~間章~3
ドガッ。
人を殴った時の重い音。これでボーっとしていたクライトもハッとする。部隊はこちらに迫っている。
先行部隊の偵察兵をメサイアが殴り倒していた。
殴り倒した兵のバッジを見てメサイアは驚く。
『侵攻部隊のだよ。挟み撃ちになる』
『あっ言い忘れてた。ここからクライト目線ね』
ダークホールは常に移動している。そのため、それに伴って侵攻部隊も移動する。
「おい、掛かってんじゃねえか」
巡回隊長の声。罠は確か城の反対側にもかけられている。そこの罠は逃げ道を城側に絞ってある。
ということは、北から常留部隊。西から侵攻部隊がやってくる。
『クライト、合流してるよ』
罠のある辺りに黒い帯と人の波。合流してしまったようだ。これなら、合同で襲われる事は無いだろう。
「いたぞ、そこだ。何か引っ掛かったのに逃げあがった」
灰のような葉に白い光が垣間見えた。
『逃げるぞ』
右手を引っ張られると、ざらざらとした馴染みのある麻の布に触れた。
『油断しすぎだよ。今日は異様にボーっとしてるけど』
得物が逃げるとしたら、こちらの方角しかない。得物を追いかけて常留部隊が来るのは間違いないのだ。
私達はしばらく地上で逃げる。
この一帯は、木に罠があるからだ。しかし、地上は弓などで狙われやすい。この辺りを抜けるまで、かなりの危険がある。
しかし、あの白い光が気になってならない。少し後ろを振り返ってみる。
キラリ。
目に入ったのは、白い光ではなく、群青の光。
そして、それはこちらに近づいて来ている。
近づくにつれ、姿がわかってくる。蛇。蛇が飛んでいる。
後ろには赤い鳥。
私はまた無意識に止まっていた。
ロベリアから悪意の気配が漂う。
『メサイアを捕まえさせるわ。フフフ……。ガルドの目印にするのよ』
ガルドはおそらく、蛇の事だと直感した。しかし、蛇はこちらの事を気にしている気配が無い。むしろ、気づいてないのか知らないのかだ。
「メサイア!」
思わず私は叫んだ。
メサイアを使おうとしている。何をしようとしているかは知らないけど、彼を拷問にかける場所。悪魔の住まう城に連れていこうとしている事は確かだ。
心の声はメサイアに聞こえていない。伝えなくては何か悪い事が起こる。
メサイアはずいぶん先を行っており、戸惑った様子で振り向いた。
「あの女が来た。あいつを殺せ! その馬はいい。あいつを殺せ」
横には血の池を創りながら進む白い馬。いや、ユニコーン。
『そう、これは罠だったのである』
ロベリアはクライトがメサイアのことを好きだという事位重々承知していた。それを利用したのだ。
クライトはメサイアに危険が迫っていると聞けば、すぐさま伝えるだろう。特に焦っているとくれば、大声で知らせる。
そうすれば、メサイア達を追いかける常留部隊は彼らに気づき、メサイアを捕まえるだろう。
メサイアは敵に気付かれたことを瞬時に悟る。
「さっきから、一々一々何なんだよ」
メサイアの周りから殺気が迸る。もう誰にも止められない。王様を除いては。
クライトは諦めてメサイアを追い越し、逃げた。
ポイントを越えて木に登り、飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ。
眼下にあのユニコーンがいるが、構ってられない。
急いで侵攻部隊のいない方角に逃げる。
隠れてから見えた景色は恐ろしかった。
メサイアは気絶している。あの力を使うと、力の限界に達した時気絶する。酷ければ死。
ユニコーンも手荒な兵士達に担がれて、森の外れの牛車に運ばれている。
それにしても、さっきの蛇と赤い鳥は何だったのだろう。
赤い鳥は首に虹色の鱗がついていた。ただ者ではなさそうだ。
メサイア達を押し込めた牛車はゆっくりと進み出した。
大蛇は姿を消していた。彼らからは、ただならぬオーラが感じられた。姿を消す魔法でも使えるのだろうか。
クライトは牛車の行く末を見送った。




