~冒険~セラフィナイトとフィーナ2
「ウオオオオオ……」
唸り声。遠くだが近づいて来るのは確かだ。
『くっ……』
「クライト……!」
全員同時に叫んだ。クライトは空中に浮かばず、地面にぐったりとなっている。一番近くにいたスピネルが様子を看るが、すでに気絶していた。
三頭は後ろを振り返る。荒野の真ん中から黒い帯が広がっていた。それはまさにクライトの話と同じ。灰で黒くなり、血で赤く染まった者達。奴らは何も無いこの大地を、また血で染めようとしていた。
「許さない、許さないんだからぁ!」
クリュは目を閉じて翼で自分を覆った。白いオーラが作り出される。クリュが翼の中で目を開けた時、大軍は空に舞い……散った。
クリュは恐る恐る翼を開く。
クリュとスピネルの使う不思議な力。これは、彼女らの意識とは別に自然に起こる。何かわからない力を持つというのは、とても恐ろしい事だ。まあ、死なないというのも、それ以上に恐ろしい事だが。
「ゴオオオウ」
空に散ったはずの黒い帯は地面に降り立つと、また雄叫びをあげて突撃を開始しようとしている。
死んでいないのだ。
絶対にこちらがやられてしまう。
逃げ続けるだけではいずれ捕まえられる事くらい、自然に生きる者は知っている。
『地獄死人か……』
「クライト!?」
回復が早すぎる。さっき絶対に気絶していたのに。
『少し動悸が酷かっただけだわ。心配しないで。それより、あの方達は燃やさないと死なないわ』
敵に向かって「方」とはどれだけ丁寧で落ち着いているのだろう。
「燃やすって、その……つまり……火をつけてってこと?」
クリュが気まずそうに言った。
『そうよ。真っ黒な世界で雇われて牢屋の見張りに居たわ。でも、たくさん居たから、偉い人の機嫌が悪いと気分次第で殺されてたわ……』
クライトはまた泣きだしそうになり、クリュが言葉を続けた。
「で、そのとき殺すのに火が使われてたわけね」
クライトはコクコクと肯いた。
火を使う生き物がいるというのか。
ただでさえ恐ろしい地獄死人を見張りとして使える者がいるのか。
クリュは、知れば知るほどに無知を自覚するのが怖かった。
それは、まだ恐ろしいものが残っている事を示すのだから。
でも、そいつらと向き合う必要性があった。
地獄死人。その名に相応しい姿だと思う。ディレーズの説明では、人間とは二足歩行をする背丈の小さな、縦にヒョロリとしている生き物らしい。肌は毛が無くてツルンとしている。サルという生き物に似ているというが、サルを知らない。最大の違いは、私達の言葉が通じず、人語というものが存在することだという。
話せないのは、つらい事だとスピネルは思った。
実際、クライトとディレーズは話せずにもめてしまったのだ。
しかし、あんな奴らとは話せない方がいいと思ってしまう。
知りたくない事まで知ってしまいそうなのだ。クリュも、そう考えていると思う。
それでも、使命というか何というか、自分をそれらに向き直させるものがあった。
二足歩行と言いながら、ほとんど四足歩行になっている奴ら。手をブラブラさせながら、時には倒れて四つん這いになりながら進んで来る。縦にヒョロリもいいところで、骨がむき出しになり、悪臭を放つ腐った肉が所々についている位だ。もちろん、肌なんて有るかどうかもわからない。どっちにしろ、絶対につるんとしてはいなかった。
しかも、人語は細かい音の高低があって、喋るときは口をいろんな形に動かすというが、音の高低無しに「ウオオオオオ」とかしか言ってない。私は地獄の詳しい意味は知らないけど、ともかく不吉な場所だって知っていた。
それにしても死人という名前がついているのだ。
最初から死んでいるから、燃やして消さない限り倒せないという事だろう。
『早く、火をつけて!』
「どうやって火をつけるんだ」
ディレーズが苛立って言った。動物にとって火ほど怖いものはない。
クライトは両手を持ち上げた。すると、何処からともなく石が浮んで現れた。茶色い、ただの何の特別な力も無い石に見える。
クライトが両手を開くと、石も離れて、お互い距離をとるようになった。
「バチッ」
手を勢いよく合わせると石は激しくぶつかり合い、火花を散らせた。
クライトは自分の体の枯れ葉を引き抜き、それを火花にかざした。すると火花は通常ではあり得ない速度で燃え移り炎となる。
「きゃあああ」
スピネルやクリュは悲鳴をあげた。本当に火は怖い。ディレーズだって、何も言わなかったけど逃げ出す姿勢に構えていたくらいだ。クライトは何故あんなに平気なんだろう。
火はクライトと同じように浮んでいた。
『どいて』
クライトはそう指示を出すと同時に火の玉を投げつけた。
ドーーーーーーン
火の玉は、やがて大きな炎の爆弾となって敵の中心に落ちた。火柱があがり、黒い帯を巻き上げて消していく。
しかし、それでも敵は減らない。確かに、さっき見えただけでも百人近くが焼け死んだ。なのに、敵はさっきより増えたような気がする。
「あれだ」
ディレーズは黒い帯が一番広がっていない部分を指した。そこには、黒い渦が巻いている。その渦から地獄死人が溢れ出していた。一体どういうことだ。地面の下には真っ黒な世界が広がっているとでも言うのか。
「狭間の世界よ」
クリュが言った。聞いた事も無いし見た事も無いものに突然出くわしたような顔を、スピネルとクライトが返す。
「スピネル。クライトは勉強してないからわかるけど、あんた昨日勉強したでしょ。エレスチャルのいる狭間の世界よ。この世界と真っ黒な世界が繋がってるの」
「クリュ……。私達、この世界の事を知ったら、すぐ旅にでるんだよね。困ってるやつ助けるんだよね」
そう、私達は森を守らなければならない。そう決めた。
だから、森を襲う元凶を絶たなければならない。
世界を知らなきゃいけない。
悪い奴を倒さなくちゃいけない。
二頭は頷き合い、駆け出した。
「待て!」
ディレーズが呼び止めるがもう遅い。二頭は敵の攻撃を飛んで避けつつ、奴らの根城へと飛び込んでいった。




