硬く脆い世界
この話は外伝とありますが、これは物語の設定上この話に出てくるものは、歴史の中では外伝に過ぎないちょっとした事と考えられているからです。
ですから、何か他の話の外伝という訳ではありません。
『全てはある者の願いから始まった。その者は神たる者に問いかける。
「我に居場所をください。快適に過ごせる空間を」
神たる者は答えた。
「空間は与えよう」
現れたのは無。
「自ら創り出せ、世界は」
ある者は飛んだ。無の空間に翼を広げて飛び込んだ』
ここは人間の存在しない世界、ウロボラズ。緑が萌え、小鳥たちが飛び交う。
その時、草むらを縫うように進む集団が現れた。トラと似たような姿形をしているが、それとは全く異なった生物だ。大きさで言えば、ゾウくらいではないだろうか。そして彼らが狩るのはシマウマなどではない。彼らの先にあるのは、硬い装甲で全身のほとんどを覆った獣だった。
異変に気づいた獣はトラのような生物——エルティと向き合う。それは目のあたりまで裂けた口を開き、のこぎりのように並んだ歯をあらわにした。エルティたちは獣を取り囲むように広がり、攻撃を始める。彼らは装甲の隙間を狙って、かみついたり爪を立てたりしていた。だが、獣も黙ってはいない。エルティの二回りは大きい体を生かして彼らを踏みつぶしにかかった。エルティたちを前脚でなぎ倒し、後脚で踏みつける。そう、ここは人間など存在できないような弱肉強食の世界である。
その時、獣に巨大な影が重なった。獣が抵抗する隙もない、空からの奇襲。それを仕掛けたのは、この世界で最強とも言える力をもつ生物——ドラゴンだった。
鋭く立派な牙やかぎ爪、そして後頭部から伸びる双角。磨き上げた宝石のような鱗の下で力強く筋肉が躍動する。ドラゴンは肩のあたりからはえたコウモリ型の翼を広げ、獲物に向かって急降下した。後脚を装甲の隙間にかけ、獣の脚を地面から引きはがす。ドラゴンはそのまま飛び去っていった。
そしてこの世界の生物は全て「四つの翼」という力の源の後ろ盾を得て、活動している。四つの翼はその名の通り、翼を持つ四者によって構成されていた。彼らはそれぞれ異なる姿と、力を持っている。
一つは夢の力を持つフィーナ。彼女は白馬に似ているが、背中から羽の翼がはえている。
セラフィナイトという癒しの力を持つ者も、白馬のような姿だ。しかし羽のような翼ではなく、ベールのような帯がそれの代わりとなっていた。
ウィーキュウは真価の力。紅蓮の体色をした大型の猛鳥で、翼はコウモリ型だった。
最後は自由の力を持つメルケーン。彼はウィーキュウより一回り小さい猛鳥で、翼は普通の鳥と同じであった。
彼らはこの世界の者に力を与え、その代わりにいくらかの命をつまびいていく。彼らと生物の関わりは密接だった。四つの翼の力はウロボラズに生きる者全てに、分け与えられている。また、この世界には生物の力を強める特別な薬が存在していもした。
まさに生物のために創り上げられた世界だ。それはまるでダイヤモンドのようである。生物たちに多少の変化はあれど、傷にはならない。だが、それは硬さの話だ。ダイヤモンドでも、ハンマーで打ちつければ、粉々に砕けてしまう。
この世界だってそうだ。ウロボラズの中で変化が起こるのには、いくらでも対応がきく。しかし、ウロボラズの外から大きな力が加わったらならどうだろう。




