~間章~2
透明な世界。匂いも何も無いその世界は、異様な空気が漂っている。
『真実の世界はあちらだ』
エレスチャルが横に降りてきて、指さした。
「ガルド、あっちだって」
「フン。生意気な。てめえはオレの尻尾をくわえてろ。別世界に移った時に衝撃が大きいからな」
心配されているのか?
裏があるのか?
尻尾をくわえると衝撃がやわらぐのか?
「バカクソったれ、脳足りん。衝撃で離ればなれになるからだ。真実の世界は危険なんだ。偽りの世界みたいに、吞気に捜し回ってなんとかなるってもんじゃねえ」
「僕、捜した覚えない」
「あったりめえだ。オレ様が捜した。てめえは捜された。発見時、てめえはボーッとしてた」
しかし、ガルダはガルドの怒りを他所に
「じゃあ心配してくれてるんだね」
と言った。
エレスチャルの言いつけで大人しくしているだけかも知れないけど、そろそろ信用してもいいと思う。
だが、予想に反し、ガルドは僕をじーっと見て言い放った。
「忘れんな。てめえはオレ達の駒だ。オレ様の役目は、ある場所にてめえを連れていくことだ。それまで死なせないようにって言われてんだ。わかるか? 真実の世界でバラバラになって死なせちゃいました。なんて言うわけにゃいかねえんだっつうの」
言われている。オレ達。どこかの命令に違いない。僕は何処へ……。
そして、それ以上に駒という見られ方。誰にも構われない。別に消えたって、死んだってしらない。そんな扱いがつらい。
また、あの頃のようになるのか。
何もできない雑魚として何所かに閉じ込められるのか。
今度は、ガルドの仲間だ。ガルドに命令できるような奴の場所だ。
偽善の優しさだって、欠片も無いだろう。
何の為、何の為に抜け出して、こんな偏屈蛇と旅をしているんだ。
ガルドは先に進もうとしている。
『思い出しなさい。あなたの意思、考えを』
頭痛…………。
満月の夜。金属音。メタル・バット・ビーストの喪失。三頭の空飛ぶ生き物。
『ガルドは魔法であなたの考えを操作した。あなたは雑魚などではない。自分で気づいていないだけ』
エレスチャルは消えていった。それと同時にガルドに依存する気持ちも薄れていく。
ガルドは敵かも知れない。利用されているかもしれない。そして、裏にある大きな陰謀。
時が来るまでガルドとは共に行動しなくてはならない。ガルダはその時が近づいていると感じていた。
決意を新たに、ガルダは尻尾に噛み付いた。これでもかとばかりに。
********
『さて、この物語に新しく登場する者達の話だ。何処にいるのか想像して読んでくれよ。あと、いつの話なのかもな』
『クライトだな』
自分に話しかけられた!?
私は心の声を使える。その心の声が私の意思に反して喋った。しかも私に。
『誰なの?』
『私……か。私はロベリア。ドラゴンだ』
ここは真実の世界。暗い森。常留部隊の巡回時間のため、今クライトは木の上にいる。
クライトは容姿端麗な女の子。黒髪をそのまま垂らしている。優しそうな、深く澄んだ緑の目。逆卵型の顔。筋の通った小鼻。
しかし、ワンピースの服に隠された背中と左胸には凶弾の痕がくっきりとある。心臓を突き抜けているのだ。
普通なら死んでいる。そう、死んでいるのだ。
歳は十五から十七に見える。しかし、実際にはそれ足す五百年。とある事件によって長い寿命を手に入れてしまう。それにより、長きに渡る苦悩に悩まさせる事となった。
そして、ロベリアというドラゴンはクライトの中にいる。
『どういう事?』
『お前なぞに教える価値はない。どうせ、あと数日でお前の意識は途切れる』
ロベリアは意識を遮断した。
クライトは木の幹に背をもたせかけている。城なんか見たくないんだろう。私達は城に背を向けている。
『クライト、まずい援軍だ』
メサイアが連絡してきた。ロベリアはそれをクライトに言う。ロベリアはクライトの心の代わりとして扱われている。
クライトは立ち上がった。
「何?」
とてつもないプレッシャー。左前方……地獄死人が別世界へ進軍しているところだ。
ここ最近、力の弱ってきた偽りの世界には“ダークホール”世界の穴が空いていた。
世界の力が弱ると、ダークホールが現れ、徐々にその世界は削り取られていく。
それを、王様は見逃さずに地獄死人を投入。支配を目指している。
「フハハハハ」
ロベリアは思わず笑った。誰にも聞こえない声で。
この雰囲気、間違いなくガルドだ。そして、引き連れているのは、四つの翼の一つ。…………メルケーンだ。
間もなく、ロベリアの予想は当たり、群青の蛇と赤い鳥が現れた。
「約束通りじゃない」
ロベリアは感心したように言った。




