、鉄臭い臭いが拡がる。
途中まで起き上がっていたクライトは、また僕の腕を下敷きにしていた。
何が起きたのか全く見当がつかない。はっとしてクライトを腕に抱え、腰から上を起こす。
僕の左腕は震えていた。クライトが気を失って、重いからじゃない。信じ難い恐怖に見舞われたからだった。人が消えるかもしれないという、非現実のようで誰にでも起こりうる事の恐ろしさ。あり得ないと思っているのに、僕の脳裏をよぎった言葉は死だ。それに尽きる。
更に左側。つまり、クライトの血の先を辿った所からざわめきが聞こえた。笑ったりしている、悪ふざけのガラガラ声。
僕は言うまでも無く、そっちを見る。
花畑の終わる辺り、二人の黒っぽい服を着た奴らが黒い棒を持って振り回していた。
僕はそれが何か知らない。でも、それがクライトの気を失わせたものだってわかる。
僕は無意識にクライトを地面に捨てるように置いて、着地で折れた鋭い枝を持ち、そちらに走った。草が紅く染まって、クライトがその絨毯に埋もれているのを目の端で確認しながら。
クライトが居なくなってしまうかもしれない。
それだけの事が、自分がクライトのようになってしまうかもしれない死の恐怖、人を殺しに行こうとしている恐ろしさを追い出していた。
あの敵まではそう距離が無い。花々が虹のように流れて行く。
「な? おいあのガキ……」
黒い棒を持った奴が喋り出した時、僕は鋭い枝切れをがむしゃらに投げつけた。
棒切れは水平に風を切り裂き、縫って、ただ敵の血を求めて突き進む。
ぐさりとあの抜けるような音がしたが、奴の血は出ない。しかし奴は、自らその枝を引き抜いた。すると血飛沫は弧を描いて彼方へ消えていく。
あいつは、これから死体になるであろう者を捨てて町の方へ駆け去った。
僕は、膝からガクンと倒れていた。
人殺し。
この町で、最も諌められる事。そして、人殺しはこの町で生きていく事を許されない。
人殺しの恐ろしさ。
自分が他人のようになってしまう怖さ。
生きる場所を失った孤独さ。
とぼとぼ歩いて、クライトの居る場所に行く。もう拒絶なんてできなかった。クライトは動きもせず、冷たくなっている。どうせ、何も残っていないのだ。
そう。
この時初めて、取り返しのつかない事をしてしまったと知った。
クライトも居ないのなら、僕は何所に行けばよい。
僕はぼんやりとした空間を通った。
現れたのは、奇跡的に残った花畑の蝶。
一匹の空色の蝶を追い駆ける。僕は蛻の殻の状態で、クライトの亡骸を手に、憑かれたようにそれを追った。
あの蝶は、クライトが好きだったものだ。僕は殺しをしたのだから町から追放された身になる。
だから町に入れず、一緒に居たクライトも「穢れ者」としてその土地に踏み込む事を許されない。
埋葬をする事など不可能であった。そこで僕は、少しでもいい所にクライトを置いていく計画だ。
その後は……考えていない。だが、かすかに思い当たる節もある。
平和を守る為の絶対の掟。それは、人殺しを徹底的に追い払う事であった。
クライトはあの明るい性格もあって、町の人気者だ。
そんな彼女が居なくなって気付かない者が居るだろうか。
真っ先に僕は疑われる事だろう。
そしてすぐさま厚い門の外へ放り出され、二度と戻る事は無い。
でも、僕はあの石と黒服人間の事を知りたくて、事実を隠して門外の町人に聞いた。
すると彼は、苦い顔をして答えたのだ。
「ああ。戦争が起きちまうんだってよ。国王様が急に血相変えてな、隣の国へ進軍するっていうんだ。まったく、戦士の募集までしてさ、しかも募集した戦士同士を戦わせて勝った者だけを採用。死ぬまで戦かわせるとか言い出したんだぜ」
更に町人は指を立てて静かにと合図すると言った。
「人殺しの追放令も解除されたらしいんだ。軍隊に入る場合だけな。おかげで外国の奴らや追放された奴らまで戻ってきやがったんだ。勿論、悪さをすれば軍隊に入れないから大人しくはしてるが、ちっちぇ子供は泣くしよ。ったく、こんな時にクライトが居ないなんて、暗くなっちまう一方だぜ」
僕はあの黒服人間を殺しただけでないと、この時考えた。
僕が無理矢理引き込んで石から避けたせいで、クライトは撃たれてしまったのだ。
そして、僕が黒服人間を殺したからクライトは二度とこの町に戻れなくなってしまったのだと。
僕らの楽しさに影が差すように石はこちらを包んだ。その石は戦争を報せるものだったらしい。
投石機という機械で、長距離まで巨大な石を投げ飛ばすものだ。
何の前兆も無く、現れた戦い。王は「花など下らない」と言ってここに石を落としたそうだ。そしてクライトを殺したのは、銃という兵器であり、石の落下を見届ける係の者だったらしい。
戦争さえ無ければこんな事にはならなかった。だから、僕は軍隊に入って敵を倒すのだ。
クライトを殺した奴らと仲間になるというのは気兼ねが差すが、そうする他飢え死に以外選択の余地は無かった。
クライトも死んでしまったのだから、自分も一緒に死のうかと思ったのだ。だが、僕は戦争を止めてやるという半ば勇者の気分もあった。
気付けば、大きな鏡のような湖に着いていた。少し暗くて、洞窟らしき場所である。
ここは見えない何か(・・)があるような気がしてならない。それは、風が吹かない洞窟にある湖でありながら、囁くような波が打ち寄せているからかもしれない。
そこで、蝶は何処かへ行ってしまった。僕は何故だか知らないけど、クライトをその湖の岸辺に横たえた。
僕は立ち去ろうと後ろを向く。もう、用は済んだのだ。僕みたいな奴が、クライトの近くにいていい訳がない。僕だって、このまま居座って死んでしまうかもしれない。
戦いに、身を投じて死ねればよいのだ。
ふーぅ。息苦しかったぁ。
ザミアってあんな奴だったんですね。
次会は、あの五百年前のある事件に迫るかな。
勿論、ザミア目線で。




