~間章~5
張り付けられて数分後。辺りが急に騒がしくなった。
「一次世界への進軍を開始する。全員配置につけ。補給部隊は準備を開始。城内外の警備は今、直ちに引継ぎを行え。繰り返す……」
さっきから、同じリズム、同じ音程で単調に繰り返されている。
音色は一つなのに、いろんな場所から同時にこの音がでている。
薄暗いこの一本道のトンネルに、この音が反響しだすと、カツッ、カツッという高らかな音がどんどん増える。
しばらくすると、金属音まで鳴りだして近づいてくる。
この張り詰めた空気……見つかったのか?
心臓が大きく拍動する。動いているのが直に見えるくらいだ。
僕は装飾品だぞ。動く訳がない。見られたらマズイ。ガルドはわざと僕を置いていって殺そうとしているのか。
考えが定まらない状況とは、本当にイライラするし、怖い。
なら考えを決めてしまえ。と自分に言い聞かせる。
よし、僕は動かない限り死なない。
自己暗示みたいなものだ。でも、効果はあった。だいぶ、心臓がおとなしくなってくれている。
僕は、トンネルの一部が窪んだような場所にいる。特別な一角らしく、ここでうるさい音を出す奴はいない。まず、誰も来ない。
ザッザッザッ……。
門と反対の方から聞こえてくる。
規則正しい、何かの擦れる音。
その音の主人は、僕の目の前に現れた。
音の主人は人間。そいつらは真っ黒な衣をまとっている。衣が擦れてザッっと鳴る。
彼らは斜め前だけを見て、こちらには目もくれない。
列を作って、歩きにくそうな歩き方をしている。
彼らは何か凄い事をしているようだが、顔はまるで死んでいる。
ザン…………。
最後に一際響く音を出して、彼らは止まった。トンネルの両端にならび、内側を向いている。
こっち側を向いている奴もいるが、上を向いていて、全く気付かない。
ザザッ。
この窪んでいる区画に入る場所にいた黒い人たちが動いた。五人位いたと思うが、壁側に避けたようだ。
何だ!?
強烈な力。今までの何にも例えられない。いや、これからも、例えられるものはない。そう悟った。
でも、例えられないかもしれないけど、何か繋がっているものがいたような気がする。
そして、知っているような。
さっきの倍ほど心臓が暴れる。そのまま突き抜けそうだ。
ザッ。
横に避けていた人が動いた音で、現実に引き戻される。
目の前に現れたのは、またまた煌びやかな箱。
灰色の人間がそれを支える。
ここで新たな気配がやってくる。これは記憶に新しい。森で駆け回っていた少年だ。
箱は下ろされて、サーッと鳴る。
ペタッ……。ペタッ……。
素足の音。肉球のある生き物の足音を拡大すると、こんな感じだ。たぶん、少年のものだろう。
カシカシッ。
鳥! この足音、鳥に違いない。
ズーッ。
さっきのサーッという音と同じ。でも、この箱で起きたらしく、振動がそのまま体に伝わる。
少年が乗り上がったらしく、壁側に少し傾く。
次にはバサバサという重たい音がして、あの力の塊が乗り上がった。
掴まれるような感覚。分厚い板を通り越して、視線がきている。
縛られるよう。心臓までも固まっている。
思考も停止している。
ハアッ。
急に放たれた。
同時に箱が浮かび上がる。独りでに。
列の中心に向かって、その箱は動き出した。
本当の世界のダークホールへ。
********
『ここは狭間の世界のようですね。あれあれ……?』
『フィナイト』
……………………。
『セラフィナイト!』
驚いて目を開ける。
何だかボヤボヤして回っている。世界が……回っている? 私が回っている?
しばらくして、周りはピンクっぽくて、何かいるのがわかってくる。
でも、いないような。
『セラフィナイト、私が判りますか?』
…………。
ただ何も考えず、ボーッとしている。声を言葉として受け止めず、ただただ聞き流している。
『エレス……チャル?』
『そう。真実の世界はどうでしたか?』
『どうでしたかって……えっ…………?』
ここは紛れもなく、狭間の世界。
『真実の世界と偽りの世界は、普通入れないのです。入れるのは、心だけです』
言っている意味がわからない。
その様子を察して、エレスチャルは右手を挙げた。
すると、四つの球が現れた。
『あなた達は、元々この世界にいました』
私から見て、右から二番目。覗き込むと、塵は降っていないけど、真実の世界のような暗さをたたえていた。
『最近は本当の世界と呼ばれています。あと、絶対に球に触れてはいけません』
球のまわりに、黒い渦が巻いている。
『最初は素晴らしい世界でしたが、戦いが起きて、力が弱っていたのです。何か悪い事が起これば、一気に崩れ去る程でした』
セラフィナイトは答えた。
『起こってしまったのね』
エレスチャルは肯いた。
『その頃から、力のある者達が、新たな世界を作り出しました』
左側の二つをエレスチャルが指した。
偽りの世界と真実の世界。
『辛い現実から逃げ出そうとした結果、歪みが生じたのです。心は偽りの世界などへ逃げられますが、体は本当の世界に置いたままです』
私は? そう、目で訊く。
『あなたは……。ここ、狭間の世界にいます』
エレスチャルは最後に、右端の球を指した。
『人間世界と言います』
何か説明してくれると思ったが、エレスチャルは何も言わなかった。
私に向き直り、言う。
『あなたは、これから本当の世界に行きなさい。フィーナとガルドが待っています』
ガルド…………?
『五百年前の真相を暴きなさい』
エレスチャルは消え、私はまた別の世界へ放り出された。




