~間章~4
『所変わってガルダ達の話』
「これについて行くの?」
「クソイカレ頭コンコンチキ。あったりめえだ。この牛車はたぶん城に向かってやがる。オレらはつくづくタイミングがいい」
僕達は今、周りの人に見えなくなる魔法が掛かっている。
そして、牛車を目印として使っている。
偶然にも、道がわからなくなった時にこれが現れた。
「よく聞くんだぞボケナス。あの城に居座ってる王様がいる。奴はとんだバカだが力は強ええ。オレ達じゃあ、そうそう太刀打ちできねえ。いいな」
どうやら、この魔法は声も聞こえないらしい。
僕は頷いた。
「ここは真実の世界だが、奴も元々は“本当の世界”の奴だ」
本当の世界から、こちらへ移ったということだろうか。
「バカ、ボケ、大概にしろ、ジジイ級の頭の回転の遅さ。本当の世界でも、奴は力を振るってた。その頃も力があったが、今程じゃねえ。んで、オレらは今のうちにぶっ倒そうっつってな。倒そうとしたんだ」
たまにはガルドもいい事するじゃん。と感心する。
「あいつを瀕死の状態までやってやったんだ。でも、瀕死は演技だったんだ」
ぽけーっとした顔をすると。
「くそったれ、どアホ、ボケ、ぼんくら。あいつは長期戦になれば自分が不利になること位読んでた。んで、死にかけのフリして、オレらが油断した隙にだ。有り余る力で、この真実の世界とやらを創りあがった」
どっか行ったならいいじゃない。と思った。
僕の表情を無視してガルドは続ける。
「真実の世界は、世界の悪い事実だけを引っ張ってきてんだ。そして、それで軍隊を編成。昔以上に強い勢力で、こちらに攻めて来ようとしている」
「それと戦うんだね」
「アホンダラ。聞いててわかんねえのか。真っ向勝負して敵う相手じゃねえ。だから、てめえを連れて来たんだ」
ガルドが言葉を切った。
前方には、土をそのまま固めて作ったような洞がある。
「ここの人間の家だ」
「ニンゲン?」
「バカ、クソ、雑魚、脳なし、アホ。ここは、いろんな世界の悪い事情を引っ張ってくるっつったろ。だから、ニンゲンってやつらの住む世界とも繋がってんだ」
ガルドは家の周りにいる生き物を指した。
あれがニンゲンというのか。何か辛いことでもあったのだろうか。
すると突如、その人間は走り出した。
キィイイン。
甲高い、金属の音。
人間は相当な長さの刃物を持って牛車に走る。
牛の鳴く声。
人の喧騒。
揺れる牛車。
車輪のきしむ音。
あの騒動の後、僕達は牛車と別れて右側門に行った。
ちょうど出兵の時で、門は開けられていた。
姿は見えないわけだから、すんなり入れる。
「いいな。てめえは、これから本当の世界に出兵する隊に紛れ込むめ」
意外にも内部の警備は薄い。もともと侵入者が入るような設定にはなっていないのだろう。
両壁には先程の人間が持っていたような刃物が、整然と並べられている。
血の跡も無いが、生々しさや殺気が漂っている。
ガルドは箱のような物に近づいた。
きらびやかで、威厳のある装飾。
それにガルドは牙を立てた。赤い百舌の部分。しかし、ガルドの牙はそれ程丈夫ない。
「くそったれ」
ガルドは尾でそれを打った。
ピシッと気味のいい音をたてて、バラバラと砕けて落ちる装飾。
「何事だ? あっちだ。確認急げ」
「畜生。ウザってえな」
ガルドは牙を青く光らせた。
すると、僕達以外のものはユックリと動く。なんだか見てて面白い。
「ボケっとすんなバカ。王様っつうアホは強力な武器を持ってやがる。そいつは絶てえ倒せないから、撤退に持ち込ませるしかねえ。てめえは百舌の代わりに貼り付いて、合図を出したら攻撃を開始しろ。補給物資と援軍を絶つんだ」
そう言っている間にも、僕は百舌のいた場所に貼り付けられた。
「ちょ、ちょっと待っ……」
ガルドは門の外に逃亡。姿を消した。
同時に魔法も切れる。
「あれ、何してたっけ?」
何を言っているかは知らないがのほほんとした雰囲気。助かったみたいだ。
それにしても僕、いつまで貼り付いているんだ?
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『またまた、新しい登場人物……かな? ここは何世界か教えてくれって? それは、君たちの方がよく知っているはずだよ』
「ん?」
グラジオラスは起きた。
テントの隙間から日が射し込む。
今日はなんだか早起きのようだ。いつもなら、軍の中で一番最後に起きる。
横で音がした。
「お前もか」
ザミアだ。僕とザミアで特務部隊を編成し、活動する。
体がいつも以上に軽い。
「なあ、お前の魔力も薄れてきたんじゃ……」
「黙れ」
ザミアは狂気して、銃口を突きつけてきた。
「わかった。……わかった」
手をあげて、降参を示す。
あの時から、もう少しで五百年。その時僕は、突然人間世界へ行く事になった。
ここは人間のいる世界。通称、地球。
ここは戦争が絶えない。僕らも兵士だ。
「いよいよ最終決戦ってやつだな」
僕はボソリと言う。




