~冒険~セラフィナイトとフィーナ8
『さてと、本当の世界ですよ』
「じゃあどうするのよ」
苛立ったフィーナな声。
「倒す」
ガルドは即答した。無茶苦茶だ。
「いざとなれば、ここに戻ればいい。そう簡単には攻めらんねえ」
滝の方へ、元来た道を辿る。
「フィーナ、何でここに来たの?」
「狭間の世界からこっちに飛ばされたのよ。それで何となくここに逃げたの」
「どうやって滝の中に……」
「滝……?」
またあの重い音が響いてくる。
「本当だ。どうやって入ったんだろう。私……」
ガルドは牙を光らせた。
水の幕が取り払われ、現れたのは黒い帯。
「あいつ……」
フィーナは唸った。
「いえ、違うわ。地獄死人じゃない」
私は言った。
彼らはよたよたと歩かず、ディレーズの言ったような“人間”の姿をしている。彼らはキョロキョロ辺りを見回しながら、岩山の方へ行進していく。
私達を探しているに違いない。
ガルドが先陣切って飛び出した。
二頭のドラゴンが続き、
咆哮。
滝も応えて大きな音を出す。
不意を衝かれた敵。すなわち聖権軍は動きを止めた。
「今よ!」
フィーナが言った。
私達はここぞとばかりに、敵陣に攻め込む。しかし、上空に来て唖然となる。
さっきまで閑散としていた平野が、視界に入る限り、兵士に埋め尽くされている。
なんて無謀な事をしたんだ。今更ながら、後悔した。
でも、ガルド達は何も感じないのか、素早く攻撃に移った。
ドラゴンは二手に分れ、火炎を放射する。あの滝のように流れる熱の塊。
ドラゴンは外側から周回し、追い詰める。
ガルドは地上に降りて、逃げ延びた奴を蹴散らしている。
私達も動こうとした。その時。
無音という大いなる音を従えて、空から落ちて来る金。
セラフィナイトには見覚えがあった。
「偉い人だわ!」
皆、静止して上空を見上げる。炎に囲まれた者達もだ。
「オオオオ……。万歳。王様万歳! 勝利の栄光は我らに」
黒い帯はざわめき出した。仲間が焼け死のうと、自分が死のうと、声を巨大化していく。
あまりの音に、耳が痛い。撤退せざるを得ない。
しかし、その音は突如として消え去る。箱が着地したのだ。
人間の燃える音だけが鳴っている。
ここに居る全ての者の視線は、あの箱に注がれていた。敵は期待に満ちた目で、それを見ている。
私は悪寒が走った。とてつもなく、嫌な予感。
物凄く、強くて、繋がりのあるような力が二つ。そしてもう一つ、殺気を放つ者。
ドラゴン達もこちらに戻ってきた。
視線を戻す。すると、偉い人が出てきていた。
血。
最初の印象は、それだった。
黒が混じったような赤。翼は羽ではなく、ドラゴンのもの。鳥なのだ。人ではない。
そして、首には虹色の鱗。
『敵はワンワン喚いているようですけど、セラフィナイトとフィーナは気づいていませんね。そいつに引き込まれたみたいですね』
続いて、出てきたのは、
「メサイア!?」
いや、予想はしていた。何か隠しているとは思っていた。だが、まさかあんな悪い奴と一緒。そして、多分悪い奴味方についているなんて、思ってもみなかった。
「知っているのか?」
ガルドが聞いてきたが、思うように口が動かない。
スッ。そんな音が聞こえたような気がした。メサイアは一瞬にして消えた。
「ギャオオオウ」
代わりに現れたのは、怪物としか言いようの無いものだった。
その目は殺意に満ち、爛々と光っている。頑丈そうな鱗。
ドラゴンを優に越す大きさ。飛翔能力は無いようだが、頭は同じ高さにある。
黒い、つやつやした額。奥まで裂けた口。何重にもなる牙。毒の有りそうな細かい棘の数々。
全体としては蛇の形。
そう、メサイアの腕に描かれ、私が狭間の世界に行く寸前に見た姿。
ごてごてした鱗は、どうも未完成な感じだ。そして、カランカランと空虚な音を作り出す。優しい、物悲しい音色。
それは苦しみのようだった。
*********《人間世界》
「あっう」
「どうしたザミア」
他の部隊は行動を開始している。僕らの出幕が後とはいえ、こんな所でまた発作が起こるとは。
ザミアの顔は一気に白くなり、唇は紫になっている。何度も弱々しい力で、がむしゃらに心臓の辺りを掴んでいる。
彼はここ数年、これが発作的に起こるようになっていた。
僕としては、ソーマの木を利用した副作用だと思う。一つの世界を支え、調和している木を私利私欲に使ったのだ。これくらい当然だろう。
ザミアは見ていた。
平和な時代、野原、花畑。黒髪、深い緑の目。
戦争の幕開け。大砲、銃弾……。
ゴオオオン。
あの時と同じ大砲の音で現実に引き戻される。
「何なんだ。あの時って何だ」
自分でも無意識に思っただけだ。記憶なんてない。それに無性に腹が立つ。俺は非情の兵士だというのに。
今回、内容面でも、改稿を進めています。
重要な言葉を付け足していくので、チェックしていってください。
時間のあるときでいいですよ。
解らなくなった時にチラ見ぐらいでいいと思います。
でも、最初から読み直したほうが面白いかも。伏線が増えてますからね。
しかし、まだ途中の段階なので、何度も読み返すのは億劫でしょう。
全て改稿しましたら、また連絡するので、読み直してみてください。




